ご褒美ちょーだい
ふと思いついたネタ。
長かった。
舞台で延々と流される映像を眺めながら、頭の中がその言葉でいっぱいになる。
ちろりと周囲を見渡せば、私以外の視線は全て私に向かっていてピクリと肩が動く。
浴びせられる怒号に意識がくらりと酩酊したのが分かった。
ここまで良く頑張った私!
誰も褒めてくれないだろうけど私が褒めてあげるよ!
おめでとう私!
クライマックスまで持ってくるために、私はそれこそ青春の全てを注ぎ込んだのだ。
いくら爛れていたとはいえ、輝かしい高校生活をこの為だけに捧げた身としてはとても感慨深い。
「信じてたのに!」
「阿婆擦れ!」
「詐欺師!」
「最低だな」
「死んじゃえ!」
て、言いたい放題だなこの野郎。
そんなこと言われたら私、泣いちゃうんだからねっ!
目に涙を浮かべて、よよよっと床に座り込むところまで脳内で一人芝居してみる。
あ、駄目だわ。
私ハンカチ持ってないもん。
こういう時口にハンカチ咥えずして何を咥えるのか。
え、何も咥えなくて良いって?
いやいや、様式美だよこれは。
分かる?
という訳で、涙を出すために頑張って瞬き我慢してたけどプラン変更だ。
泣き落としが無理なら逆ギレ?
うん。
確かに嫌われ系の話で、フルボッコラストならそれもテンプレだ。
そして、それなら私のキャラでも無理がない気がする。
よし採用。
「…んん゛ッ、…五月蝿いな! で、私をどうするつもりなのさ! 集団リンチでもおっぱじめるの? それこそ屑じゃん! しかも私がやったことやり返すって言うけど、勝手に盛り上がってたのはお前らだし。確かに私も『あの子に嫌われてるかも』って言ったけど直接手は出してないもん!? 悔しかったら警察でも何でも持っていけばいいじゃんか。私はせいぜい侮辱罪ぐらいだろうけどお前らはどうなるんだろうね!? 見物だわ!!」
ふはははと背を仰け反らせて高らかに笑えば、周りが少し戸惑ったのが分かった。
あれ?
なんか違った気がするけどまぁ良いか。
予定では知り死滅な叫びと唾を撒き散らして大暴れするはずだったのになぁ。
ちょっと図星付きすぎたかな?
いやいやそこは頑張ろうよ。
君ら彼女の世界ではスパダリって呼ばれてたんじゃねぇの?
そこは俺達がどうなろうとあの子を守るってとこだろ。
壇上の愛しの彼女から蔑むような目を向けられていることに気づいて焦る。
やっべ。
やっぱりこうじゃなかったかぁ。
まだ間に合うかな。
あっじゃあ今更だけど命乞いしてみる?
さっき死ねとか言われたし。
やっぱり命大事だしね。
即物的な感じとかめっちゃ悪役っぽい気がする。
「だから考え直さない? 私は苛めてないから謝らないし、君らも私を攻めない。で、君らはあの子に謝る。ほらオール解決だよ!なんて平和的!やっぱり私天才!」
ほらほら意味わかんないでしょ!
ほらほらほら今こそあの子に自分の存在をアピールする場だよ。
ほら早く私を殴れって。
体育館に私の高笑いが響き渡る。
「……」
いや、何で黙るし。
何で殴らないのさ。
別にMじゃないから殴られたいわけじゃ無いけど。
そこはほら、様式美じゃん。
えぇ……まじでどうすんのこれ。
せっかく彼女の求める転生者らしく悪役になりきって楽しんでたのに。
自慢じゃないけど悪役転生者めっちゃ読んだから結構様になってると思ったんだけどな。
このままじゃ彼女ががっかりしちゃうじゃん。
あーあ。
あーーーあ。
脳裏にこれまでの努力の記憶が流れる。
え、走馬灯?
死ぬの私?
入学式で彼女を見た瞬間、雷が落ちたように恋をして。
いくら私でも女の子に迫っちゃいけないのは分かるから、遠くから愛でていられればそれで良かった。
だけど、あの子が転生者って奴で乙女ゲームの展開を望んでいたのが分かったから。
言ってることは分かんないけどチャンスだと思ったのだ。
だから、ちょろっと友人Aに軽く嘯いて、あの子が私をロックオンしてくれたのが分かったから程よく噂だけ流してあげた。
そしたらあれよあれよと想像以上にあの子の周囲が荒れちゃったから、そこからは焦ったよね。
ばれないようにばれないように、朝早くに登校しては机やロッカーを片付け、教科書が破られれば新しいのを買って届けて。
流石に制服がやられた時はバイト代が足りなくなってしまって焦った。
新聞配達とガソリンスタンドの掛け持ちに、プラスで内職まで入れて。
私無駄にラッピングの技術上がってしまったのですがこれ如何に。
今ならリボンで薔薇の花束作れるよ。
流石に不審がるかなぁっと思ったけど、「神様効果って凄い」って言ってたから誤解も上手くいってたし。
後は仕上げだと彼女が焼却炉にゴミを捨てにくるタイミングで漫画で見た悪女のセリフをブツブツ言ってみたのだ。
まぁ、それで変に言質取られても嫌だからあくまでも私が虐めていたとは言わなかったけどね。
だって捕まったら彼女と一緒に入れないじゃん。
ふむ。
「……私だいぶ頑張ったし。もう良いよね」
誰に言うでもなく、呟いて未だにリピートされる映像の隣で佇む愛しの彼女を真っ直ぐに見た。
まさか、見返されるとは思わなかったのだろう。
慌てて見下した表情を怯えたものにする姿に正直興奮した。
やばいわぁ、もう見てるだけじゃ我慢出来ないわぁ。
私の下でその高いプライドをぐちゃぐちゃにしてやりたい。
(もうやっちゃえよ)
ああっだめっ私の中の悪魔ちゃんが囁いてくるぅっ。
ちょ、天使頑張れ。
今こそお前の出番だ。
(今ならやれるわっ!)
おい、天使ちゃんお前もか。
悪魔も天使も私だからそもそも議論の余地なかったわ。
ま、そうだよね。
私もあの子のためにだいぶ頑張ったし。
多分誰よりも尽くしたし。
こんなひよってる奴らよりもスパダリになれる自信がある。
それこそ、私なら彼女のどんな願いだって叶えてあげる気概があるよ。
だから、ね。
そろそろ御褒美頂戴よ。
自称、転生ヒロインさん。