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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
Special Stage
21/34

6人でのハートブレイク

「はい! 皆さん起きて! ゲームの時間だよ」


 曲の爆音と共にボーカロイドの声がスピーカーを通して響く。


 小窓を見ると、まだ暗い。何時だ? まだ、夜中の3時。今からやるっていうのか。


「30分以内に着替えて一階の大机の席について下さい」


 とりあえずすぐに起きて、1番に行って降りてくる奴らを観察するしかない。

 急いでダウンを着て、下に降りようとすると明かりがついている。


 階段の中程にくると、頭の中が一瞬で覚めパニックになる。京都組の四人が既に座っている。

 さっきの放送から2分も経っていないはずだ。向こうの四人だけ揃っているなんてあり得ない。

 向こうの四人は全員アプリ側の人間? アプリ側が用意した人間?


「どういう事だ、全国大会じゃあないのか?」


 後ろから、ツンツンの髪を寝かしたモヒカンが立っていた。

 彩子、ケンジの順に起きてきて、階段の真ん中にたまる。


「どうぞ、座って下さい」


 面屋が笑顔で手招きをする、その笑顔が不気味に見えて戦慄が走った。


 促されるまま無言のまま四人席に座る、用意されたパジャマのままなのはモヒカンだけ。彩子はスーツ、ケンジはパーカー。そして初めて見る相手。


 丁度向かい合う4対4の配置。間違いなくこれは全国大会なんかではない、仕組まれた勝負。


「こちら側から挨拶して行きましょう、僕は先程の通り面屋大輔です」


 その隣から初めて見る人間だ。

 長い金髪で、若いな。胸元と肩を出した黄色いセーター。

 まだ10代に見える片目を眼帯をした女の子。キャプ帽をかぶり、クチャクチャとガムの風船を膨らます仕草は強い敵対心を感じるな。


「佐々木香衣です、17でシンママしてる。テーマは命の重み」


 テーマ? 何のテーマだ。



「ふふ、中田望。趣味は金儲け。テーマは金で掴める幸せ。ふふ」


 茶色のスーツに悪趣味な金をあちこちにちらつかせた装飾。

 白髪のまじった髪の短い、いかにも金持ち。こいつも……テーマがあるのか。


 次は太った、緑のジャージのボサボサ頭か。


「小川勝、趣味はゲームとアニメと漫画とパソコンと、うーんキリがないな。オタクだよ、馬鹿にすると黒魔法だからね。テーマは、いかに人生を楽しく生きるか」


「簡潔な自己紹介でごめんね。京都組はお互い面識もないんだ。それともう解ると思うけど、僕達はアプリ側が用意した人間。予選はしてないけどハートブレイクにおいては全員詳しいから安心して、僕のテーマは、嘘」


 最後に面屋が喋り終わると真ん中に置いてあるケータイから、ボーカロイドが喋りだした。


「自己紹介は終わりね。1時間程雑談をして貰います。タイミングを見てお題を出させて貰います、では」



 ゲーム以前の問題だ、アプリ側の人間なのか? こいつら。だとしたら勝負の流れなんかもう筋書きが出来ているはず。それを確かめないと話しにならないな。


「京都組と呼んでいいのかな? こっちも自己紹介しないといけないね、僕は渡辺優」


 金持ちの茶色スーツが僕の自己紹介を遮ると悪趣味な金の指輪をちらつかせる。


「ふふ、東京組の自己紹介はいらないよ、全部アプリから聞いているから」


 いつの間にかメガネを装着した彩子は、その発言を不機嫌そうに見下ろすいつもの調子だ。


「あんた達アプリの運営に関わってるの?」



「黙れツンデレ。僕たち四人は昨日初めて会ったんだよ、揃った所で説明を受けただけ、それより見てよこのTシャツ、イヴたん超萌えるよね」


 ジャージのジッパーが空けてそのTシャツの絵に仰天する、……イヴ? あのボーカロイドじゃないか!

 色々聞きたいが、今は勝つことに専念しないとやられる。聞く事に罠があるのは見え見え、それにやはり全員ハートブレイクに必要な武器はあるみたいだ。黙っているだけなんてやつはいないな。



「ねぇ面屋、雑談て何話すの?」



「多分向こう側の質問と、これからのハートブレイクの内容だと思うよ、お茶入れてくるね」


 ガラの悪そうな少女は面屋に話しかけると、すぐに目線を他にやる。

 向こうの繋がりは本当に薄そうで、昨日会ったばかりというのも真実かもしれない。


「全国大会の勝ち抜きでないなら、なんなんだよこの勝負。意味ないなら帰るぜ」


 寝不足で起こされたモヒカンはいかにも機嫌が悪そうに、オタクデブだけを睨む。


「似たようなもんだよ、ラストステージに行くためのテストってアプリがいってたよ。僕達は勝っても次はない、君たちが負ければゲームは終わり、もうイヴたんにも会えなくなるって事」


 睨まれたオタクの小川は、対抗する様に馬鹿にしたトーンで喋る。


「あぁ!? お前に聞いてねえんだよデブ!」


 ヒッと、下を向くオタクの小川を見て、茶色スーツの中田が会話に口を挟む。


「むやみに人を怖がらせるなよ、若いなあ。あんた借金がかるんだって? やだね、貧乏人は」


「とりあえず、そっちがアプリとどれだけ関わりがあるか教えてよ。じゃないと話しは進まないよ」


 トランプをシャッフルしながらケンジもようやく口を開く、トランプを出すって事はこいつも臨戦態勢か。


「お茶をどうぞ、悪いけど奥までみんなに回してくれるかな? こっちは突然アプリをダウンロードさせられて、東京予選の内容を教えて貰うと、ここに集まって勝負しろって言われたんだ」


 今更何でつまらない噓をつく?

