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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
1st Stage
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「最高のスリルをあげる」

冷えきった足をコタツに突っ込んで急いでスイッチを入れる。


「うー……。寒!」


 ポケットにあるケータイとタバコをコタツの上に置いて、太ももを手で擦りながら摩擦する。

 さっきのは最悪だったな、なんか嫌なメールでも来てそうだ。

 画面を開いて確認した時に直ぐに異変に気付いた。


『100万円アプリをインストールしますか?』


 100万円……。儲けるための成功者のやり方みたいなやつだろうか。何やら刺激の匂いがして画面に顔を近づける。


 こんな表示は出た事も無い、新しい機能だろうか? 説明書きには今日だけインストール可能と書いてある。内容を調べようとそのアプリをタップすると何も書かれていない。


 なんだこれ、容量重くなったか? めんどくせぇ。

 すると入力していないのにインストールが勝手に始まりだす。


「え?」


 焦ってホームボタンを押すが、画面が切り替わらない。電源を落とそうとした時にはインストール完了の表示が直ぐ出て来た。

 少し呆然として我に帰る。とりあえず内容を見よう、有料か? いくらかかるんだろうか。


 画面は真っ暗で画面も元に戻らない。 やられた、絶対これウィルスか詐欺。

 髪をボリボリかき、とりあえずカーテンを閉めてダウンを脱ぎ捨てた後に、珈琲をいれる。いくら位するんだろうか? 1万円以内だといいのだけれど。


 すると真っ暗な画面からいきなり着信のコールが表示された。

 反射的に出ようとするが、指が止まる。


 待て、アプリから着信なんてあり得ない。直ぐに詐欺の人からのお金の催促の電話だと気づき、無視するのが1番だと考え着信が鳴り止むのを待ちタバコに火をつける。



 段々ホラー映画の着信が鳴るシーンが浮かび、紫色の不気味な色のついた酸素が周りを覆ってる気分になって息苦しい。

 手汗をジーパンでゴシゴシと拭いて、ケータイを睨み続ける。



 タバコを吸い終わっても止む事はなく、永遠鳴り続けそうだな。

 唇を少し強く噛んで手に取り、意を決して電話に出て、耳にケータイを当てる。


「この度は100万円アプリご購入ありがとうございます。一週間後に渡辺優様の◯◯◯丁◯番目◯ー◯番。101号室に徴収に参ります」


 目が大きく開き、ケータイがある左耳に視線が寄る。ボーカロイドの機械音声でとんでもない事を言ってきた。


 100万円の催促、 詐欺だ! それよりなんで名前も住所も知られてるんだ? 住所を聞いて、ケータイの中の出来事が現実に直結してパニックになり、右の眉毛が真ん中に引きつって行くのが解る。

 ボーカロイド声は続ける。


「対しましてケータイを見て貰いますと、只今マイナス100ポイントと表示されておられるはずです。」


 確認すると確かに表示されている。しかしそんな事どうでもいい。


「ちょっと待ってくれ、会話はできる!?」


 ケータイを右耳に持ち替え怒鳴りかける。


「はーい、ご質問があればどうぞ」


「これは取り消せないのか? ダウンロードは自分の意思ではしてないぞ!」


「キャンセルは不可でーす、これから説明を致しますのでまず理解してからの質問をお願いします」


「これは100万円騙しとられるだけの詐欺アプリだろ? 警察に行く!」



「……っせぇな。黙って聞けよ」


「え?」


 ボーカロイド? 人間? 思考が完全にパニックに支配されている間に、更なる衝撃を喋り出すボーカロイド音声。


「心理戦……好きでしょ? 最高のスリルをあげる。とりあえず100万円貸してあげるからゲームに参加してよ」


何言ってんだコイツ、怖い。予想が出来ない!

その時、突然音楽が耳に流れ込み心臓が破裂しそうな感覚になる。……なんだ、母さんからのキャッチの電話か。ボーカロイドは無視して電話に出よう、一旦離れて落ち着けるのが一番いい。



「ユウ! あんた何やったの!?」


「どうしたの母さん? 落ち着いて」


「黒いスーツの人が来て、お金の回収に来たってユウの名前出してるのよ!」


金の回収? 駄目だ落ち着け、絶対アプリ関係だ。でもなんで実家に、人質のつもりか!?


