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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
63/101

解決策が見つかった?

********************


「ただいま戻りました」


 クレスとゲンゾーが相談を終えそれぞれ自分の部屋へ帰ってからずいぶんと時間が経った真夜中。日もすでに変わったこの時間にフェーダはルシフ宅に帰ってきた。


「ずいぶん遅くなったのう。まあフェーダのことじゃから滅多なことはないと思っておったが」


「それでも遅くまで待ってくれていたのですね。心配してくれていた証拠では?」


 フェーダがふふふっ、と微笑むとルシフは顔を赤らめて視線を逸らした。




 居間で一息つき、珍しくルシフがフェーダに冷たいお茶を淹れる。夜は更けているがねぜここまで遅くなったのかは聞いておいた方がいいだろうと思い、ルシフが質問をした。


「従業員を誘うのを止めてもらいに行っただけじゃったのに……何かあったのか?」


「ええそれがですね……どうも今日ここに来ていた旅館ハントを名乗った人物、少し怪しいんですよね。本当に旅館ハントだったのか……」


「どういうことじゃ?」


「それがですね。旅館ハントをしている方に聞いてみたのですが、うちの評判はまだ良くはないみたいです。旅ランも圏外に落ちてしまいましたし」


「う゛…………」


 圏外に落ちた原因であるルシフは顔がピクピクと引きつる。


「ただ旅館自体の評判はあんまりでも、他の旅館に比べて明らかに優秀な従業員はいるのでハントしにくる可能性はあるみたいですね。でも……手当たり次第声をかけていたのは変です」


「…………ふむ、なるほどのう」


 引きつった顔から真剣な顔へと表情を変えるルシフ。


「しかし、ワシから言えば皆優秀じゃ。可能性もないとも言い切れんし、今日来ていた旅館ハントを名乗った奴に話を聞いてみるしかないか……。そやつは見つかったのか?」


「いいえ。明日以降もう一度来てくれればいいのですが」


「う~む、とりあえず待つしかあるまい。……しかしそやつがもし旅館ハントでなかったらいったい何をしに来たのじゃろうなあ?」


「考えたくはありませんが、うちの戦力を奪って確実に旅ランに入らないように謀ったとか……」


「くくくっ、それは逆を言えばそれだけ意識しているということじゃろう」


「……否定はできないですね」


「なら嬉しいことではないか! やはりワシの旅館は着実に伸びていっておるのじゃな、あっはっはっはっは!」


 すぐ傍でフェーダが主人の楽観的な様子を見て嘆息している中、ルシフの高笑いが静かな真夜中に響いたのだった。


********************




 ゲンゾーさんからのアドバイスを受けた次の日。俺は仕事に関して信頼できるククに相談を持ちかけていた――――はずだったのだけど……


「にゃるほどね~、フォワもたいへんだったのだにゃあ」


「……(コクコク)」


 カトレアとリムにも話すことになってしまった。はぁ、ククと話す場所が悪かったか……。

 清掃区域がククと同じで、さらに二人だけだったので客室で相談すれば大丈夫だと思っていたのになぁ。まさかカトレアの持っていた清掃に用いる洗剤がちょうど切れて、俺達に新しい洗剤の置いてある場所を聞きにくるとは。

 結局フォワさんに関わる相談がばれてしまい、仕事後に俺の自室で再度話し合いをし直すことになったのだった。


「ゲンゾーさんは精神面以外から解決に導いた方がいいと言っていたんですよね?」


「ああ。だから余計に混乱しちゃったんだよなあ……」


 精神面以外のトラウマ解決ってなんか矛盾しているようににか思えず、昨日は手がかりが掴めなかった。


「ゲンさんが言うのにゃら正しいんだろうにゃあ」


「……(コクコク)」『同じ職人気質。思うところがあるのかも』


「精神面以外……さ過去の食中毒事件自体に焦点を当てるべきでしょうか……?」


「それは厳しいんじゃないか?」


 十年前の情報を集めるのも一苦労するだろうし、その事件を解決するのは到底無理だろう。


「そうですよねー」


「「「う~ん……」」」

 全員が腕を組んで考え、しばらく沈黙が続く。


 やっぱりそう簡単に解決策は出ないよなぁ。三人寄ればなんとやら――良い知恵も浮かぶと言うし、もしかしたら四人も集まったらさらに良い案が! とかちょっと期待したけど。まあ昨日も俺、ルシフ、ゲンゾーさんと三人集まって案が出なかったし、仕方ないか。

 ……と諦めかけたとき、ふとカトレアが疑問を口にした。


「う~、そもそも食中毒なんて起こりえるのかにゃあ?」


「可能性はないとは言えませんけど限りなくゼロに近い確立ですね。十年前よりも確実に規制や意識、さらには保存技術も高まっています。なので痛んだ食材が入ってくることはまずないでしょう」


「だったらそんにゃに心配して料理することもにゃいはずじゃ……」


「それでも入ってくる食材にどこかしらの不安があるのでしょう。可能性はゼロではありませんから」


『調理に使う食材を信じきれていないってこと?』


「まあそうなるかなぁ」


 推測でしかなく、本当のところはフォワさんにしか分からない。でもフォワさんが恐怖している懸念材料の一つとして十分考えられる。

 ……かといってじゃあどうすればいい? という疑問には答えられないのだけど。


「信じられにゃいって~? もうそれにゃらフォワが自分で安全かどうか判断したらいいにゃ!」


 他人を信用してないのかと少し怒り気味に言い放つカトレア。

 極論な気がする。極論だと思うけど…………あれ?


「そんな無茶な…………ことでもないのか。その考え、もしかしたらいけるかもしれない」


 料理に関する知識があるということは食材に関する知識も十分にあるはず。生ものの痛みかたくらいすでに知っているんじゃないだろうか? 知識が足りないところは今から覚えてもらえばいい。それくらい料理に対する情熱があるならどうってことないはずだ。

 それによくよく思い出してみれば、フォワさんはフェーダさんが作った料理『イカそうめん』という生ものを口にしている。あれはこの料理は食べて大丈夫という自信がどこかあったからじゃないだろうか?


「…………えっ? にゃにがいけるの?」


 解決策を出したつもりじゃなかったらしく、カトレアに首を傾げられる。


「カトレアの言ったまんまさ。フォワさん自身が生ものが安全かどうかを判断できるようにしてもらうんだよ。早速フォワさんにお願いしてくる!」


 俺は家の中に鍵を残したまま、フォワさんを探しに自分の部屋を飛び出した。


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