闘技場
俺のおすすめの甘味処に行ったり、なぜかククのおすすめのランジェリーショップに連れられたり(下着を選んで欲しかったらしく、他意? はないとのこと)、出場者の応援にも行ったりして、ついに最後の種目<最強用心棒決定戦>の時間を迎えた。
競技が行われるのは闘技場。普段は屈強な戦士が腕を競い、観客がどちらが勝つか賭けるそのギャンブル施設へと、多くの人が足を運ぶ。
もちろん俺とククもだ。
「おっ、あれは……」
闘技場の入口でルシフとフェーダさんを見つけた。ルシフたちもこちらに気付いたみたいだ。
「遅かったのう。もう席はほとんど埋まっているようじゃぞ。空いてるのは立ち見ぐらいじゃ」
「やっぱりか……しまったなぁ」
予想通りの満席。本当は並んででももう少し早く席をとりに来るつもりだったんだけど失敗した。
原因は――俺。
いや、さすがにランジェリーショップに連れて行かれたのが……俺が入っていいものかまず動揺したし、ククにどの下着がいいか選んで! とせがまれるものだから、さらに焦って……はぁ、選ぶのに時間をかけ過ぎた。
「先に着いていたのなら入っていたらよかったと思いますが……ルシフさんも立ち見になっちゃいますよ?」
「構わん。一人で観てもつまらんしのう。フェーダはこの後出場者の待機部屋に行ってしまうし」
「はい……ちょうどいい時間ですね。じゃあクレスさん、ルシフ様の見張りをお願いしますね。またナンパをしないように」
「き、昨日で懲りたわい……」
ビクッとほほを引きつらせるルシフ。
昨日の美人仲居コンテストも見せてもらえず、フェーダさんに強制連行されたのを見かけたけど……帰った後もお仕置きをされたんだろう、たぶん。
「それでは優勝は目指さない程度に頑張ります」
「おう、頼んだぞ」
フェーダさんは出場者専用の入口から先に闘技場の中に入っていった。
「……あの、さっきフェーダさんが優勝は目指さないように、と言ってましたがどういうことでしょう?」
ククが頭にはてなマークを浮かべる。
「け、謙遜しているんだよ、なぁルシフ」
「そ、そうとも。さすがに優勝は難しいと思っておるのじゃろう、なぁティナよ」
フェーダさんの失言を必死にフォローする。
くぅ、フェーダさんはキリッとした見た目によらず、少しだけ抜けているところがあるんだよなぁ。
実はフェーダさんには決勝戦手前くらいで負ける、もしくは棄権してもらうことになっているのである。このことはルシフが昔魔王であった事実を知っている数少ない人物、ルシフとフェーダさんと俺しか話し合われていない秘密の内容だ。
実力は元魔王であるルシフのお墨付きだから、ルーフェさんでも出ない限り、優勝はまず間違いないはず。そして、ルーフェさんが出ないのは確定している。だってもし出たら優勝者がルーフェさんになるって、みんな分かるから、興ざめになっちゃうから。
とはいえフェーダさんが本気を出して、強さのアピールをし過ぎるのもよくない。元魔王の側近だった事実がばれたら大変なことになるだろう。だからある程度注目されるところまでで、実力を出すのは抑えておこうというわけだ。
「……そうですか。謙遜ですか。私としては全然優勝できる実力を持っていそうに見えていたんですが……」
「おお! やはり実力は隠しきれ――むぐぐ!」
俺は慌ててルシフの口を塞ぐ。
「えっと、いったいどういうところがそう見えたんだ?」
「そうですね、やはりルシフさんを追いかけているときの機敏な動きでしょうか。身体能力はかなりのものかと……なんか今日はお二人仲良しですね」
ルシフの口を押さえている俺の姿を見て、ククはじとーっと疑惑の目をこちらに向ける。
「なんか怪しいですねー……」
「――ぶはっ、気のせいじゃ、気のせい。ほ、ほれ、そろそろ中に入らんと立見席もなくなるぞ」
「それはまずい。さ、さあいそごー」
俺とルシフは向けられる視線から逃げるようにして、闘技場の中へ先に入場した。
「うーん、絶対なにか隠してますよ……」
闘技場の中はなかなかに広い。
中心にある石でできた四角いリング。その周りを階段状の観客席がぐるりと取り囲んでいる。観客席の一番後ろが立ち見席――俺達のいるところだ。
すでに会場は満杯。
いつ始まるのかと人々は会話をしたり、そこら中に設置されているトーナメント表を見たりして、ざわざわと落ち着きがない様子だ。
そんな中、俺とルシフは下手に口を滑らせないよう、あまり話さないでいた。
ククからの疑惑の眼差しは今も続いている。
「はぁー、やっと見つけたわ!」
「うおっ、なんじゃ!?」
急に後ろから声がかけられた。横を見てみるとルシフの肩が誰かに掴まれている。そのまま振り返ってみる――
「ええっ!?」
お、驚いた! なんでこんなところに!? そしてルシフに何か用が!?
後ろにいたのは迷彩柄のローブをきた人物。これまた迷彩柄のフードを目深にかぶっていた。
こんな明らかに場違いで、怪しい格好をした人物で思い当たるのは一人しかいない。
「ククも久しぶり。そっちでもうまくやっているかしら?」
――旅ラン一位の主人。そして昔、魔王を倒した元勇者であるルーフェさんだ。




