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炎上4日目

「委員長、大変です。ブログへのアクセスとコメントが急増しています」

 委員長が組合本部に入るやいなや、書記局長が叫んだ。

「え? アクセスとコメントが増えた?」

「そうです」

「それはいいことじゃないか。何か問題でもあるのかい?」

「かなり問題が…… とにかくブログをご覧になれば分かります」

 書記局長に促され、委員長はパソコン画面を見た。アクセス件数とコメントは、昨日1日で1000件を超えていた。

「これはすごいじゃないか。これだけの人が見てくれたということは、僕らの主張が世の中に認められたということじゃないのかい」

「そうじゃないんですよ。コメント欄を読んでくださいよ」

 ブログにはコメントが山のように書き込まれていた。例えば、次のようなもの。

 

 公務員の人って、こういう非常識な考え方をするんですか。わたしはいわゆる非正規雇用です。不況の際の調整弁みたいな、あまり自分を卑下して言いたくはないけど、ハッキリ言ってひどいの一言。月10万円弱の給料で各種保険にも入ってないし、そういう生活を想像できますか?


 少なくともこのような高慢な姿勢をとり続ける限り、永久に公務員批判は止まないであろう。役所の奥で茶をすすっているのではなく、広く世間を知るほうがあなた方公務員のためにもなるし、労働者の連帯という面からも有益と思う。


 公務員の憲法擁護義務から憲法改正案の提出の禁止は導き出せないのではないか。憲法改正規定があるということは憲法の改正を予定しているということで、いかなる改正にも反対するとなると、それはイデオロギーの世界の話になるのではないか。


「はぁ? 一体どういうことなのかね」

 委員長は腕を組んで不思議そうな顔で書紀局長を見た。書記局長は言う。

「記事を批判するコメントばかりですよ。今も増えていってるんです」

「批判って…… 分からんなあ。あの記事のどこに問題があったんだよ。君だって同意しただろう。」

「同意ですか? 同意というわけではないです。記事の掲載に反対はしませんでしたが、同意までは……」

「まあ、それはそれとして、一体何が問題なんだか、とりあえず、同志書記局長、問題の所在と今後の対応を説明してくれないか」

 その時、

「ちぃーっす」

 何の前触れもなく、副委員長が組合本部に入ってきた。

「同志委員長と同志書記局長じゃん。二人して、何やってんの?」

「君は、同志副委員長、まったく、君という男は……」

 副委員長を見た委員長は、少し声を荒げた。

「同志副委員長、大変な事態に陥りまして……」

 書記局長は言った。

「ブログの調子はどう?」

 副委員長はパソコン画面を見て、「おぉ」と感動だか驚きだか区別のつかない声を上げて、言う。

「ブログ炎上じゃん。でも、あの記事じゃ仕方ないな。俺は一切感知してないから、委員長と書記局長で何とかしてよ」

 副委員長はそう言って組合本部を後にした。

「炎上って何だい。どこも燃えていないのに、妙なこと言うねえ、だから副委員長は……」

 委員長は事態を理解できていないらしい。書記局長はブログの炎上の意味も含め、状況を説明した。例のごとく、委員長は「分かった」、「分かった」を連発しながら聴いているが、本当に理解しているかどうかは定かではない。

「要するに、こいつらは僕たちの記事の趣旨に反対していると、こういうわけだな」

「簡単にいえば、そういうことです」

「分からんやつらだなあ。しかし反対者なら仕方がないな。支配階級側の人間か、支配階級にだまされている愚か者かだから」

「いえ、それは……」

「今日は『あるべき公務員像』という論文を用意してきたんだが、仕方がない。それは明日の記事に廻そう。反対者には懇切丁寧に僕たちの立場を説明してやらなければならないな。同志書記局長、ちょっと待っていたまえ」

 委員長は、自分の机について、パソコンのキーを叩き始めた。

 しばらくして、

「できたぞ。今日の記事だ。同志書記局長、ちょっと見てくれないか」

 例によって、委員長はA4のペーパーを書記局長に示す。


 支配者側の見解を鵜呑みにして正しい姿が見えない人々に言いたい!!

 君たちは我々を批判しているようだが、考えても見たまえ。このように、労働者同士がいがみあっても何の解決にもならないのである。敵は支配者とアメリカ帝国主義と国際金融資本であって、労働者側が仲違いしている暇はないはずだ。我々は諸君の良心に訴えかけたいのです。支配階級の妥当こそ、我々が目指すべき目標であって、労働者の利益になるのである。君たちはいったい何を批判しているのか。公務員の労働条件は法律で決まってあるから、これは動かしようがないのであって、我々の運動は、押せば動くところの支配階級の打倒に向かわねばならないのである。


「同志委員長、これはちょっとまずいんじゃないでしょうか」

「どこが?」

 書記局長は、まずい理由を懸命に説明した。しかし、委員長には理解されなかった。例によって例の経過をたどり、最終的には、その文面がそのままブログに掲載された。

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