表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
3rd Stage
15/34

『いのち』

 彩子を見送り、戻るとさっきまでいたはずなのに、この赤い部屋自体に食べられている感覚にさせられる。


 もう三人共席についている、僕とケンジも黙って座る。


 なんとか生き残らないと、それよりモヒカンが異常に強い。あの否定攻撃がなくても1番強い気がする。


『ガ……ゴトン』


 もう15分経ったのか、天井のスピーカーを見上げるモヒカンに全員視線を送る、このゲームは異常に決着が早くつく。次は誰だ……。


「はーい、次の脱落者が出た時点で、このゲームは終わります。そして残り人数からハートブレイクの拒否権は全員なくなります。このゲームが終了する時はまた連絡するよー。誰でもいいからまたお題を引いたらスタートです! ではまたねーん」


 今日中に終わるかもしれないと言う事か、全て。


「僕が引いてもいいかな」


「まて、お友達ごっこの茶髪はギャンブラーだろ? イカサマはゴメンだ。袖をめくって引け」


「わかったよ」


 袖をめくりプレートをゆっくり一枚引く。



 内容は……『自殺』



 全員が確認する。喋りすぎるとすぐボロが出る内容だ。さっきのと同じ内容になるな、真逆のお題でもさっきの続きと変わらない。


「僕はありだと思う、左周りに一言、言って行こう」


 できれば次のモヒカンと同じ『あり』がいい、標的にされにくい。



「俺もありだと思うぜ」


 良かった、モヒカンも同じ。この場合ありなしどっちでもいい。その答えにどれだけ深く考えているかを解りやすく喋るのがコツだな。



 朝からつけ眉毛のデカイ目で、キャバはキッパリ言い切る。


「無しね、あり得ない」



 ゲームをしながら顔を上げようともせず高3が答え、リズムよく順番が回る。


「絶対駄目」


 しばらく時間を置いたケンジは、僕に合わせたのだろう答えを口に出す。


「俺はありだと思う」


 全員終わった、モヒカンは駄目だ、高3も危ない。さっきの流れを考えれば必然とキャバに行くしかない。

 モヒカンに流れを作られる前にキャバに攻撃する。



「キャバはなんで駄目なの?」


「せっかく貰った命、生きていたらいい事が必ずあるわ」



「衝動でしてしまうのはよくないけど、どうしようもないやつっているよ。見たことないのか? 生きるほうが辛い人生の人間」


 ケンジも加わりこれで2対1。スピードも大事だ、時間を空けるだけ言い訳されてしまう。一気にキャバを攻める。


「いい事? 何も知らないから軽はずみな言葉が出るんだよ。いい事が少しでも後は全部地獄なら死んだほうがマシだ」



「高3だって同じ答えでしょ? なんでウチばっかりなの?」



「あんたが1番馬鹿だからだろ」


 キレまくってるな高3。同じ意見だけど一緒にしないでくれと自分の強さを誇示しながら、キャバを一言で追い詰めた。

 ほとんどの人間はここで持論を話してしまうが、話すとキャバに賛成して攻撃される危険がある。逃げながら攻撃する、単純だけどこれは上手い。

 そしてもうキャバは危ない、次の一言で流れが決まるはず。


「ウチの友達も自殺したわ、自分を殺人してるのよ? どの宗教に行っても、自殺は否定よ」


 キャバは熱くなって完全なミスをしたな。彩子と同じでお題にこだわりすぎてる。持論を上回れたらもう逃げ場なんかない。

 口を開こうとするより先に否定という言葉に反応したのか、モヒカンがすぐに攻撃する。


「宗教に頼るのか? 確かに宗教は歴史もあって考えた結果で相当深い考えがあって否定の答えになってる。しかしキャバ、お前がその宗教作った人物でないなら言う権利はない」


 モヒカンの言葉でキャバは宗教論を喋る事を遮られた。言い返す言葉を宗教論で考えていたなら、また1から考え直さないといけなくなる。

 タイムロス、つまり言い返す間が空いてしまう。無理に速く喋ると内容が軽くなる。


「キャバさん、自殺について強い思い入れがありすぎて、精神論の会話になっていない、もう駄目なんじゃない?」


 やはり返事に間が空くとすぐ攻撃がくる。ケンジは他の精神論ですら、つまらない軽い内容なら同じ結果になると釘を刺したな。

 反論しないとまたすぐ次がくる、焦ると内容が軽くなる。


 立ち上がり、キャバは全員均等だった声のボリュームを大きく超えた音量で叫ぶ。


「じゃああんたら目の前で自殺しそうな人がいても止めないの!? ドライ気取ってるだけじゃない」


 精神論ですら無くなった、もう後は逃げ場を消して行くだけだ。


「目の前なら止めるよ、事情知らないしな。でも本気だったら止めようがその後でひっそりと死ぬだろうね。それを止める権利なんかない」


 鋭い目つきでケンジは睨む。


「犬もあると言われているが、明確に自殺ができるのは人間だけだ。別に正しい、正しくないとは論議するつもりはない。どう考えているかだ。勿論無くなって欲しいが、人間の汚い所や、絶望を聞いたら止められない。全てが考える事において、圧倒的に弱い。キャバは」


