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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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恐怖の包帯

「なんだなんだ? いったい何が起こったんだ!? くっ、からまって動けねえ……」


 俺とククは張り巡らされたロープ――ではなく包帯によって宙に浮かされ、身動きが取れなくなっていた。


「クレスさ~ん、手を離しちゃ嫌です~……」


 驚いて離してしまった手を求めて、ククがじたばたと手を動かす。しかし、余計包帯が絡まるだけで俺に手は届かない。


 ぺた、ぺた、ぺた……。


 廊下の先からゆっくりと誰かが近づいてくる。足音からすると裸足だろうか。




「……あら~、ティナさん、それにククさんじゃないですか~」


 現れたのはムーだ。意外なことに何もメイクなどはしておらず普通の姿。いつもと違うのは着物を着ていないくらいで、包帯のみを身に纏っている。顔、おなかの肌が見えてしまっているのは俺達を捕まえるのに自分の包帯を使っているためかな?


「やあムー、身動きが取れないんだけど、これはどうしたらいいんだ?」


「ふふふ~、今からちょっとしたゲームをしていただくのに私が捕まえたのですよ~。ま~ず~は~」


 ムーがぐるぐる巻きにした包帯の中から大きな料理鋏を取り出す。そして俺とククが絡められている包帯の一本をチョキンと切った。するとククの首、腕、胴、足と次々に包帯がほどけていった。


「きゃっ!」


 包帯の解かれたククが床にストッと落ちる。


「ではククさんはこちらへ~」


「は、はい」


 いまだ俺を縛っている包帯をくぐり抜け、恐る恐るムーに近づくクク。ムーは恐ろしいメイクもしておらず、雰囲気もいつもと同じなので多少恐怖心は和らいでいるみたいだ。


「ではゲームのルールを説明しま~す。いまティナさんが捕まえられているこの状況、この鋏を使って助け出してくださ~い」


 ムーがククへ鋏を渡す。


「えっ、あの、適当に切っちゃって大丈夫なんですか? この包帯ムーさんのじゃあ……」


「全然構いませんよ~。これはお古の包帯ですし、もう捨てようと思っていた物を着てきましたから~」


 ……包帯も新しい物に替えたりするんだな。まあムーにとって包帯は服そのものでもあるから古くなってきたら新しい物に変えるのは当たり前か。


「それではゲームを開始しましょう。――あっそうでした~、言い忘れていましたが制限時間は三十秒で、助けられなかったらギブアップ扱いになりますので~」


「「え!?」」


 俺とククの声がハモる。


「それではスタート~」


 俺達の驚きをよそにムーがゲームの始まりを宣言した。




 今から三十秒となると時間が少なすぎるように思える。とはいえ鋏を使うので包帯を切る時間はほとんどかからない。作業なのでここは手当たり次第に切っていくしかないだろう。もしかするとさっきククを縛っていた包帯が解けたように、ある一箇所を切るだけで俺を縛っているすべての包帯が解けるかもしれない。


「えっと、とりあえずこの包帯から――」


 ククも手当たり次第切っていこうと考えたのだろう。一番近くにあった包帯に手をかけ鋏でスパッと切る。


「――おっ!」


 もしかしていきなり一発目で当たりの包帯を切ったか?


 腕、足、胴と次々に包帯はゆるみ、解かれていく。それに従って宙に浮いていた俺の体は床へ――


 ――ってちょっと待て! 首に巻かれた包帯だけ解けてないぞ!? このままじゃすぐそこの首吊り人形と同じ状態に……なったらやばいだろ! とりあえずは気道を確保しないと!


 自由になった手で首もとの包帯をつかむ。


 俺の危機にククが気付いてくれればこの包帯を切って……いやククの身長じゃ届かない!

 だったらこの包帯を操っているはずのムーに助けを……


 と、必死に思いでムーを見ていれば彼女は俺を見ながら笑いを噴き出しそうになっていた。




 …………あっ。つま先が床に着いてるじゃん……やられた。


 全然危ない状況じゃなかった。首に巻かれた包帯は緩んでいなかったけど、すでに俺の体は安全な足の着く位置まで下ろされていたのである。


「うふふふふ……見事に引っかかりましたね。ゲームなんで嘘で~す。どこから切っても首の包帯以外が解けるようになっていたのですよ~。どうでしょう、涼しくなっていただけたでしょうか~?」


「……冷や汗はかいた」


「ふふっ、それはよかったです。それではこのまま真っ直ぐお進みくださいね~」


「えっ、あの、ここはクリアってことでいいんでしょうか?」


 ククはいまいち何が起こったかよく分かっていないようでムーに進んでいいのか確認をする。


「そうなりますね~……あっ、鋏だけまた使うので返してくださ~い」


 ムーに鋏を返し、俺達は廊下を進むことにした。




「ふぅ、ここで最後かな」


 ムーに見送られた数分後、俺達は最後の部屋と思わしきところへ辿り着いた。 ここに来るまでに目の前を通るとガタガタと動き出す甲冑(またリッチが憑依していたのだろう)や包丁の刺さった(ように見える)吸血鬼ヴァンパイアに襲われたりした。しかし俺としては、まあよくできているなぁと感心する程度で怖くはなかったな。


 う~ん、びっくりしたのはいきなりドンッ! と壁の叩かれる音くらいだったなぁ。あとは……やっぱりムーの首吊り未遂(あれ)が一番怖かったか。あれだけ他の恐怖とはジャンルが違った気はするけど。


「よ、よよ、よかったです。こ、これで帰れるのですね」


 ククはもう俺にべったりとくっついている。というかしがみつかれている。怖い物は苦手みたいだったけど、俺の傍で後ろを付いてくることでなんとか自分の足でここまで来ることができた。怖がっている度合いは悲鳴や雰囲気でなんとなく分かるけど、ここまでよく頑張ったと思う。


「お札はこれだな」


 十字架の形をした墓の前にある、『解呪』と筆で書かれた一枚のお札。他にそれっぽいものは見当らないし、これでまず間違いないだろう。


「よし、じゃあこれを持って帰れば……ん?」


 お札を手に取るとお札が置いてあったその場所には真っ赤な赤文字で、


『逃ゲロ』


 と殴り書きがしてあるのを見つけた。


 次の瞬間――


「う゛あ゛あああぁぁぁ!」


 うめき声を上げながら、押入れから血まみれの人型の化け物が現れる。そいつは「カ……エ……セ……」と言いながら俺達に向かって真っ直ぐ近づいてきた。


「きゃあああああああ!!!」


 ククが叫び声を上げ続けながら、俺を引っ張って一目散にこの部屋から出ようとする。


 なるほど、最後に追い回すのか。驚かす側として王道の手段を取ってきたな。


 と、ククに引っ張られるがままそんなことを考える余裕しゃくしゃくの俺。


 後はこのまま入口の受付ロビーまで戻ったらクリアだな――――ってうわっ!


 ククが自分のピンクの浴衣の裾を踏んでしまい、前のめりになって転ぶ。そして腕を引っ張られた俺も同じようにバランスを崩して一緒にごろごろと前へ転がる。

 そのせいで本来部屋を出て左に曲がり廊下を進まなければならなかったのに、黒いカーテンで閉じられていた反対側への客室へと突っ込んでしまうというイレギュラーな事態が起こってしまった。


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