プロローグ
分かり易く「俺Tuee系」です。主人公の理不尽に手加減するつもりはありませんので、苦手な方は遠慮された方がよろしいかと。
週一で更新していく予定です。
筆が乗ればもっと更新します。
俺という人間の人生を端的に表すのならば、ごく普通……になれなかった人間だ。
まぁ、なんというか、とにかく波乱万丈で全く以て普通ではない人生を歩んでいる訳だ、俺は。
いや、正確には俺を含めた俺の一族は、と言うべきなんだろうな。
始まりは知らないが、俺の一族はご先祖様の時代から、善悪を問わず、とにかく変てこな事態の中心に巻き込まれてきた。
ああ、善悪を問わず、というのは、本人の気質も含まれるからな?
善人な性格をしているというのに、いつの間にか世界的テロリスト扱いされていたような奴もいれば、絶対に邪悪な筈なのに扱い的にはヒーローな稀有な奴も存在する。
つまりは、そういう一族なのだ。
世界とか神様とか運命とか、まぁよく分からんが、そういう奴に面倒事を押し付けられる事を宿命づけられた一族なのだ。
そして、それは俺も例外ではない。
今までに、謎の秘密結社だとか、魔術組織だとか。悪の研究所だとか、外宇宙からの侵略者だとか、そんな連中と戦わされる人生を歩んできたのだ、俺は。
不満なら当然あるに決まっている。
こう言っては何だが、俺の精神は並みだ。常人の範疇にあると自負している。
平穏で平和な生活を送り、変わり映えの無い日常の中で小さな幸せでも噛みしめつつ、社会を動かす小さな歯車のままでその一生を終える。
そんな人生を送りたいと切に願っている。
だというのに、何で世界を左右する大事件の中心に放り捨てられなければならないのだ。
傲岸不遜だったり、バーサーカー気質な妹連中と俺は違うんだぞ、と声を大にして言いたい。
まぁ、もう諦めたけどな。
何をどうした所で、これが俺の運命なのだ。
ならば、受け入れよう。
順応性こそ人間の武器である。
俺は受け入れて、俺なりの楽しみ方でこの人生を楽しもうじゃないか。
ああ、覚悟しろよ理不尽ども。
俺に、慈悲はないぞ。容赦などないぞ。
先に喧嘩を売ってきたのは、お前らの方だ。
俺の命を守る為、そして俺の灰色の人生に彩りを加える為、お前らには盛大な理不尽を押し付けてやろうじゃないか。
これは、俺――姫武・桜花の人生の一ページを綴った物語である。
薄暗い洞窟。
横幅だけで百メートルはありそうな巨大なそこに、俺は一人で佇む。
周囲に生命体はいない。
俺に襲い掛かってきた魔獣どもは、全て殺し尽くしてしまった。
「むっ、チッ! やっぱ安物だな。たったこれだけで壊れやがるとは」
血糊がべったりと付着した長剣が、俺の手の中で粉々に砕ける。
頑丈な魔獣を数十単位で連続して切り殺せるのだから、一般的に見れば十分に業物と呼べる代物であるとは分かるのだが、俺の基準からしてみれば安物の粗悪品以外の何物でもない。
柄だけとなったそれを投げ捨て、懐から代わりに一本の煙管を取り出す。
それを咥え、火皿で指を弾く。
火花。
小さな火種が生まれ、薄い煙を立て始める。
日本の法律に照らし合わせれば、現役高校生である俺が煙草を吸うのは違法行為なのだが、ここは日本ではないし別に構わないだろう。
中身だって、幾つかの特殊な薬草を混合した身体に害どころか、益しかもたらさない代物だし。
とある異世界(地球から見て)産の薬草を混ぜ合わせたこれは、通常は傷口に塗布する事で即効性の治癒性を発揮する強力な傷薬であるが、煙草として使用すると、肺から血流に乗って全身を巡り、意識していない傷や疲労の回復、更には沈痛などの効果も得られる。
尤も、治癒効果は塗布する場合よりも落ちるが。
少し振りの戦闘行為によって気だるさを覚えていた身体から、呼吸するごとに疲労が抜け落ちていく。
大きく息を吐き出した俺は、ズボンのポケットを漁り、二つの品を取り出す。
一つは、光の具合によって七色に輝きを変える結晶を装飾された指輪。
もう一つは、真紅の折り畳まれた布。
布を広げれば、その正体は衣服である。
袖口の大きく広がった法衣の様な衣装だ。
それに腕を通し、もう一つの品……指輪を右手の中指に装着する。
「さて、ダンジョン攻略は前の世界で暇潰しに立ち寄った世界樹以来かな。
五大迷宮に恥じない構造であってくれると、俺としても張り合いがあるぞ?」
魔力を発動させる。
溢れ出したそれは、指輪へと吸い込まれ、結晶体から青色の燐光が放たれる。
瞬間。
ダンジョンに水が溢れた。
姫武・桜花(公称十六歳)、異世界にて魔王討伐を放って、ついでに仲間(対外的には)の事も放って、勝手気ままにダンジョン攻略を開始した。