夏いろ
第1回なろう文芸部@競作祭 『キーワード:夏』投稿作品
わたし、飯山明日香は夏が嫌いだ。夏休みがあるから好きだなーんてありえない。絶対に。夏になると空の青とか、夕日の朱とか、スイカの赤でさえもわたしを苛立たせる。「なんでそんなものがいいの!」って叫びたくなる。それがわたしにとっての夏だった。あの日、あの場所でその人に会うまでは……。
その人にあったのは中2の 夏休みだった。わたしとちがって夏が大好きな両親は軽井沢に旅行に連れ出していた。その人は軽井沢で両親が仲良くなった人の息子さんだった。両親はその息子さんにわたしと行動するように頼んだらしい。両親とも、わたしが人間と関わりたくない、できることなら家で漫画でも読んでいたかった。もっとも、今では両親の強引さに感謝しているが、当時のわたしはめんどくさいって思っただけだった。
わたしはその息子さんにわたしに関わらないでほしいと頼んだけど、生まじめな息子さんは首をたてにはふらなかった。
ある夜、息子さんはわたしを外に連れ出した。夏が嫌いなわたしは当然、息子さんの手を振りほどこうとしたけど、男女の力の差は大きいのか振りほどくことはできなかった。息子さんはわたしにこういった。息子さんはわたしの腕をちょっと自分の方に引き寄せて耳元で、
「ねぇ、明日香ちゃん、ここでは夜になると花火がうち上がるんだ。ちょっとだけみてみようよ」
「やだ、帰りたい、わたしお家に帰りたい」
「ね、ちょっとだけ」
「…………わかった」
断れる訳ないじゃない。息子さんのたのみなんまから。そう思ってしまったのはわたしのわがままなんだから。わたしの思いとはうわはらに虹色の花火がちっていった。
そして、息子さんはまた耳元で、
「好きだよ?」
って……。
たぶん、わたしの顔は紅色の花火と同じくらい真っ赤だったんだろうな。
それでも、わたしたちはお互いに連絡先を交換することはなかった。さよなら、わたしの初恋。さよなら、わたしの愛しい人……
あれから何年たったのだろう。わたしはあれいらい恋というものを知らないで育ってきた。相変わらず夏は嫌いだけど、夏になるとあの花火を思いだす。高校に入ってからも、大学に入ってからも、両親はわたしを軽井沢に連れ出した。しかし、息子さんに会うことはなかった。親は20代後半になっても、結婚する気配もないわたしのことを心配したのだろう。わたしにお見合い話を持ってきた。その人はあの夏一緒に花火を見た息子さんだった。