デート?
カトレアと二人で露店を見て回っている最中、あまり人が集まっていない店を見つけた。
その店を出していたのは旅館『疾風神雷』。うちの旅館と同じくこの運動会初参加の旅館。
なのでなんとなく親近感もあり、そこの出し物――『貝のお吸い物』を買ってみることにした。
「うみゃ~、このお吸い物。出汁がよく利いてるにゃ」
「おお、確かに。なんかすごくほっとする味だ。やっぱりどこの旅館も良い物出してるよなー」
ちなみにカトレアの所持金が少ないのでここのお金は俺持ちである。
「お褒めいただきありがとうございます♪ おやおや? よく見れば先ほど活躍されたカトレアさんじゃないですか? 見てましたよー、素晴らしかったです。ええ、成績的にもネタ的にも」
いつから俺達の隣にいたのか。さっきの出来事を思い出すようにうんうんと頷いているのはカトレアよりも小さな女の子。金髪がぴょこーんと左右両側、寝癖のようにはねている。ぱっちりした目に小さな鼻。端正な顔立ちだ。
お褒めいただき――とか言っているし、このお店、つまり『疾風神雷』で働いている人だろうか?
「ああ、申し遅れました。私ここの主人をしてますテラスと言います。あっ、主人なんて嘘だと思ったでしょ? よく言われるんですよねー、でもほんとなんですから。ねー、みんな」
彼女が露店の中で働いている従業員に、にっこり笑いながら聞く。
「まあ……」「一応……」「うーん、仕方なく?」
なんかいろんな声が聞こえてくるんだけど。彼女が主人をしていることにあまり肯定的ではないのか……?
「ちょっと、ちょっと、何か不服でもあるんですかー? いいんですよーだ、そんなに言うんなら減給しちゃいますもーんだ」
テラスさん? ――いや見た目も精神的にも幼いからテラスちゃんとしておこう。そのテラスちゃんはそっぽを向いて拗ねてしまった。
吸い物を器によそってくれた女の人がこそっと、僕達に耳打ちする。
「いつもこうなんっすよ。子供っぽくころころ機嫌が変わっちゃって。手腕はあるんっすけどねぇ……」
なるほど、手腕は認めていると。幼く見えるのにすごいなぁ。意外と年をとっているとか? もちろん女性に年齢は聞かないけど。
さて、機嫌が変わりやすいなら、戻してあげましょうか。
「せっかくこんなに美味しいのに並ばないなんてもったいないと思いますよ。ねえテラスちゃ――さん」
「わかってくれます!? ほんと味には自信あるんですよ! 他のところに負けてないはずです! ……はあ、やっぱり知名度ないと厳しいんですかねー」
「隣のお店が『天王山』が出してるっていうのもきついところじゃないですか? まあ場所は抽選で決められるのでこればっかりは運が悪かったとしか言えないですけど」
この辺りの引き運の悪さもうちの旅館と似ている気がする。あと付け加えて主人がちょっと変わっているところも。
「いやいや私にとっては一番の場所ですよ。向こうを観察するにはもってこいですし。さすが私! よく引き当てた!」
観察……? ああ、良いところを盗むってことか。確かに大手のノウハウを近くで見れるのはプラスなるかもしれない。しかし一番とは? 『勇々自適』じゃないんだろうか。
「そういえばこの出汁ってどこのを使ってるのかにゃ? もしよければ教えて欲しいにゃ」
「えっ、何言ってるんですかー。カトレアさんが買っていた乾物屋『日光』の削り節ですよ?」
「そうだったの!?」
カトレアが目を丸くして驚く。
「普段行ってるんじゃないのか?」
「いつも買うのは煮干だけにゃ。おやつにそのみゃみゃ食べるの。……そうか~、次行ったとき買ってみることにするかにゃ~、それで帰ってからティナに作ってもらおっと」
「えっ、なんで俺が?」
「うち一人で出汁がとれるとでも?」
ふんぞり返って言うことではないと思う。
