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混世勇者  作者: 方丈陽田
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過去回想~接触~

 と言っても、きっと何がどうなってそうなっているのか、よほど想像力のたくましい妄想人でもないと分からないだろう。


 なので、軽く重要なシーンだけ回想しようと思う。


 ……。

 …………。

 ……………………。


 特に面白味もない日常の授業風景の中、俺は教室の中に覚えのない波長の魔力が満ちるのを感知した。


 何人か、具体的には俺を除いて二人ほど同時に反応しているが、正体を隠す気満々なそいつらは何かをするつもりはないらしい。


 俺自身も、そこにある種の悪意を感じ取りつつも、面倒なので放っておく事にした。


 魔力は加速度的に密度を上げ、わずか数分後には臨界点へと達する。

 これ以上密度が上がれば、ちょっとしたきっかけで大爆発でも起こるんじゃないかなー、とその程度では怪我すらしない俺は、暢気に考えていたのだが、どうやらこの現象はこれから行う魔術の下準備だったらしい。


 何処かから術式が出現し、教室の魔力を食ってその力を発揮させる。


 瞬間的に読み取った術式の内容は、転移系。

 それも次元を超える類の物だ。


 まぁ、幾らか方式は違うが、似た物は何度か見た事があるし、実際に体験もした事がある。

 前に異世界で魔王を討ち取ってやった事もあるのだ。

 それくらいの事は分かる。


 そういえば、あの世界はどうなったのだろうか。

 まぁ、多分、酷い事にはなっただろうな。

 俺が受けた依頼は、〝魔王討伐〟だけだし。

 それ以外の事は知った事じゃないし、どういう風に解決してほしい、なんて指定条件は無かったし。


 ともあれ、俺の心情としては、ああまたか、という程度の物だ。

 今度はどれくらいで帰ってこられるかな、と、不安らしい不安は特にない。


 強いて言えば、俺という枷がいなくなる事で、クソ妹ズが調子扱いて地球の存亡が危うい所だろうが、まぁそれもそうなったらそうなったでどうでもいい事だ。

 俺は地球に未練はないし、新天地で慎ましやかに暮らしていくとも。


 ぐにゃり、と、視界が歪む。


 さて、今回はどんな舞台を用意されているかな。

 出来る事なら、救いようのないクズどもばかりの演目であれば、俺の良心が傷まずに済むのだけど。



 歪んだ視界が元に戻る。


 だが、そこはもう日本の高校にある一教室ではない。

 イメージとしては、中世ヨーロッパという所か。西洋の城の大広間に似た装飾を施された部屋の中央に、俺を含めた約五十人の日本人学生が召喚されていた。


 突然の状況の変化に、目を白黒させるクラスメートたち。

 事態に驚いていそうにないのは、魔力に反応していた二人か。

 あの二人は、自らの事を隠す気があるのだろうか。

 ここはきっちりと驚く演技をしておくべきだろう。

 少し冷静な奴に見られれば、不審に思われるぞ?

 まぁ、俺に関わりはないし、どうでもいいが。


 ちなみに、俺は隠す気はないから演技は良いのだ。

 気付く奴は勝手に気付け、という方針である。


 閑話休題。


 広間には、俺たちを囲む様に、無数の人間たちがいる。

 鎧を着た兵士に、ローブ姿の魔法使いっぽい奴、ゆったりとした服装の偉そうな感じな奴、まぁ兎に角それっぽい連中だ。


 良かったな、お前ら。この召喚がクラス単位で。


 もしも俺一人だけの召喚だったら、取り敢えず全員殴り倒して這い蹲らせている所だったぞ?


 さて、まぁ流石に平和ボケの国の住人であるクラスメートの前でいきなり暴力を奔る訳にはいかない。

 あとで一々非難されるとか、めんどくさいからね。

 いやまぁ、どうせその内、色々と非難囂々になるんだろうけどな。

 嫌な気分になるのは後回しで良いのだ。


 ざわつく俺たちの前に、一人のドレスを着た少女が進み出てくる。

 質の良いドレスといい、頭に載せた銀のティアラといい、おそらくお姫様ポジションなのだろう。


 クククッ、どんな戯言をほざいてくれるのか。

 発言には気を付けろよ?

 君の言動には、さりげなくこの世界の命運がかかっている。俺の気分的な意味で。


「……突然の事に、さぞや驚かれている事でしょう」


 クラスメートの注目が集まった所で、少女は明瞭な口調で言う。


「ですが、我々には貴方方に縋るしか道はないのです。

 ……お願いです! 我ら人類を救う為、魔王を倒してくださいませ!」


 オッケー。

 この世界を壊せば、同時に魔王も死ぬよな?