車椅子を机の前に固定するとお茶を配り出す面屋。


「嘘だね、そんなんで参加するやついないだろ? 予選見てたら解るはずだ、無茶苦茶な借金背負うだけのゲームだって。面屋がまとめているのも明らか」


「こっちが勝てば1人100万以上、負けたら50万以上の負債。後は強制」

 

 僕の質問に眼帯シンママが簡潔に答える。


「なんでじゃあ悪趣味な金持ちそうなのがいるのよ」

 

 次々と行き交う視線、睨み。疑心暗鬼が僕らを支配しているかの空気。


「面白そうだからさ、頭がいいと思い込んでる馬鹿を黙らせるのは金儲けより快感だしな、あんたも社長だろ? 年収いくら?」

 

 茶色スーツのオヤジが明らかに敵対心をむき出しにする。


「お前ら四人ムカつくよ、否定だ。ゲームが無しになったとしても潰す、運営側だからって上から喋るんじゃねぇよ。テスト? 上等だね、これから勝負する奴全員否定できれば大金。それだけの話しよ」


 そうだな、モヒカンの言う通りだ。もう情報は持っていても話してこないだろう。勝ち進んで行くしかない。


 机の上にあるケータイ画面が光ると、ボーカロイドが踊るのが目に入る。きた、ここからか。


「生イヴたん!!」


「雑談はここまでにして、早速ハートブレイクをして貰います。渡辺様、面屋様以外の6人は今すぐハートブレイク宣言をして下さい」


「おい、なんで僕と面屋だけが外れてるんだ?」


 6人一気にハートブレイク? なんで僕と面屋だけ外れているんだ、何もかも予想していた事態に当てはまらない。


「チッ……。うるせえな、黙って聞いとけよ」


 突然のボーカロイドの乱暴な言葉使いに全員が表情に出すまいと固まる。1番驚いてたのはオタク。


「はい、ではハートブレイク宣言をお願いします」


 5人はほんの少し間を空けて次々とハートブレイクと宣言する。


「オタクさん、ハートブレイクは?」


「こういうツンデレ設定は安易というか……」


下を向いてブツブツと愚痴を言うボーカロイドは画面越しに苛立ちを見せる、このボーカロイドはなんなんだ?


「デブ、返事とハートブレイクしろ。ママに全部教えちまうぞ」


「は、はいイヴたん! ハートブレイク!」


「では、まず6人で始めて下さい。渡辺さん、面屋様はこの勝負に関わる事を禁止します。お題やルールは京都組が説明をして下さい。では……始め」

 

 僕は喋る事も出来ないのか? 黙って見ているしかない。それよりなんで6人同時に。

 ケンジはお茶を一口飲むと、低い威嚇的な口調で言葉に鋭さを持たせる。


「予想はつくけどさ、さっきのテーマってやつが関係してるんだろ?」


「そうよ、ギャンブラー君のトランプは一切使わせない。否定の指ならしも、面接も」


 シンママが逃げずにストレートに返答してきたか、つまりもうここからポイントが行き交う。

 流れを見るしかないのか。


「おい、デブ。ハートブレイクの内容を説明しろ」


 先程のやり取りで、モヒカンは説明をオタクの小川を指名したか。

 またビビらせる事ができれば説明の段階で有利になるな。


「それが人に物を頼む態度かなあ? 別にいいけどさ。こっちの3人はそれぞれテーマがあるんだけど、それを論破したらそっちの勝ちさ。3対3の勝負」


「団体戦? 勝ち抜き戦でもするの?」


 彩子も低い声で、空気が重い。ハートブレイクでなければすぐ殴り合いにでもなりそうな雰囲気だ。


「予選で神とかお題出ただろ。それと同じさ。1人勝てば3人同時に勝ちというルールになったと言えば伝わり安いかな?」


 茶色スーツの金持ちが葉巻に火を着けながら会話に加わる。


「俺1人は余裕で勝つけどなんで、俺が勝ったら女社長と茶髪まで勝ちになるんだよ?」


 目を細めて恐喝しているかの様な、ガラの悪い目線で京都組を見るモヒカン。


「テーマは違うけど、結局はこっちの3人の倒し方が一緒だからだよ。質問は終わり、もういいかい? 内容に入るよ」


 オタクデブは初めてモヒカンを睨み返す。


「さっさとしましょ、早く内容を言ってみなさい」


 腕を組む彩子の言葉にシンママから順にとんでもない内容をふっかけてきた。


「私はシンママ、子供を産んで世界一幸せなの。私より幸せな事を証明できたらそっちの勝ち」


「僕はオタクだよ、人生を楽しむ事においては絶対1番だと断言する。僕より人生を楽しく生きているかを証明できたらそっちの勝ち、後イヴたんのツンデレもよく考えたら超萌えるよね」


「私は金持ちだ、金を持っているやつが絶対幸せ。私は毎日が豪華で幸せすぎる、それより幸せなのを証明できたらそっちの勝ちだ。何を言ってきてもこっちの3人は絶対自分が1番幸せな事を曲げないけどね。つまり無敵なんだよ」



 最悪だ、変に頭のいい奴と勝負するより絶対ヤバイ。向こうの土俵で勝負しなければいけないのなら、どんな事を言っても向こうが自分の幸せを疑わない限り絶対勝てない。


 相手の世界観なら、どんなに間違った考えでもそれが1番正しいと言い張るのなら無敵だからだ。

 言い合いが続くだけで勝負がつかない、相手に負けたと自覚させることなんて不可能だ。


 3人とも、つまりは幸福論。確かに倒し方があるのなら、全員同じ理屈で倒せる。

 向こうがどんなに不利でも負けたなんて認める訳がない、この勝負絶対勝てない。


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