仕方ない。そのときはちゃんと一から出汁のとり方を教えることにしよう。
「あははは、面白い方ですね。他の人もそうなんでしょうかね~。あっ、もうどこかに行かれます?」
「うん。みゃだみゃだ色んにゃところを見て回りたいし~」
「そうですか~、残念です。まあ同じ白組ですし、次の種目もがんばりましょー!」
テラスちゃんに手を振られながら見送られる。
「…………なんかあそこの主人カトレアに似てたな」
「そう? だとしたら優秀にゃ可能性が高いにゃ、ふふふ~」
「そうかもな」
「にゃ!? てっきり突っ込まれるかと――」
「サボりも多いんだろうな」
「にゃ~、上げて落されたにゃ~」
「なんで若干嬉しそうなんだよ」
「え~、別に~」
カトレアはこう言うけど、いつもよりテンションが高い気がする。
やっぱりあれか? イベントで街がいつもと様変わりしているからかなぁ。
旅館が出している以外にも、今日と明日だけ出店するところは多数ある。綿菓子や飴などのお菓子屋さん。旅館の名前が入ったバッジを売ったりする雑貨屋もところどころで見られる。
俺達は綿菓子を一つ買って分けつつ、ある場所へと向かった。
「おばあちゃ~ん! ちょっといいかにゃ~!」
やって来たのは占いの館『視えるんです』。先ほどの種目でカトレアが金運のお守りを借りたところだ。
「あ~い、何の用かね」
大きな椅子にちょこんと座り、しわがれた声を出すおばあさん。黒いローブに身を包み、顔はフードでほとんど見えない。前のテーブルの上には水晶が置かれている。
「今日は相性を占ってもらいに来たにゃ」
「ん? 相性?」
「ほ、ほら一緒に仕事をしているわけだし、相性を知っておくと良いことあるかもしれにゃいよ」
今更相性を占ってもらってもなぁ。普段接しているからカトレアのことはだいたい分かっているつもりだけど。
「二人の愛情だね。こっちへきておくれ」
「お、おばあちゃん、あい『じ』ょうじゃにゃくてあい『し』ょうにゃ!」
「あれ? 違ったのかい? あたしゃてっきり……」
「今回は相性で!」
「あ~い、わかった」
おばあさんが片手で俺の手を、もう片方の手でカトレアの手を握る。
「…………む~~~ん…………カーッ、視えた!」
「ど、どうかにゃ?」
「相性は……いいみたいだね。しっかりものの娘とおてんばの娘。片方が困って立ち止まったときにはもう方一方が引っ張り、片方が慌てたときにはもう片一方が落ち着ける。良い友達同士だねえ」
俺のことを娘と言ったか。占いで性別までは分からないのね……。
「相性良し……やったにゃ!」
「占ってもらうまでもなかっただろ。いつも一緒に仕事してるんだから」
「いいの。占いは女の子にとって特別にゃの!」
「……はい、それじゃ、五百ギルね」
おばあさんがこちらに向かって片手を突き出す。
ここはさすがにカトレアが支払った。
占いの館『視えるんです』を後にして大通りに戻るとリムを見つけた。
「お~い、リム。……どうだった? ルシフは見つけれたか?」
俺達はリムに駆け寄る。
「……(コクコク)」
「にゃんの話だったの?」
『明日の仕事について気をつけることをちょっと』
「にゃ~んだ、そんにゃこと」
お客さんが多い分、片付けが倍くらいになるからそれについてか? それくらいだったら俺もすでにアドバイスしていたのに。
「――あー、あー、大会連絡です。続いての種目の準備ができましたので参加者の方、観覧される方は大広場までお越しください」
司会の方からアナウンスがかかる。
「次ってにゃんだったっけ?」
「確か<大盆運び>だったな」
大きなお盆にお皿や湯のみなどを乗せて、倒れないようにして早くゴールまで運ぶ種目だ。大玉転がしのお盆版である。
『そろそろ私達も向かう?』
「そうするか」
「うん、今からは応援にゃー!」




