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旅バト!  作者: 染莉 時
第一章:魔物旅館?
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仕事内容:旅館の仲居(♂)

「ちょっとこれは着れません!」


 俺は渡された女性用の着物をセンカさんに返そうと腕を突き出し、拒否する。


「はあ? 何言ってんだい。着付け方が分からないわけじゃあるまいし。今まで旅館で働いていたんだろ?」


 そうだよ知ってるよ。着付けぐらい。


「そうじゃなくて俺はお――いちょっ!」


「更衣室はこっちにゃよー」


 猫耳のに手を握られ引っ張られる。

 触れた手の平は肉球のようにぷにぷにと柔らかい。押したりつまんだりしたら気持ちよさそう――って感触を味わっている場合か!?

 ぐいぐい引っ張られてもう受付ロビーを離れて廊下を進まされている。


「ちょっと待って、うわわっ――!」


 一旦止まろうとするも、思った以上に彼女の力が強く、前のめりになって転びそうになる。

 かわいい顔をしているけどやはり魔物か。身体能力が人間とは比べ物にならねえ。


「――にゃにかにゃ?」


 ただ、俺の声を気にしてくれたみたいだ。こっちを振り返ってくれた。歩くスピードは落ちていないけど。


「みんな勘違いしているみたいですけど、俺はれっきとした男なんです! だからこれを着るのは――うわっと!」


 彼女が急に立ち止まったので、勢いで押し倒してしまった。今まさに馬乗りの状態。

 きちんと着付けていなかったのか彼女の着物の帯は簡単にゆるみ、はだけてしまっている。

 そのはだけた着物の隙間からは白くすらっとしたふとももと、猫耳と同じく黒い尻尾が見えた。


「――ご、ごめんなさい!」


 慌てて横に飛び退き謝る俺。

 彼女は恥ずかしがる様子もなく、ごろん――ぴょんと立ち上がり、着物を軽く締め直した。

 むう、正直もう少しちゃんと着付け直してやりたい。


「別にこのくらい気にしてにゃいよ。それよりさっきから敬語でしゃべられてる方が気ににゃるにゃ。タメ口でいいにゃ」


「……わかった」


 そうなのか…………ちょっとぐらい押し倒されたことを気にして欲しかったけど。だって気にしないってことはあれだろ? 俺のことを男だと意識してないってことじゃんか……はぁ。


「あのさ、さっき俺が男だって言ったの聞いてた?」


「んにゃ。……ほんとかにゃ?」


 首傾げられてもなぁ。

 そんなに俺が女性に見えるのか。見えるんだろうなー……ショックなことに。


「ほんとだ。嘘つく必要もねえだろ」


「まあ確かに。言われてみれば口調も少し荒っぽいかにゃ?」


 そこはせめて男っぽいにしてくれよ……。


「しかしどうするにゃ? にゃんにゃら一度話し合うために戻る?」


「ああ、そうしてもらえると……あっ、ちょっとだけ待って。あの人ってもしかすると……」


 廊下の奥から歩いてくるのは黒いビジネススーツを着た女性――あの姿は。


「――フェーダにゃ! 彼女に相談するのが一番手っ取り早いにゃ!」


 猫耳のが大きな声をあげる。

 この子も彼女の知っているのか。やっぱりフェーダさんはこの旅館では高い役職についているみたいだ。


 二人で彼女の元へ駆け寄る。


「フェーダさーん!」


「あらカトレアさんとクレスさんじゃないですか。どうですか仕事の方は」


「着替えに行くところ――だったんだけど困ったことににゃりまして……」


「はあそれは……?」


「ごめんなさい(?)。昨日誤解を解いておけばよかったんですけど、俺男なんです」


 「えっ!?」と驚いた顔をされる。


「そういえば昨晩ルシフ様もそんなことを言っていたような……」


「あれっ、今日はあいついないんですね。監視はしてなくていいんですか?」


「大丈夫です。監禁中ですから」


 ああ、昨日の件の制裁か……ご愁傷様。


「しかし困りましたね……仲居さんをしてもらうつもりだったんですが男の方とは……」


「他の仕事はないんですか?」


「他は十分手が足りていますし、なにより人の力ではきついものばかりです。それに採用しようと考えたのは人間の接客の仕方、サービスを教わるためでもありますからね……ダメならやはりここで働いてもらう話はなかったことに……」


 それは困る! せっかく生活できる当てが見つかって、魔物相手の覚悟もできたのにいきなり辞めなきゃならないとか絶対避けたい!


「わ、わかりました。仲居としてやっていきます。仲居の経験はありますから!」


 ……親父の手伝いでね。

 今思えばなんで女装(化粧なし)させられてたのかわからねえけど。

 男だとばれることは一度もなかったし、できないことはない。ただ恥ずかしく精神的にダメージがくるだけだ。

 ここから追い出され、路頭に迷うくらいならやってやる――ってかやるしかない!


「お願いできるんですね。それはよかったです」


 フェーダさんの口元がゆるむ。

 計算どおりって感じだ。


「一応従業員の方々にはクレスさんが男性であることは伝えましょう。しかし、お客さんにはばれないでくださいね」


「はい」


「もしばれたら、クレスさんがどうしても女装して仕事がしたくてウチに入ったという噂を流さなければならなくなりますから」


 ……肝に銘じておこう。


「それでは私はまずセンカさんのところに話をしてきます。えーと、更衣室なんですが……男性の更衣室でも混乱を招きそうですねー。カトレアさん、まずは適当な空き部屋で着替えさせてあげてくれますか?」


「ラジャーですにゃ!」


「それでは頑張ってください」


 フェーダさんが受け付けロビーに向かっていく。


 俺はカトレアに反対の空き部屋のある客室の方へと連れられていく。

 またも恥ずかしげもなく手を握られ、引っ張られて。


 …………はぁ。ちゃんと言ったのに、やっぱりまだ男だと認識されていないんだなー……。


カトレアのセリフ「んにゃ」って肯定にも否定にもとれますよね。

……「いいです」と同じ感じかな。

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