 僕は口調を少し強くする。肝心な言葉や相手に印象付ける時は声のトーンを変える事。相手にも自覚させやすい。


 高3とモヒカンは黙って三人のやり取りを見守る。


「考えも何も自殺を考えるなんてアウトゾーンよ。じゃあなんの為に生まれてくるのよ? 死ぬ為だったら意味ないじゃない」


 僕は間も開けず答える、上手い事精神論に持ち込んできたが、潰す。


「それを突くと神論議、先程のやりとりと同じ結果になる。あんた死ぬ程追い詰められた事ないんじゃないのか?」


 キャバの先程の発言は精神論に持っていくにミスはない、しかし同じ結果になると先に言ってしまうと、パニックの人間はそれを認めてしまう。

 同じ結果になるという箇所をまずピンポイントで返す事が唯一の正解。

 そして、追い詰められた事はないのか? と逃げ道を用意した。勿論、罠。


「あるわよ、それ位! 馬鹿にしないで!」


 ケンジは待っていた様に即答する。


「じゃあそれ詳しく教えてよ、じゃないとみんな納得しない」


 これを答えてしまうとこの場を逃れても、とてつもないハンディがついてしまう。



「じゃあみんな答えたら言うわよ!最後にウチが言うわ」


 引っ掛かった。逃げ道を用意した時にこうなるのは簡単に想像できた。

 首をかしげて馬鹿にした口調で白々しく笑顔を作る。


「僕はそんな考えした事ないんだ、ごめんね?」


 ケンジは耳をほじりながら流れに乗る。


「俺もない、だからある人だけ話せばいいよ。キャバは確定だけど」


 モヒカンはこの1連のやりとりの結果にニヤニヤして答える。


「俺もねえなあ」



「勿論無いよ」


 高3も乗った事で一致。

 全員嘘だろうが、完全にキャバが孤立した。キャバとモヒカンは繋がりはなかった様だな。


 キャバは『自殺しそうになる程の重い過去』を話さなければならなくなるという所まで追い詰められた事になる。

 当然嘘は見抜かれたらアウトに即繋がる。


「う……」


 座り込み俯いて頭を抱えたキャバは、そのまま喋り始める。


「キャバの仕事始めたのは、借金があったからよ。元彼に貢いで貢いで莫大な借金ができた。金がなくなると彼は去っていって、その時ね死にたくなったのわ。本当の自分がこっちなのよ」


「あんたキャバだよねえ? 客に金を落とさせて、愛を弄ぶ。充分自殺させられる程の理由を他人に押し付けてるよね? それでよく自殺は駄目って言えるね」


 スラッシャーにかかるケンジは続けて決めにかかる。


「それから聞いたけど、キャバ接客のように相手を転がしてスラッシャーしてるんだろ? あんた人として大事な物失ったんじゃないのか? もう偽善者の塊。全てあんたの汚い所が出たんだよ。それに借金でフられた程度で自殺なんて、子供だよ。

 自分だけが不幸だと思ってたんだろうね。もう何を喋っても偽善者の戯言としか聞かない。喋る権利がなくなるのならドロップアウトだね」


 もう潰れているが今までの借りはここで返したかった気持で口が開く。どんな逆転も許さない。


「それと本当の自分って言ってたね、キャバしてて本当は優しいって言いたいんだろ? 全部ひっくるめて自分なんだから、本当の自分なんて悲劇のヒロイン気取ってる所が頭悪いよ」



「詰んだね、もうキャバは喋る事も許されなくなった」


 僕の後に高3はポツリと小さい声で喋る。


 キャバは俯いて座った時に負けを認めるべきだった、無駄にマイナスを増やす結果は目に見えていた。


「あ……う……」


 キャバが言葉を探している途中にスピーカーが音を立てる。


「悲劇のヒロインだーつーらーくー! はいお疲れ様でした! とっとと帰ってね。もう用はないよ。そして残り四人となりました。今日一日フリーとしますが、ハートブレイクで2人落ちて貰います。2人になるとハートブレイクは中止、明日最後の勝負をして貰いまーす!」


 キャバはケータイを確認して椅子を「ガタン!」と動かすと、暫くして力なくケータイをしまい、ブランドリュックの荷物を取りに行く。そして早足ですぐにドアを開けて出て行った。

 とんでもない金額だったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