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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
Special Stage
23/34

戦慄

「そんな理屈は通らない! 私の幸せが覆った訳ではない! お前みたいな不良に金がある幸せが負けてたまるか!」


 机を片手で強く叩くと、モヒカンの理屈を否定しにかかる茶色スーツ。

 金持ちの余裕からくる表情は無く、その顔は既に敗者を語っていた。

 

「じゃあ、もう一回幸せ理論を語ってみろよ。無敵なんだろ? ふぃひひ」


 挑発的に指で「かかってこい」とけしかけるモヒカンは、スラッシャーにかかる。

 もう勝負はついている、更に壊すつもりなんだろう。


「何度でも言うさ、私が金があって1番幸せなんだ!」


「はい、キレたー。さっきの話し聞いてたのかよ? 相手の事を考えられない事が敗因なのに、また繰り返すって事は理解すら出来てないという事。お前はもう判定ではなく、負け、ゴミ、馬鹿、否定だ」


 このモヒカンの言葉で完全に金持ちスーツが潰れたな。顔を真っ赤にしてモヒカンに噛み付いてももう遅い。

 喋れば喋れるだけスラッシャーされるだけ。本当にモヒカンの一人勝ちだ。


「不良にゴミ、馬鹿と言われる筋合いはない! 私は成功者なんだ、お前の幸せを言ってみろ!」


「ん? 俺の土俵に来るって事か? とことん馬鹿だなお前」


 金持ちスーツは握った拳を震わせている。感情がセーブできていない。

 仲間なら止めたいところだが、シンママ、オタクは、次は我が身。見守るしかできないし面屋は関わる事もできない。


 ケンジと彩子は、もうこの勝負なんか関係ない。僕も含めて次は敵になるかもしれないモヒカンの落ち度を探すしかない。


「不良の幸せを聞かせてみろよ、私より少しでも不幸せなら私の勝ちになるはずだ!」


『パチン』


 腕を組んで、少しゆっくり喋るモヒカンの次の言葉が相手にとって、絶望的な事態を要約理解させる事となった。


「ふぃひひ、あのな。俺は俺の世界では1番幸せで無敵なの」


 全く同じ言葉を返されて、金持ちスーツは開きかけた口を閉じるが、少し間を空けてまだ諦めない様子で必死にモヒカンに食い下がる。


「ならお前と同じ事してやる、お前の答えも無敵ならこの勝負引き分けだ」


「お前ほんと馬鹿だね。相手の幸せを理解した上での引き分け以上なんだぜ? じゃあバンドしてる俺の幸せを理解してみろよ」


 本当にもう3人まとめてここで終わるな、負けに気付いてない時点でレベルの差は明らかなのに。


「客が喜ぶ、音楽が楽しいからだろ!」


 腹を抱えてモヒカンは机に顔をうずめて笑うと、笑いを引きづりながら「詰み」の作業に入る。


「全然違うよ馬鹿。ひっ、ひひっ。頭悪すぎるだろ、はい俺の幸せの理解は出来ませんでした」


「何がおかしい! なら、私の幸せも理解できていないはずだ」


 モヒカンは更に笑い声を大きくして机を叩く。


「同じ所何回ループするんだよ、ひっひひ。お前ら3人自分で最初に何が幸せか全部喋ってただろ。今何処らへんの論点かも解らないだろ、あんまり笑かすなよ。ひっひひ!」


「じゃあそっちも何が幸せか明確に話せよ! 笑うのを止めろ!」


「話すか馬鹿。否定だよ。ひっひひ! とりあえず息するのが幸せだよ、永遠何で息するのが幸せか? とかでも考えてろよ」


 もう会話になってきてるのかも怪しい。モヒカンに何とか言い返したそうに唇を噛んでいる横のシンママとオタクは俯いている。


 何回シュミレーションした所で結果は同じだろうな。3人違うテーマで撹乱して難しくしようとしたんだろうが、こうなってしまったらもう終わりだ。


 モヒカンが1人でしばらく笑う間、誰も口を開く者はいない。

 沈黙が勝ちを告げたのだ。笑い声がなくなった瞬間に机の真ん中にあるケータイが光りアプリからボーカロイドが明るい口調で喋り出す。


「はい、シンママ、オタク、金持ちの馬鹿3人はゲームオーバーです。雪の中を歩いて帰れ。女社長さん、茶髪ギャンブラーさんはほぼ参加出来ませんでしたね。次の勝負にまわって貰います、モヒカンさんの独り勝ちです! 落ち着いたらまたすぐハートブレイクだよ」


「おい、俺はもう勝ちだろ? ほっといてもう寝てていいのか?」


 アクビをしながらだるそうにするモヒカンは席を立つ。


「はい、もし面屋さんが3人倒す事になれば着信で起こします。お疲れ様でした」


 そのまま階段に登り姿が見えなくなると、アプリが消える。顔を青くしたシンママが立ち上がりキャプ帽を面屋の顔に投げつけ、車椅子を強く蹴る。


「おい! どうなってんのよ! あんたの言う通り出来たら楽に金が稼げるんじゃなかったの!? 借金はてめえが払えよ!」


「ご、ご50万なんて大金ママに知らされたらヤバイよ」


 頭を抱えるオタク、荒れるシンママ。多分50万どころではないな。このゲームの敗者は残酷にしか見えない。金持ちスーツは完全に心をスラッシャーされて、独り言をブツブツ言っている。


 それより、あんたの言うとうり? どういう訳だ、車椅子の面屋が雇ったのか? 面屋はやはりアプリの人間!?


