美人コンテスト開幕
<大盆運び>や<二人二脚>などの種目が終わり、もうすぐ一日目最後の種目『美人仲居コンテスト』が始まろうとしていた。
リムはかなり緊張しているみたいで、さっきから落ち着きがない。きょろきょろと他の出場者を見回し、『どうしよう、みんなすごくかわいい、きれい』と書いたメモを俺とカトレアの顔の正面に交互に素早く突き出してくる。
「大丈夫にゃ! みんにゃと同じくらいリムもかわいいから! 全然心配する必要にゃし!」
カトレアがこう励ますも落ち着かせるには逆効果。リムは顔を真っ赤にし、口をパクパクとさせる。
ここは大会のアドバイスを任された俺からもフォローを入れよう。
「そんなに緊張しなくても、始まっちゃえば意外とすぐ終わるって。最初に名前を聞かれて、後は質問ちょっとだけあるだけで自分の番は三分もかからないから。ほらまずは深呼吸」
質問される内容は毎年同じ。名前と働いている旅館、そして自分のアピールポイント+ちょっとした会話ぐらいだ。参加人数も三十名と多いので一人当たりの時間は少ないのである。
なので奇抜なアピールをしなければ、審査の方も判断できず、審査員の好みの問題になることが多い。まあコンテストなんだけど、旅館の看板娘を紹介するコーナーと言っても過言ではない。だからそこまで気を張る必要はないのだけど……リムにとっては多くの人の前に出ること事態が苦手だったか。
「――それでは出場者の方はステージにお上がりください」
司会の方からにお呼びがかかった。
リムはスライムとは思えないほどギクシャクとした動きでステージへと向かう。深呼吸ぐらいでは緊張はほぐれなかったみたいだ。……まあスライムであるリムに深呼吸が効果があるかは全く分からないんだけどな。
「……しまったなぁ。無理させちゃったかも」
「みゃあいい機会にゃ。リムももうちょっと自分に自信を持って欲しかったしにゃあ。ここは見守ってあげようじゃにゃいの」
確かに俺達にできるのはそれくらいか。
しかし、カトレアが見守る立場か……若干違和感があるな。
「そうだな。じゃあもうちょっとステージ前に寄って近くで見るか」
「さんせーい!」
「……おお!」
ステージ近くまで来て見ると普段街では見られない光景が広がっていた。
最前席の多くをスライムがとっていたのである。確実にリムが出場するという情報を得て、ここまでやって来たのだろう。
スライムの周りの観光客も多少戸惑っている様子も見られる。一方で珍しい光景をスケッチしている人がいたり、スライムに食べ物を売る商人もいたりと普通に受け入れられている姿もある。見た目も怖くなく、プルプルとした動きにかわいさがあるのが大きいのだろう。見た目がおぞましいことが多い不死系とは扱われ方が違う。
「あれ? そういえばルシフの姿が見当らないな」
「確かににゃあ。絶対見に行くって言ってたのに。…………あっ、あそこいたにゃ」
カトレアが指差す方向に視線を向けると大広場の端でフェーダさんに引きずられているルシフの姿を見つけた。
「にゃんかご主人、抵抗してるにゃ」
「ほんとだ。まあこのコンテスト楽しみにしていたみたいだからなぁ」
確かフェーダさんからも見るならOKと了承されていたはずだけど。
思っていたより出場者のレベルが高くてルシフがなびかないようにした。あるいはさっきのお昼休憩でナンパしまくっていたから、それがばれて怒らせたのかもしれない。なんにせよ、コンテストを見れずご愁傷様である。
「それではただいまより美人仲居コンテストを開催したいと思います」
司会からコンテスト開幕の知らせに、わー、っと観客から拍手が浴びせられる。今日一番の盛り上がりだ。
「えー、審査員の方々はこちらの十名です」
十名の審査員は座ったまま軽く頭を下げる。
「そして、進行は――」
司会の人から、さきほどの種目まで実況をしていたリアディがまたまたマイクを奪う。
「はーい、インタビューや質問は私リアディが勤めさせていただきまーす♪ いやー今回もすごくきれいな方が集まっていますね。しかもきれいだけじゃなく、かわいさまで兼ねそろえている方も多いんですよこれが。ほんとアイドル界に来なくてよかった。ライバルが増えるのは困りますからね~。もちろんアイドル力なら私が優勝ですが。――えっ私のことはいいから早く始めろって。はいはい分かりましたよ。仕方ありませんねー……それでは一番目の方どうぞ!」
テンション高めにリアディが呼ぶと、ステージ上に設置された赤いカーテンが開き、一人目の出場者が姿を見せた。




