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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
Special Stage
30/34

ワルツ

 ゴスロリは僕にかぶさる様に包みこむと耳元で消えそうな声で囁いた。


「ありがとう」


 この1枚の絵を見るためにこのゲームに来て、借金を抱えるとしても価値はあった。

 僕の台詞なのに『ありがとう』まで言われたらもう何も言う事はない。

10000ポイントは1億円。これはポイントや金では置き換えられない。負債1億でも文句は言えない。


 この人にはハートブレイクを一生挑んでも、絵を見せられるだけで勝つことは出来ないだろう。


「立てますか? 渡辺さん、一階で話してこのハートブレイクを終わりにしましょう」


 ドアを開けてきた丸山さんに支えられて、涙を拭うとゴスロリの顔を脳裏に焼き付けようと見つめた。

 くしゃくしゃになった笑顔で、彼女は僕の球体を優しく包みこんだ。


「これからはナオって呼んでね、優くん」


 負けたな、完全に。これは僕たち四人を救う為のアプリだったのかもしれないな。

 ゆっくり歩いて一階の席につく、全員思う事があるのだろう、心が充実しきった様に見える。

 すぐナオと丸山が降りてきて席に座る。


「まだ続けたい人はいますか?」


 丸山の問いかけは、独り言みたいに返ってくる事はない。

 しばらく間を空けて、モヒカンが弱々しい声を捻り出す。


「これがパーフェクトヒーラーかよ。確かに人生変わるかもな、誰も勝てねえ。全員俺が見た絵と同じような物を見せられたんだろうしな」


「完全ではないわ。この先の事なんて解らないし、簡単に人生なんて癒せる物ではないの。でもいつか本当のパーフェクトヒーラーをしてみたいな」


 ナオの純粋で拙い言葉が一つ一つ僕の心に深く突き刺さる。


「まだゲームは続けてもいいんでしょ? まだ諦めない人がいるよ」


 ケンジの明らかに異質な発言に、丸山は笑い飛ばす事もせず、真っ直ぐに聞き返す。


「その勇敢な人は誰ですかな?」


「渡辺だよ、この人天才だから絶対負けなんて認めないと思う」


 トゲがある言葉だが、先程の余韻で気持ちがとても穏やかだ。


「僕は完全に負けを認めるよ、自分勝手で人の気持ちも考えれてなかったんだ。ごめんなケンジ」


「え? 嬉しいけどいいの? 負けちゃうよ?」


「うん、これで終わりさ。ケンジを怒らせたのも本当にごめん、一発殴られてもいいくらいさ」


『ガタン!』


 席を立つ音が聞こえたと思うと、俯いていた左頬に激痛が走った。


「ちょっとケンジ何考えてんのよ! 本当に殴る馬鹿いないでしょ!」


 彩子の大声に、ケンジはニヒルな笑顔で手を摩る。


「これで完全に優くんと仲直りさ、一発殴れる機会なんて大人になったらなかなかないんだぞ?」


 失礼、と言うと丸山は顔を横にそらし笑いを堪える。


「仲いいんだね四人は。私も仲間になりたいな」


 ナオもクスクスと笑いを抑えている。


「だろ!? 凄い楽しいぜ! 仲間にきなよ! で、ナオは彼氏とかいるの?」


 モヒカンは上目遣いで、ナオを見る。ここら辺はモヒカンも馬鹿だったのか……。


「いないけど、モヒカンさんはタイプじゃないわ」


 笑いを引きずりながらモヒカンを切り捨てる。


「なーにが仲間だよ、否定してた癖に! まぁ3人組に1人変なのいてもいいけどさー。あと速攻でフられすぎだよ、俺の記録より早いかも」


 ケンジは立ち上がったまま、モヒカンを指差して腹を抱えて笑う。


「勝手に変な足し算するんじゃねえ! それにまだフられてねえ! ……ナオ、じゃあ電話番号くらいから」


 ナオは段々声を出して笑いだし、手で口を抑える。


「うふふ……嫌」


 ここぞとばかりに彩子はモヒカンをニヤついて見下す。


