炎上5日目
「どうだい、同志書記局長、今日あたりは僕たちへの喝采の嵐じゃないかい」
朝一番、委員長が組合本部に入り、言った。
「違いますよ。まったく反対です。批判的コメントばかり、どんどん増えていきます」
「なぜだよ、一体何ゆえに僕らが批判されなきゃならんのだよ」
「記事が反感を買っているんですよ。本当にまずい状況ですよ」
「記事に問題はないはずだよ。君と僕とで検討して、時折、教宣局長の意見も聞いたんだから」
委員長はパソコン画面を覗き込んだ。昨日一日で、アクセスやコメントは1万件に達しようという勢いであった。例えば、
公務員がここまで腐っているとは思わなかった。
公務員を全員解雇して、もう一回、まともな民間人から雇い直すしかないな。
公務員というより、人間としてどうかと思います。
俺は高専出て働いてるけど、こいつらほどバカじゃない。保障できる。
公務員の自爆テロだね。末期的症状。
「はあ? 無礼なやつらだなあ。人をおちょくっているとしか思えないじゃないか」
「しかし……」
「この書き込み、何とかならんのかね。これは犯罪的だよ。こうまで愚弄するとは、教育以前の問題じゃないか。同志書記局長、こんなのを見せられるなんて不愉快だよ」
「同志委員長、書き込みを見るのが不愉快でしたら、それを削除することはできますが……」
「何だい、それは?」
「ブログには書き込みを削除する機能がありまして、ただ、削除すると問題が多い……」
書記局長が書き込みの削除の説明を始めた。委員長は最後まで聞いていなかった。
「要は、この書き込みをゴミ箱に捨てることができるんだな。早速、そうしてくれたまえ」
「ちょっと違いますが、大体その通りです。ただ、問題があって……」
「問題? 削除するだけだろう。何の問題もないじゃないか。技術的には、ブルジョア的なのが気に入らないが、できるんだろう」
「その委員長のおっしゃる意味の問題じゃなくって、別の意味で……」
「問題に意味がいくつもあるわけじゃないだろう。できるならやろうよ。不愉快だよ。それに何だい、この稚拙な文章は、愚かな大衆の馬鹿さ加減がにじみ出ているっていうもんだろう」
書記局長は委員長に強く促され、仕方なく書き込みの削除に取り掛かった。
「ところで、同志書記局長、今日の記事だが、昨日掲載し損ねた『あるべき公務員像』にしようと思う」
「分かりました。ペーパーをいただければ、後で私が打ち込んでおきますよ」
「えらく素直じゃないか、どうしたんだい」
委員長はそう言ってペーパーを書記局長に渡した。書記局長はせっせとマウスをクリックしながら言う。
「削除には時間がかかるんです。私が全部やっておきますから、ペーパーだけ下さい」
「そうかいそうかい」
委員長はペーパーを書記局長に渡した。書記局長はマウスをクリックし続ける。その日、組合本部は省内のどの部署よりも遅くまで灯がついていたという。