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快晴モンスター

作者: 神尾ゆずき

見る人によっては気分を害するかもしれない、軽い病み要素があります。

故に念のため、R15としました。

晴れの日はないかと、私は探している。


ただの晴れの日じゃなくて、快晴の日を探している。

気温は暖かく、出来れば身が引き締まるような肌寒さが少しあるくらい。

そんな日が来ないかと、私は毎日じっと目をこらしているのだ。




その日は、来た。


「いい天気」

窓の外を見て、思わずつぶやいた。

昨日までの桜を散らす小雨は止んで、空には雲一つない。

風が少し冷たいけど、気温は暖かくて、爽やかで気持ちいい。

待っていたのは、この日だ。


足取りも軽く、外に出た。


いつも以上に手際よく、手早く準備が済んだ。

普段なら一時間以上もモタモタしてしまうのに、今日は15分程度ですべてが完了した。

幸先がいい。


まずは、郵便局。


出さなきゃいけない手紙がたくさんある。

明日にしようの繰り返しで、ついつい溜まりがちだ。

今日こそは全部出さなくては。

しばらく会っていない、遠くの友人にも出す。

わたしに会いに、来てくれますように。


次は、市役所。


こういう所は好きじゃないけど、気分の乗っている時に来なくては。

手続きは思った以上に早く済んだ。

まぁ、世帯を分けるだけだしね。

一緒に住んでいても、いつまでも兄や妹と同世帯というわけにはいかないと思っていたの。


あと、税金の払込とかもしておく。

1年分の払込を分割していたけど、残りをもう一括で払ってしまう。

引き落とし用の口座残高がゼロに等しいけど…まあ、いいや。

貯金は別にあるし、困らないよ。


やることやったし、何か食べようかな。


サンドイッチにしようかな。

お気に入りのパン屋さんで、サンドイッチを2種類買った。

海老とアボカドのやつと、オムレツが挟んであるやつ。

どっちも、すごくお気に入りの味で、特別な日に食べたい代物だ。


コンビニでミルクティーを買って、公園で食べる。


小さい頃からよく来ている公園は、広くて静かで好きだ。

大きな池と、たくさんの花が、いつ来ても綺麗。

大きな木の下の小さな休憩所は特に好きな所で、丸太で出来たテーブルと椅子がお揃いで可愛いと思う。

そこに座って、ゆっくりと食事を楽しんだ。


本当に素敵な日だ。

空は晴れていて暖かくて、何もかもが上手くいっている。

思った通りに、テキパキと動けているのが嬉しい。

こんなにスッキリとした気分になれたのは、本当に久しぶりだ。


「わたし、幸せだな」



さて、じゃあ、もっと高いところで空を見よう。

やることが色々あって遅くなったけど、本当の用事はこれ。

どこがいいかな…もっと空に近いところ。

そういえば、友達が前に住んでた市営アパートは、誰でも屋上に出れたはず。

花火とかも、そこで見たっけ。

そこにしよう。



高いところから見る空は本当に青く、澄み切っていた。

気持ちいいなぁと、うっとりする。

高いところで見ると、空がより綺麗な気がする。

風も気持ちいい。


高いフェンスがなければ、もっと綺麗なのに。

いや、北側のフェンスならと思う。

市役所って仕事が遅いからなー…ほら、鍵が壊れたままだ。

開け放って、フチに腰掛けると、空が広く見えた。

見下ろすと、桜並木が見える。

ハラハラと風に花びらが舞うのがわかって綺麗だ。

最高に、気分がいい。




すぅっと、体が吸い込まれた。




重力に取り込まれるよりも前に、何かがわたしの腰を掴んで、強い力で引き戻された。

「お兄ちゃん?結衣ちゃん?」

汗だくで息を切らした兄と妹が、私の体を抱き込んでいた。

力を入れすぎて震えている。

少し痛いかなと思って、2人の腕を外そうと手を添える。

妹が、息が切れたままの声でわたしに言った。

「麻衣ちゃん、雲が、出てきたよ。雨が降るから、家に帰ろう」

首をひねって空を見る。

さっきまであんなにも綺麗だった青空に、薄い灰色の雲がかかり始めていた。

プツンと糸が切れるように体の力が抜けて、一気にだるくなってしまう。

今日はその日じゃなかったのか。


話すのも億劫になって、わたしは「帰る」とだけつぶやいた。




「はい、本当にお騒がせして…」

兄が、方々に電話をかけまくっいる。

姉から手紙が届いたら捨てるようにお願いしているんだろう。

どれだけ書き溜めていたかは知らないけれど、一応、思いつく限りの人にかけると言っていた。

それが終わったら、一息入れよう。

それで、そのあとは市役所に行ってみよう。

何の手続きをしたのかは知らないけど、一応調べないと。

それと、市営アパートのフェンスの件。

早く直さないと危険だと、何度言わせる気なのだろうか。



双子の姉の麻衣は、頑張りすぎた。

緩やかに、明るく壊れてしまった。


何がどうさせるのかはわからないけれど、

よく晴れた日に、姉は旅立とうとする。

明るく、散歩に行くかのような気軽さで、消えようとする。

よく晴れた、雲一つない快晴の日だけ。


「よく晴れた、最高の『その日』が来たら、すごく幸せで、飛べるかなって思うのよね」

姉は笑っていたが、その笑顔のままどこかへ飛びそうで恐ろしい。

それと、双子でも分かり合えない気持ちがあることが悲しかった。

今までどんなことも、予想が付いて、わかってあげられたのに。



あぁ、しかし。

今日は本当に迂闊だった。

快晴だからと十分に気をつけていたというのに、いやに食い下がってくる新聞の勧誘員に四苦八苦しているうちに、姉はリビングの窓から出て行ったしまったのだ。

リビングの鍵も、付け替えるべきか…。


そんなことを考えているうちに、兄がリビングに戻ってくる。

私が差し出したコーヒーを受け取りながら、麻衣は?と聞く。

「寝てるよ。疲れたんじゃない?」

「サイズの大きい、適当なサンダルで歩き回ったからな」

俺も疲れたなーと、兄はソファーに深くもたれ掛かる。

市役所行く前に休憩なと言うのに頷き返すと、私はテレビをつけた。

ちょうど良く天気予報をやっていた。

「明日と明後日はくもり、そのあとは…」

テレビにかじりついてブツブツつぶやく私に、目が悪くなるぞーと兄が言う。

そんなことはどうだっていい。


ただの晴れの日じゃなくて、快晴の日。

気温は暖かく、出来れば身が引き締まるような肌寒さが少しあるくらい。

そんな日が来ないかと、私はじっと目をこらす。

姉が求める『その日』を、双子の私なら予想できるに違いない。



私がいる限り、『その日』は来ない。



読んでいただき、ありがとうございます。


暗い話にしようしたわけではないのです。

青空を見て、今なら飛べる気がするなぁと言うと、必死に止めてくる友人がおりまして。

私的には別に他意はなく、鳥のように飛べたら気持ちいいだろうにくらいの気分で言っているのですが、

友人的には冗談だとは思うけど笑顔でじゃあねと飛び降りていったらどうしようと思うとのこと。

もう20年来の付き合いだけど、わからない部分もあるのは少し寂しい。

これが兄弟なら悲しいだろうにと思って書いてみました。


晴れた日は飛べる気がするってメルヘンな気がするから違う感じにと考えた結果がメンヘラな仕上がりになるとは。

本人が一番びっくりですよ。


では、ここまでも読んでいただきありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。私も心の病を抱えてるので共感して読めました。
2016/04/12 16:51 退会済み
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