「大丈夫、こっちは何もしてないから。落ち着いて対応して。こじれたらすぐ警察を呼んで」


目の前でやり取りしてるのか、母さんが関係ないと説明しているな。……犯罪? 誘拐でもするのか、今何が起こってるんだ。


「大丈夫だったわー。振り込み完了していたのに手違いだったみたい、あんた100万円も借りたの?」


「100万円!? 取り立ての人は帰ったの?」


「完済だから、とりあえず判子くれって言うから押したら帰ったよ。それより100万円なんて大金母さんに黙って━━」


判子!? とりあえず家族は巻き込めない。真面目が取り柄の母さんがこのアプリと関わると余計こじれる。


「……なにかの勘違いだよ。また連絡する」


判子はヤバイ、詐欺なんだから裁判でも勝てる筈だけど、その内容次第で母さんに詰め寄られたら払ってしまう。


そのまま電話のフックボタンを押して通話を切ると、保留にしてあったボーカロイドの一言が僕を不安の極みに突き落とした。


「確かに100万円お貸ししましたよ」


「解った……。100万円用意するから実家には迷惑かけないでくれ」


「時間稼いで対策練るつもりでしょー? それに、ゲームに参加してくれたら大丈夫! 説明に戻りますよー?」


「くそ、早く説明しろよ!」


「キャハハハッ! それでは渡辺様は今からプレイヤーとなり、ゲームをして頂きます。上手くいけば100万円稼ぐ事もそれ以上稼ぐ事もできます」


「ゲーム? 殺し合いでもさせるのか?」


 ボーカロイドの声が狂気染みて聞こえ、暗闇のトイレに閉じ込められた様に孤独な不安感にさせられる。


「簡単に言うと心理戦です。例えば渡辺様が誰かを癒したり悩みを解決してあげると、ケータイにポイントが振り込まれます」


「心理戦? 癒せばいいの? わけがらわからないよ」


 向こうは理解する時間をくれる様にゆっくりと喋りだした。


「この心理戦アプリでは、相手の心を壊す『スラッシャー』相手の心を癒す『ヒーラー』そしてプレイヤーではない一般人を『ピープル』と呼びます」


 いつ詐欺の本質に結びつくか解らないから一つも聞き逃す事は出来ない。


「スラッシャー? ヒーラー? ピープル? 訳がわかんないよ!」


「例えば渡辺様がヒーラーを目指すとします。そしてターゲットを見つけると悩みを相談されます。それを解決、癒すとその度合いによってケータイにポイントが振り込まれます」


「悩みを解決したら平均いくら入るんだよ! めちゃくちゃ怪しいじゃないか」


「平均と申されましても度合いによってはピンキリですので、お答えできません。細かい所まで採点してポイントに変えますので。因みにピープルは成功報酬は低いです。先程の喫茶店でのスラッシャーは見事でしたよ」


「……どこでゲームのやり取りを見て採点するんだ? これは真面目な話しなのか? さっきの喫茶店のやり取りを何で知っている?」


「至る所ににカメラを仕掛けていますので御安心下さい。それとゲームをする時は音声が聞こえるようにアプリを起動したままにして下さい。ゲームをするにせよ、しないにせよ、一週間後に伺います。マイナス分か100万円を上回っていたらその分のお金をお支払い致します」



 なんだか胃がムカムカしてきた。

 まだ催促の話しだけされた方が解りやすい。

 話しはアプリのゲーム内容なんだろうけど、弱味を知られている以上相手にとりあえず合わせるしかない。さっきのやり取りまで知っているのは、本当に監視している筈。


「……相手はどうやって探すんだよ。誰でもいいのか?」


「まず24時間の期間内でアプリの中で悩みを持った現実の人間を集めておりますので、その中からお選び下さい。それと、心理戦ゲームなので不利になったりヒーラー、スラッシャーを逆にやられるとマイナスポイントになりますのでお気をつけ下さい。では失礼します」


 通話が切れた……。

 交通事故でも目撃したみたいに呆然としていると、アプリ画面が光っている。

 メールとゲームをする。それとマイナス100ポイントの表示。


 今……僕に何が起こってるんだ!?

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