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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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嵐の夜の肝試し

 窓に強く打ち付ける風と雨。さらには時折雷が鳴り、まさに嵐の真っ只中の夜、従業員の多くがここ『魔天楼』の別館の受付ロビーへと足を運んで来ていた。

 みんなカトレア主催の肝試しに参加するのだろう。俺も含め、ほとんどが仕事着の着物ではなく、涼しげな浴衣を着ている。


「ずいぶん集まったんだな」


「ふふん、みゃ~ね。呼びかけを頑張ったのにゃ」


 自慢げに鼻を鳴らすカトレア。

 今日着ているのは色とりどりの小さな魚が白地の布の中を泳ぎまわっているような浴衣だ。


『さすがカトレア』


 打ち寄せる波の描かれた浴衣を着たリムがメモを見せるも――非常に見辛い!

 震える手で書いたためかいつものかわいらしい文字は崩れ、さらにはメモを持つ手も震えているので、読み取りにくいことこの上ない。


 まったく、そんなに肝試しが苦手なら無理に参加しなくてもいいのになぁ。今回は自由参加なんだから。まあ参加する理由はだいたい察しているけど。


「それにしてもみ、みなさん怖いもの好きなんで、すね……」


 そしてリムと同じく震えているクク。ピンクの布地に花びらの模様が入った浴衣はかわいらしい。子供のような体の大きさに対して浴衣はやや大きく、袖が手まで覆っているのがまたチャームポイントだ。


 ちなみに俺が着ているのはふとももから足首にかけて大きな鯉が描かれている……女物の浴衣だ。この前都市スピネルに出かけたとき、小さい時着ていた浴衣に非常に似ているものを見つけて思わず買ってしまった。一応他の従業員に男だってばれないよう女物を選んだのだけど、着物をよく知っていない限り分からないだろうからそこまで気にする必要はなかったか。

 ……うーむ、しかしリムはともかくとしてククはなんで肝試しに参加したんだろう。明らかに怖いものが苦手なように思えるんだけどなぁ……謎だ。

 謎といえばもうひとつ、あれだけ楽しみにしていたように見えたセンカさんの姿がロビーに見当らないんだよなぁ。まあこれに関しては急な用事が入ったのかもしれないし、あるいは――




「じゃあ集みゃったようだし肝試しを開始するかにゃ~!」


 カトレアがロビーに集まったみんなを呼び、一枚の紙を配る。

 紙に書かれていたのは肝試しの簡単なルール説明だ。――時間が無く緊急で作り上げたものなのでかなり大雑把なルールになっている。


 ・二人一組になること

 ・矢印の方向に沿って進むこと

 ・奥にあるお札を取ってから入口に戻ってくること

 ・灯りとして持っていく魔石灯を遠くへ放り投げることでギブアップ


 書かれているのは以上だ。

 ということはまずはペアを作らなきゃいけないってことだな。……どうしようか?


「ティナ~、一緒に組みゃにゃい?」


 誰とペアを組むか悩んでいたら、みんなにルールが書いた紙を配り終えたカトレアが俺のもとにやって来た。


「あれ? 主催のカトレアも参加するのか?」


「もちろんにゃ。ウチだって肝試しを楽しみにしていたのにゃ。中がどんにゃ風ににゃっていてどういう風に怖がらせるかはもちろん知らにゃいよ」


「そうか。カトレアは怖いものは得意な方?」


「みゃあ肝試しを楽しめるくらいには平気かにゃ~」


 だよなぁ。リムやククと表情を見比べれば明らかか。


「それならどっちかがリムもしくはククと組まないか? もしリムとククが組んだら一歩も進めなさそうだし。引っ張っていける相手が必要かなーと思って」


「むう、にゃるほど~……」


 若干不服そうなカトレア。そんなに俺と組みたかったのだろうか。


「リムとククちゃんはどう? 誰と組みたいとかある?」


「私はクレスさんと」

『カトレアとがいい』


 ククが話すのとリムがメモを見せるのはほぼ同時だった。


「じゃあ俺がククと、カトレアはリムとペア。これで決定でいいかな?」


「そうにゃるね~、じゃあギブアップせずクリアできるようにがんばろー!」


 カトレアがリムの手をとって高く掲げる。

 いつものリムなら嬉しがるところなのに、まだ表情が固く、震えは収まっていない。……こんな調子で大丈夫かなぁ。なんとかカトレアが引っ張って行ってくれるのを期待しよう。


「よよよよろしくお願いします」


 そしてククも大丈夫なんだろうか。いつもの冷静さが全く感じられないし、雷が鳴るたびにビクッと小さく肩を震わせている。


「……そんなに怖いのなら先に棄権しようか?」


 俺が心配して聞くとククはブルブルと首を横に振って、


「い、いえ、せっかくの機会ですから!」


 と強い参加の意志を示した。


 ……せっかくの機会、か。主催してここまで進めてくれたとはいえ、別に単なる思いつきで始まったことなんだから不参加でもカトレアは気にしないと思うけどなぁ。まあククにはククの考えがあるのかもしれない。


 それはそうとカトレアに加えてククも俺とペアを組もうとしてくれたんだよな。やっぱり男だからこういう肝試しは頼りがいがあると思ってくれたのか? 実際ホラーとかは全然余裕だし、頼られても問題はないけど。

 ――ん? ちょっと待て、そうか!? これはもしかすると普段見せれている気がしない男らしさを見てもらうチャンスなのでは? 男だとばれるのはまずいけど男らしさはちょっとくらいアピールしたいぞ! そう思えばちょっとこの肝試しもやる気が出てきた。よし、絶対余裕でクリアしてやるからな。



 ……えっ? 男らしさと怖がりじゃないことの関連性はって? あるはず――いや絶対にあるから。



「え~みな様、そろそろペアはできたかにゃ~? できたところは二人とも手を挙げてほしいにゃ!」


 いつのまにかカトレアが肝試しの進行に戻っていた。俺達以外もみんなペアを作ったみたいで全員手を挙げている。


「さて、ペアもできあがったみたいだし、それじゃあそろそろ始めるかにゃ。……では我こそは強い心臓を持つ! という方はどんどんこの入口のカーテンの前ににゃらんでくださーい!」


 カトレアが黒いカーテンの前へ参加者を並ばせる。

 どうやらここがスタート地点みたいだ。この先は普段ならカーテンなどなく客室へ続く廊下につながっているのだけれど、果たしていったいどんな風に変わっているのだろう。


「それでは最初の一組目ご入場にゃー!」


 一組目、気弱そうな風精シルフたちが魔石灯を渡され、カーテンの中へと入っていった。


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