「あら、モヒカンの潰し所ね。いい口説き方を完璧な女性の私が教えてあげましょうか?」


 モヒカンは頭を抱えだしてしまった。


「なあ、そういえば勝ってたらこの先本当は何が待ってたんだ?」


 僕の言葉に秒を刻む毎に笑いが消えていく。


「ある人とハートブレイクして欲しいんですよ。それもパーフェクトだけが求められる完全な決着」


 丸山は凛とした姿勢で全員を見渡す。


「ナオちゃんがいけばいいんじゃない? 私達も必要なら協力するわよ」


「私じゃ無理だったの、二回挑戦したけど駄目。それに『あの人』があなた達とやりたがってる、この後東京に戻ってもらって最後のハートブレイクをしてもらうわ」


すぐ下を向いてナオは本当に辛そうな表情を隠そうともしなかった。


「それに……私は無理ね、あと1年持つか解らないもの、治療が辛くて逃げてきちゃった。次のハートブレイクであの人がどうなるか見守りたいの」


 顔を急に持ち上げて、モヒカンが大声を出す。


「1年!? 余命か!?」


「そう、だから急いでたって理由の一つになるの。面倒だから病名とかは聞かないで、番号教えてあげるから」


 ナオはメモ帳を取り出してサラサラと番号を書くと、モヒカンに渡した。


「1年、俺が支えるぜ」


「なんで僕たちを指名……それもすぐ解る事か。考え疲れたから僕はもう流れに任せる」


 丸山は頭を深々と下げた。


「どうかあの人を楽にさしてあげて下さい」


「なんでさ、こんな沢山の人を巻き込んで借金まで背負わせるの。その人が助かればどうでもいいの?」


 冷ややかに的を得たケンジの質問に、丸山はまた頭を下げる。


「お許し下さい、お金を賭けないと真剣になってもらえない。色んな理由があるんです、勿論まだ発表はしていませんが全部が終われば借金は全員なく関わった人間全てにそれなりのお金をお渡しするつもりです」


 正しいか、正しくないかは解らない。

 そこまでしてしまわないと人を変える事なんか出来ないかもしれない。

 やり方は決して良くないが、何も行動しないよりかは絶対いい。


 この優しい丸山さんと、ナオがそこまで癒したい人……か。


「タクシーが着いたようです、東京に戻り『イヴ』の連絡を待っていて下さい、私達もそこで待っています」


 寒いからと急かす運転手に考える暇もなく、気づくとタクシーに揺れられていた。


 雪が止んでる、記録的な寒さとか言ってたな。しかしなんで後ろに彩子と僕とケンジ3人なんだ、狭い。


 なんとなく彩子はこっちに寄ってきて身体が当たるし目のやり場に困る。

 助手席のモヒカンだけは楽そうだと覗くと、また頭を抱えている。


 ヒヒヒと指をさして笑うケンジ。


「どうしたのよ、モヒカン」


 僕の首に抱きつき無理矢理お姫様抱っこ格好の彩子がモヒカンを手玉に取る様に喋る。


「番号……どうしたらいいんだ、さようならも言ってねえんだ。何て言えば……」


「ボケ、ナス、カス。あんた男でしょう? 今日はありがとう、また落ち着いたら連絡するって言えばいいのよ」


「そんな軽くでいいのか? もっと喋る事が沢山……」


「そんなの重いわよ、ほら今さっさとかけなさい。あ、優くん足がズレそうだからちゃんと支えて」


「じゃあ普通に座れよ彩子ー!」


 モヒカンは耳にケータイを当てて背筋をこれでもかと伸ばすのを全員で見守る。


「……あ! あのですね! 僕は山本慎吾でして、今日は本当に……え? ふざけんな馬鹿野郎! ぶっ殺すぞ!」


 電話を切ると、モヒカンは更に深く頭を抱えるのを見てケンジが声をかける。


「え……ねえ。何があったの?」


「電話かけたら、丸山のクソジジィが出た……」


その後だ、彩子がその場を言葉通り凍りつかせた。


「あんたさ……童貞でしょ」


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