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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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肝試し開始

 ――一組目のペア、風精シルフは入って一分くらいでギブアップした。どうやらカーテン入ってすぐのところに何かあるのだろう。カーテン越しで姿は見えななかったけど、明らかにここ受付ロビーに近いところで叫び声が聞こえてきたからだ。


 ギブアップした者もクリアした者もここに戻ってくるので、彼らの様子から中の状況を推測できる分、後の方が有利かもしれないな。


「「こ、怖すぎた……」」


 子猫サイズで薄い羽の生えた妖精――風精シルフはギブアップした今、二人で抱き合って震えている。

 ククやリムと同じく怖いものが苦手そうに見えるのに関わらず、肝試しに参加した二人に声をかけてみることにした。


「二人はどうしてこの肝試しに参加したんだ?」


「えっ、ええと興味本位で……」

「涼しくなるかと思ったの……」


 まあこれだけ震えていれば涼む目的は達成できたようだな。


 ルールには明記していないけど、さすがにカーテンの中の状況を聞くのはダメな気がするので他の話を聞いてみる。


「そういえばどうして一番目に? 真っ先に並んだように見えたけど」


「だって」

「待ったら悲鳴が――(きゃあああぁ!)――うぅ……」


 他のペアの悲鳴に耳を塞ぎ、ぺたりと床にひざをつける風精シルフたち。


「足がすくんでう、動けなくなると思ったから……」


 なるほど。確かにその状態じゃ前に進めなさそうだ。一番最初に挑戦するのが正解だったのか。たとえすぐギブアップすることになっても棄権するよりはイベントに参加できて……良かったのかな?


「(キャー!!!)ひぅ……」


 悲鳴がした直後近くでかわいらしい叫び声がした。風精シルフたちのものではない。


 ――あっ、そういえば!


 ふとさっきまで俺がいた場所に目を向けると、ペアであるククも目をぎゅっと瞑り、しゃがんで耳を塞いでいた。


 参加者の悲鳴だけでも動けなくなっちゃうかぁ。とりあえず耳を塞いでいる間はある程度恐怖も軽減されるだろうし、落ち着いたら(耳を塞いだまま)並んでこの肝試しに挑もう。




 しばらくしてククが深呼吸をし、立ち上がる。この間に参加者の半数くらいがカーテンの中へ挑戦していったけれど、ちゃんと奥にあるお札を持って戻ってきたのは――


 だいたい半数くらい。


 まあそんなものか。みんなギブアップなんて極端なことはなかった。奥まで行ってお札を持ってくるだけだからなぁ、むしろ半数ギブアップはかなり多い方と言えるだろう。


「じゃあそろそろ俺達も中に入るために並ぼうか」


「は、はい! 分かりました大丈夫――ひぅ、です!」


 悲鳴が上がるたびにビクリと肩を震わせながらククは答えた。口では大丈夫と言っているけど傍目には全く大丈夫そうではない。

 とはいえ参加の意思は固いようで、いつもと比べれば明らかにぎこちないギクシャクした動きで、なんとかカーテンの前にできている列の後ろへ並ぶ。




 五組のペアの悲鳴と二人の泣き顔を見た後、ついに俺達の番がやって来た。


「ティナは真んにゃかくらいでの挑戦かにゃ」


 入口のカーテン前で魔石灯を配っていたカトレアから魔石灯を受け取る際声をかけられる。


「まあな。カトレアはまだなのか?」


「ふふふ~、ヒーローは遅れてやってくるという言葉を知らにゃいのかにゃ~? ウチらはもちろん最後にゃ!」


 ……もう一度言っておくけど半数はギブアップせずに戻ってきている。なのでカトレアたちがギブアップせず戻ってきたとしてもヒーローになるわけではないと思う……が口には出さないでおこう。


「……そうか、まあ頑張れよ」


「ティナとククちゃんもにゃ! 恐怖に負けにゃいでよね!」


「ああ、任せとけ」


 俺がこう宣言するとククもぎこちなく無言で頷いた。




 魔石灯も受け取ったことだし、さあ入ろうとしたところで――


「あ、あの!」


 とククに呼び止められた。

 いざ出発となってやっぱり不安になったのだろうか? 棄権するなら棄権するでククの意見を尊重しようと思っていたのだけど……そうじゃなかった。


「えっと……お、お願いします」


 ククが片手を差し出してきたのである。


 ……ん? ああ、そうか。怖くて足があんまり動かないんだもんな。俺が引っ張ってあげないといけないか。


 というわけでククの手首を掴んであげる。

 その瞬間ククはなぜか不服なのかこれでいいのか、複雑な表情を見せたけど、俺が先陣を切ってカーテンの中へ入ろうと腕を引くと何の抵抗も無く素直に後ろに付いて来た。


 さて、カーテンの中はというと…………暗い! これは魔石灯の光がなければ順路の矢印も見つけられないくらいだ。

 俺はまず魔石灯を叩いて、光を出すようにした。手にすっぽりと収まるくらいの小さな魔石から出せる光量は少なく、蝋燭一本……よりは少し明るいくらいだ。


 それにしてもここまでするかぁー。

 明かりを落としているのもそうだけど、壁も血が滴るように描かれているし、どこから持ってきたのか墓石など――あっ、いやこれは紙で作った張りぼての墓石か。本物と間違えるほどの出来だ。

 うーむ、とにかく雰囲気作りが細かい。さすがゲンゾーさんが制作に関わっただけある。……というか今日の朝、お客さんがチェックアウトしてから廊下や部屋をこの仕様に変更したんだよなぁ。迅速すぎるスピードだ。……ゲンゾーさん、また骨を折っていないといいけど。


 ククの腕を引きながらゆっくりと暗い廊下を少しだけ進むと『まずは↓こちらで受付を行ってください』と書かれた看板を発見した。

 確か矢印の方向に沿って進むことってルールに書いてあったよな。こっちの客室に入ればいいってことか。


「じゃあ扉を開けるぞ。開けた瞬間に何かが飛び出してくる可能性もあるから気をつけろよ」


「……は、はい、分かりました」


 ククが掴まれていない方の手で俺の着物の腰元をぎゅっと握る。なんとかこのおどろおどろしい雰囲気に飲まれてはいないようだ。しっかりと先に続く扉を見つめ、ビクビクとではあるけれど辺りを見回している。


「――よし」


 ガチャリ、キィ……。


 そーっと扉を開ける。


 ……あれ? 何も出てこないぞ。拍子抜けだなぁ。入ってすぐのところで悲鳴が聞こえたのが多かったからここかと思ったんだけど違ったのか。

 雰囲気は廊下と同じだけど部屋の中にあったのは墓石ではなく一つのテーブルと椅子。そしてそこに座っているのは――


「おやっ、次はあんたたちが挑戦かい」


 真っ白な白衣に身を包んだセンカさんだった。


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