 するとあの好印象の笑顔からは想像できない、虚ろな表情をして低い声を出し、面屋は豹変した一面を見せた。


「使えねえな、馬鹿が。頭がいいと言い張ってたんだから、勉強だと思ってさっさと帰れよ。切羽詰まったお前らの顔見てるとゲロが出そうだ」


「ふざけないでくれよ! ママに、ママになんて説明するんだ! 借金は誘ったあんたが背負うべきだろ」



 オタクも立ち上がり、詰め寄ると面屋の服を乱暴に掴む。


「離せ、ゲロデブ。大金稼ぐのにはリスクはつきもんだろうが。俺は1番頭がいいと聞いたから誘ったんだ。負けた時点で1番じゃないから、嘘ついたのはお前らだろ」


「あんたが考えた作戦でしょうが! 責任とんなさいよ!」


 シンママが車椅子を掴むと耳元で怒鳴る。それを見て面屋は大きく溜息をついた。


「仕方ないな」


「じゃあ私の借金は無し!?」


 面屋はニコリと笑顔を取り戻してシンママの顔を見ると、シンママはその笑顔を見て安堵した様子で車椅子の肘置きから手を離そうとした瞬間。

 絶叫に似た、悲鳴が響いた。


「いやあああ!!」


 何処から出したのか解らない程の一瞬だった。面屋はアイスピックでシンママの手の甲を刺した。

 その場の空気が衝撃となり戦慄が支配する。

 我に戻った金持ち茶色スーツが修羅場に拍車をかける。


「刺した! 刺したぞ!」


 笑顔からまた、瞳に殺意をハッキリ感じる様なサディスティックな顔に戻りアイスピックをグリグリ押し込む。


「馬鹿は身体に言わないとわかんねえのかよ、あぁ? 何車椅子蹴ってんだよ。ゲロ女が」


 アイスピックを抜かれると、シンママは舞踏仮面をつけた運営のスーツ男の所に行き、刺された手を抑えて助けを叫ぶ。


 服を掴んで固まっていた、オタクを最早凶器と化した笑顔で見つめる面屋はゆっくりと喋る。


「乱暴は……よしてよ」


「はい! すいません! 僕帰ります!」


「運営のスーツさん、3人を外に出して下さい」


 1番にオタクが外に脱出すると、続いて金持ちスーツは捨てセリフを叫んで外へと消えた。


「あんたイかれてるよ! もう沢山だ!」


 手に赤く染まったハンカチを押さえ付けたシンママだけが逃げずに面屋に叫ぶ。


「障害事件よ! 借金は背負わないし、慰謝料500万は払ってもらうわ!」


 面屋は、車椅子のロックを外すと方向転換してゆっくりとシンママの目の前に行く。

 こちらからは面屋の背後しか見えないが、車椅子から顔を上げてシンママと目を合わせて行くのが解る。


 何も会話は聞こえないが、シンママの顔がみるみる青ざめて顎が小刻みに震えていく。

「ヒッ」とだけシンママは呻くとすぐ後ろにいる、運営のスーツの胸を片手で叩く。


「もういい! もういいからすぐここから出して! 早く!」


 恐らくパニックに陥ったシンママは、面屋から出来るだけ離れる様にキッチン側を沿う様に走り、食器棚にぶつかると皿を落として割るが、それを気に止めるよしもなく外に出た。


 モヒカンが異常な騒ぎを聞いて階段から顔を出すまでの間に、面屋の背後から出る異常な空気が僕の心臓を激しく叩き続けた。


「おい、何があったんだよ。おいってば! 茶色ぅ、説明しろ!」


 いつの間にか立ち上がっていた僕ら3人に向かいゆっくりと面屋はアイスピックを何処かにしまう仕草をすると、車椅子を方向転換さしてくる。


「ごめんなさい、ビックリさしてしまいましたか?」


 最初に見た満面の笑顔なのだが、もうそれは恐怖を予告する様にしか見えない。



 モヒカンが不思議そうにゆっくり階段を降りてくる間に、面屋は先程の机の位置にくると、車椅子をロックをして目だけが笑っていない笑顔を作る。


「では、初めましょうか」


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