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炎上前々日

 委員長は組合本部で沈痛な面持ちで新聞を読んでいた。書記局長が不思議に思って近づいて言った。

「同志委員長、眉間にしわを寄せて何を読んでいるんですか」

「まずいよ。これを見なよ、同志書記局長、厚生年金と共済年金の統合案の具体化だってよ。どうしてくれるんだよ。これじゃ公務員やっている意味がないじゃないか」

「それだけ民間人から疎まれてるっていうことではないでしょうか」

「そんな落ち着いている場合じゃないよ。最近は給料上がらないし、ローンも残ってるし、老後の生活はどうしてくれるんだよ」

「同志委員長、ひとつ提案があるのですが……」

「何だね?」

「最近はブログが流行しているということです。そこで、『公務員の労働組合書記局長が語る』的なブログを作って、一般ピープル向けの情報発信を行ってはどうかと思うのです」

「ブログって何だい。僕にはよくわからないんだが、そんなにいいものなのかい」

「ええ、結構使えますよ。それはかくかくしかじかで……」

 書記局長はブログの説明をはじめた。委員長が説明を理解できたかできなかったかは分からないが、しきりにうなずいて、「わかった」、「わかった」と連発している。

「要するにホームページの簡易輸出版みたいなものだね」

「ムチャクチャ簡単に言うとその通りです。しかし委員長、簡易輸出版って……」

「簡易輸出版はさておき、ホームページがあるのに、ブログを作るというのは、屋上屋根を何だっけ…… まあいいか。で、利点は何かあるのかね」

「現行規約上、ホームページの更新には、その都度、国家経済計画省リベラル公務労働者評議会中央委員会の承認が必要ですので、機動的に動きにくいのです。その点、ブログは現在規約に記載されていません。そこで、更新を担当役員に一任するか、更新の要件を中央委員会幹部会の承認くらいに簡略化する規約として、職員のほか、一般大衆からの質問や批判にも誠実に対応することにすれば、組合に加入してくれる人も増えますし、国民の公務員への理解も深まると思います」

「そうだね、いい考えだ。しかし、中央委員会幹部会の独裁だという批判があるかもしれないよ。それに、ブログ更新を担当役員に委ねるとしても誰が担当になるかという問題もあるし、すごく評判になればその担当役員の権力が強くなるだろうし、イデオロギー的な問題点も検討しなければいけない」

「それは承知しています。ですから……」

 書記局長は委員長に長々と説明を始めた。委員長もそれに対して長々と質問をぶつけ、時折、教宣局長に長電話をかける。不毛な議論が何時間か続いた後、

「わかったよ、同志書記局長。とりあえず、この問題は明日の国家経済計画省リベラル公務労働者評議会中央委員会幹部会に諮ることにしよう」

「はい。それがいいと思います」

「ところで、あいつ、副委員長を最近見かけないけど、何をしてるんだろう」

「同志副委員長ですか。あの人は、最近、新人の若い女性職員のところに入り浸ってますよ。だからなかなか組合本部に顔を出さないんです」

「入り浸ってるって、迷惑じゃないのかね」

「同志副委員長が言うには、執務室の片隅の誰も使っていないロッカーに朝から晩まで隠れ、遠巻きにその職員を見守っているということで、一応、迷惑はかけていないとのことです」

「それじゃストーカーを通り越してタダの変質者じゃないか。困るなあ。組合の評判を落とすようなことをしてもらっては……」

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