治癒の包帯
「あら~、そうだったんですか~。私はてっきり二人きりなのをいいことにイチャイチャしていたと思いましたのに~」
「違う、違う!」
「断じてそんなことはありません!」
ムーの軽口に全力で否定する俺とクク。
イチャイチャなんてそんな……ちょっとだけククが引っ付いてきたくらいだ。第一俺達は付き合っているわけでもないのに。
「でも否定すればするほど怪しく思えちゃいますよ~?」
「ええー……じゃ、じゃあどうすれば……」
「どうする必要もないって。ムーはからかっているだけなんだから」
ベッドの上でおろおろするククをなだめる。
おっとりしたしゃべり方とは裏腹に、性格がSっぽいムーはその様子を笑顔で見ていた。
「なんにせよ良かったです~。起きていてくれて。一つ看病の仕事が減りました~」
昨日と今日と、ムーはこの大会専用の医務室で治療の手伝いをしている。見舞いも兼ねて、仕事として様子を見に来てくれたんだろう。なので――
「そうだな。じゃあもう戻ってくれてもいいんぞ」
とりあえず出て行ってもらおうか。これ以上ククをいじられる前に。
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ~。まだお話したいです~」
ムーに泣かれてしまった。……明らかに嘘泣きだ。
「手伝いはいいのかよ。他にも治療を待っている人がいるんじゃないのか?」
「今はいないですよ~だ。というかここに運ばれてくる参加者はククさんが初めてでしたし~。転んだ観光客がちょっと来るぐらいで基本暇ですし~」
……さすがに仕事に支障をきたさないように、みんな体には気をつけているか。
初めて運ばれたことを知って、ククがまた顔を赤くさせる。
「そんな暇なところなのに、なんでわざわざ呼ばれたんだろな」
医療経験のある大会運営の誰か、もしくはスピネルの中にある旅館で働く誰かでよかった気がする。
「どうも私の包帯について聞きたかったみたいですね~。よく効きますから~」
「確かにムーさんが渡してくれる包帯は怪我がすぐ治りますね。あと体調が悪いときに首に巻くと良くなっちゃいますよね」
「そうだな。たまにお客さんに使うけど、痛みもすぐ引くし、結構評判いいぞ」
「ありがとうございます~。それでですね~、その包帯をどうやって作っているか、教えてほしかったみたいです~」
運営の誰かに呼ばれたってことか。旅館では普通に使っているからなぁ。どこかからすごい包帯があるという情報を聞いたんだろう。
「確かに便利だもんなぁ、あの包帯」
なんでも即効で治す包帯。街で売っているなんて話は耳にしたことない。
俺も気になって、以前どうやって作っているか、ムーに聞いたことがあるけど、そのときは企業秘密かなんだか言ってはぐらかされたのを覚えている。やっぱり教えるとまずいことでもあるんだろうか? 家系直伝のものだったり、希少な植物からとった薬を使っていたり……?
「それで教えたんですか? 作り方」
「は~い。ティナさんやククちゃんみたいにからかうわけにもいきませんしね~」
「秘密にすることじゃなかったのかよ……。それなら俺達にも教えてくれたってよかったんじゃないか?」
「もう、わかりましたよ~、拗ねないでくださ~い」
……拗ねてはいない。隠し事されてちょっと落胆しただけだ。
「ええとですね~、実は包帯自体はその辺に売っているものなんですよ~。私が身につけているうちにいつのまにか効果が出るんですよね~」
「「またからかってる?」」
俺とククはじとーっとした目でムーを見る。
「とんでもないです~。疑うなら外にいる医療スタッフの方に聞いてくれてもいいんですよ~」
ぷくっ、と小さくほほを膨らませるムー。
とはいえ怒った演技である可能性もあるので、一応医務室から出て、外にいる医療スタッフの人に話を聞いてみる。――本当だった。
「ううっ、そんなに私信用ないんですね……」
ムーは目元をぬぐう――仕草をする。
「いつもからかい過ぎてるからだぞ」
「え~、だっておもしろいんですも~ん」
開き直られてしまった。
ククはそんなムーにため息をつきながら尋ねる。
「しかしその話が本当だとするとどうしてこんな包帯が出来上がるのでしょうね。不思議です」
「まあ私達マミーの能力ってところですかね~。一ヶ月くらいずっと身につけていた包帯は治癒効果が出るんですよ~。なので量産はできませんが~」
能力か……うらやましいなぁ。人間はそういう特殊な能力は持っていないから。周りが魔物ばかりだと特にそう思うかもしれない。
――なんて思っていたら、ここでククは驚くべき発言をした。
「うーん、もしかして治癒成分はムーさんの体液だったり……?」
「えっ……?」
俺とムーは一瞬固まった――が、ムーはすぐに腕をぶんぶんと振って答える。
「も~う、体液とか何いやらしいこと言っているんですか~」
「い、いえ! 決していやらしい意図で言ったわけでは! あの……汗ではちょっと汚い感じがするかと思いまして……」
恥ずかしそうに小さな声になるクク。
……ん? 汗って言ったか? まさかね。
「汚いとか言わないでくださいよ~。汗は染み込んでいるでしょうけど、消毒はちゃんとしているんですから~。臭くもないでしょ~」
「えっ!? やっぱり治癒成分はムーの汗なのか!?」
「そうですよ? 何もなくて奇跡みたいに治癒効果がつくわけないじゃないですか~」
当たり前のように言われる。
ええと……これからあの包帯使いにくくなるなぁ。効果がてきめんなのはわかっているんだけど……。
「むぅ……そんな嫌そうな顔しないでくださ~い。だから隠してたのもあるんですからね~」
今度はぷく~っと大きくほほを膨らませるムー。
どうやら単にからかって隠していたわけではないみたいだ。俺は素直に「ごめん」と謝る。
「うんうん、わかればいいんですよ。しかしそうですね~、包帯の秘密を一つ教えたのですから、私にも隠している秘密を一つ教えてもらいましょうかね~」
隠している秘密と言われてどきりとする。
俺が男であることはムーにまだ言っていない。しかし、まさかうすうす感づかれていて、この際聞き出そうというのか? なんかすぐに言いふらされそうなきがするんだけど……。
ムーはにやにやと笑みを浮かべながら俺の方を見つめる――かと思えば、ふふっと小さく笑って視線をククに移した。
「ククちゃんってサキュバスなんですよね~。普段は全然そんな感じしませんけど。でも知っているんですよ~、本性は隠していてある条件で出てくるって。できればその条件詳しく教えてくれませんか~?」
一週間空けてしまいました……。
ただ何も書いていなかったわけではないんですよ!
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