炎上3日目
「同志委員長、来ました」
書記局長が委員長にパソコン画面を示した。
「来たって、何が?」
「コメントですよ。見てください」
委員長は、状況を理解しないままに、ともかくも、パソコンの画面を覗き込んだ。コメント欄には、次のコメントが記されていた。
公務員と民間の平均給与を比較しますと、明らかに公務員はもらいすぎではないかと思います。福利厚生面からいっても、官民格差はその通りで、国民の理解を得るためには、その辺りのことは、よくお考えになった方がよろしいのではないかと……
「何だい、これは?」
「コメントですよ、同志委員長。『公務労働者に良識ある市民の一層の御支援を!!』の記事に対して、こういうコメントが書き込まれたんです」
「は?」
「ですから、ブログには、ある記事に対してコメントを書き込めるという機能がありまして、ネットを通して我々の最初の記事を見た人が、その記事に対して、こういうコメントを書き込んだということなんです」
「ふーん」
委員長は、まだ腑に落ちない様子である。
「えっと、このコメントというのは、僕たちが入れるんじゃなくて、第三者が記事を評価するという意味なのかな」
「簡単にいえばそういうことです」
書記局長は言った。説明に疲れたのであろう。
「それにしても、こいつバカだねぇ」
パソコン画面を見た委員長は言った。
「バカですか?」
「だって、そうじゃないか。こいつ、公務員の給与体系や人事制度を知らないで書いてるに違いないよ。バブルのときなんか、公務員になるやつはバカだと言われるほど、民間の羽振りがよかったんだよ。最近は景気回復基調だけど、不況になったら公務員の給料が高すぎるなんて、アリとキリギリスみたいな話じゃないか」
「それは一理ありますが……」
「こいつには、ひとつ、できればガツンと言ってきかせてやらなければならないが、どうすればいいんだ?」
「それなら、コメントの機能を使えばいいです。ここのこの部分に、このように文字を打ち込んで」
書記局長はコメントの機能を説明した。例のごとく、委員長は「分かった」、「分かった」を連発しながら聴いているが、本当に理解しているかどうかは定かではない。
「分かった、分かった。とにかく、分かった。反論文は僕が考えるから、君、同志書記局長が打ち込んでくれないかい」
「分かりました」
委員長は自分の机に戻り、パソコンのキーを叩き始めた。
そして数分後、
「できたよ、こんなもんでどうかな」
プリンタからA4のペーパーが打ち出される。反論文である。ちなみに、文言は次の通りである。
あなたは重大な勘違いをしています。これは恐らくは権力の犬的なマスコミが吹き込んだからと思われるが、易々と反動政府の策略にかかっているようでは、知性を疑われかねないので、正しくものを見ることを期待する。
例によって、このコメントについて、委員長と書記局長の話し合いが、時折、教宣局長への長電話も交え、延々と続いた。書記局長は、前回よりも委員長に抵抗したが、委員長の勢いを止めることはできなかった。結局、委員長の考えた文面がそのままコメント欄に掲載されることになった。
なお、この日の記事は「教育基本法の改正には絶対に反対すべきである」であるが、同様に、委員長と書記局長の話し合いが、時折、教宣局長への長電話も交えながら、延々と続いた。結局、委員長の考えた記事がそのまま掲載されることになった。