 そんな感じな倒し方で、良いんだよな? あ?


 俺、人道とか倫理とかクソ喰らえだから、常識で考えられても困るんだけど。


「な、何を言っているのですか!? 私たちに戦えというのですか!?」


 授業中だった故、巻き込まれたたった一人の大人である女性教師が、声を荒らげる。

 彼女の叫びを受けても、お姫様は顔色一つ変えない。


「重々承知しております。

 ここは、皆様から見れば全く関わりの無い異世界。

 そんな縁もゆかりも無い世界を命を懸けて救え、と言われても了承できない事は分かっております」


 ほうほう。それで?

 それが分かっていながら、どうして召喚したのかな?


「だからと言って、私たちも生存を諦める訳にはいきません。

 ですから……ええ、卑怯者だと罵って下さって構いません。どの様な非難も甘んじて受けましょう」


 決定的事実を言ってくれる。


「貴方方は、魔王を倒し、世界を救うまで元の世界に戻れません」


 うわっはー。マジ最高だわ。

 ちょっと俺の評価が上がってるよ? エゴな感じ、超素晴らしい。


「我々が唯一神様より授かった術式は、召喚のみ。

 皆様を元の世界に還す術を、我々は持ち合わせておりません」


 本当かどうか、そこは問題ではない。

 注目すべきは連中に帰す気が全くないという事だ。

 まぁ、俺なら知ってさえいれば、幾らでもどうとでもなるけどな!

 記憶を覗くくらい、俺には息をするようにできる事だし。


 つっても、そんな事はしないけど。

 そもそも、帰るだけならどうとでもなるし。

 こんな事もあろうかと、以前、異世界に飛ばされた教訓から、ちゃんと地球にはマーキングしてある。

 俺だけなら、今、この瞬間にも戻る事は出来るのだ。フハハッ!


 まっ、そんな勿体ない事はしないけどな!

 せっかく俺を選んでくれたのだ。

 もう勘弁してくれと言っても帰ってやるものか。

 俺が満足するまで玩具になって貰うぞ、なぁ異世界。


 あまりの物言いに絶句してしまった女性教師に代わり、一人の男子生徒が声を上げる。


「……そっちの言い分は分かった。

 逆に言えば、魔王を倒しさえすれば……目的を達しさえすれば、僕たちは用済みになる。

 そうだね?」

「そうですね」

「用済みになれば、元の世界に還して貰えると思って良いのかな?」

「少なくとも、私どもとしましては、魔王の討伐に成功した生きた英雄など、治世の邪魔以外の何物でもありませんね」


 あー、それは言っちゃ駄目だろー。

 平和ボケした学生じゃ、その発想は出なかったかもしれないのに。

 暗殺の可能性を示唆しちゃ駄目だろうよ。

 警戒しちゃうだろ? 面白くない。


 いや、どうかな。

 案外、気付かない、あるいは気付かないふりをするかな?

 人は見たい物しか見えない生き物だし。


「うん、成程。

 ……皆、僕はこの話、受けようと思う!

 確かに危険な話だが、僕たちが元の世界に戻る為にはそうするしかないんだ!

 それに、困っている人がいて、頼れるのは僕たちだけだと言われて見捨てるような事、僕には出来ない!」


 うーん、俺の趣味な発言じゃないね。どうでもいいけど。


 さて、他の連中は乗るかな?

 ああ、あの馬鹿二人は静観して流れに身を任せるのは分かりきっているからどうでもいいや。


 あいつらもなー。

 魔王の一匹や二匹ぐらいなら、状況や相性に依るけど単独で倒せるくらいには強いんだけどなー。

 如何せん、やる気も無ければ、俺みたいに世界からどうしようもないほど色々押し付けられる運命をしてないからなー。

 地獄に落ちればいいのに。


「ちなみに、ですが、皆様は召喚に際して、唯一神様より恩恵を授かっております。

 常人などよりも遥かに高い能力をそれぞれに得ている筈です」


 ほほぅ? 恩恵とな?

 まぁ、俺にはないだろうけどな。

 だって、俺、地球サイドの何かから莫大な恩恵を受けてるし。クソ妹ズには及ばないけど。

 本当に、あいつらのあれって何処から来たんだろうな。

 ちょっと理不尽過ぎるだろ。あ

 いつらに比べたら、俺の恩恵なんて些細な物だ。


 まっ、それだけでも俺の魂魄を圧迫してるから、他の恩恵が入り込む余地なんてないし。

 それはとっくの昔に証明されてるし。


「聞いた通りだ。

 決して、不可能な話じゃないんだ。

 なら、それに賭けてみるのも良いんじゃないか?」


 返答や如何に?


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