表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅バト!  作者: 染莉 時
第一章:魔物旅館?
6/101

迷宮旅館

 何この旅館、広すぎ……。


 受付ロビーに向かおうと部屋を早々に出発したにもかかわらず、いまだ辿り着けていない。


「おいおい、旅ラン圏外とか言ってなかったか? この大きさは予想外だぞ」


 旅館の規模としては十分に一流。ただその一流旅館と明らかに違うのはお客さんの少なさ――まだ一度もすれ違っていない――、それに何より気になるのが……


「なんで案内板一つないんだよ! おかしいだろ!」

 一つも見当らないとかありえない。サービス精神がなさ過ぎる!

 もうどこを走っているのか全然分からない。完全に迷子だ。


「――おおっと?」


 そんな中、先の廊下に見えてきたのは誰かの後姿。

 大きな麦藁帽子をかぶり、群青色の袢纏はんてんを着ている。

 背中にでかでかと『魔天楼』のロゴが見えるので従業員のはずだ! よし!


「すみませーん!」


 俺はその人――いや魔物に声をかけ近づく。

 受付ロビーまでどう行ったらいいかこれで聞ける。やれやれ、初日からの遅刻はなんとか回避――っ!?


「ひゃっ!!!」


 その魔物がこっちを振り返ると同時に目を逸らし、廊下を駆け、抜き去った。

 だってそいつあまりにも愛想がなかったんだもん。


 っていうか表情がなかった。




 ――表情を作る皮も肉もない骸骨だった。


「び、びっくりしたー……」


 今まで会った魔物――フェーダさんとかが人の姿をしていたから余計に……。

 やっぱりあんな魔物らしい魔物もいるんだな。

 たぶん不死アンデッド系。


 いまが朝で明るくてよかった。夜中だったらトラウマもの、まさにリアルホラー。その後寝付ける自信は……恥ずかしいけどないかな。

 しかし、しまったなぁ。聞きそびれた。もう約束の時間まで余裕がないってのに……。

 長い廊下の突き当たり、左右の分かれ道をとりあえず右へ。


 ――ちょっと走るとだだっ広い空間に出た。


「当たりか……」


 ほっと胸をなでおろす。

 まったく集合場祖に集まるのになんでこんな苦労しなくちゃいけなかったんだ……。

 魔物(従業員)遭遇にこの長い迷路のような道のり。まるで未知の迷宮ダンジョンの攻略をしていたみたいだった。

 ただし、迷宮ダンジョン踏破し、目的地(受付ロビー)にたどり着いた今達成感は湧いてこない。疲れただけ。


「はぁ~」


 ひざに手を着き、大きく息を吐き、呼吸を整える。

 そして改めて周りを見渡した。


 目の前(――とはいえだいぶ離れている)のガラスでできた扉からは日の光が差し込んでいる。――あれが多分入口だろう。

 そして俺の左手には受付カウンター。

 すでにそこに集まっているのは三匹――いや三人の魔物か。

 だって全員人間の姿をしているから。


 ――一人は昨日食事を持ってきた猫耳の生えた女の子。

 ショートヘアで、好奇心の強い目はこちらをちらちらと絶え間なく見てくる。てくてくと動き回り落ち着きがない。


 ――その隣にいる目を伏しがちのおとなしそうな女の子。

 さらっと潤いを持った青髪が肩くらいまで伸びている。顔はよく見えない。下を向いたまま手をもじもじさせている。恥ずかしがりやなんだろうか?


 ――そしてもう一人がいかにも気の強そうな女性。

 豊満な胸の前で腕を組み、値踏みするような目でこちらをじっと見ている。赤い髪はくせっ毛が強いのか、ところどころカールしているのが気にな……いやもっと気にすべきところがあるな。

彼女の足元、着物の裾から見えているのは足首ではなく、爬虫類――蛇の尾だ。

 ……蛇尾女ラミアか。

 まあ一安心。

 蛇髪女メデューサじゃなくてよかった。もしメデューサならあんな目で見られたら『石化』しちゃうもの。


 三人とも同じ着物を着ているし、みんな従業員だろう。たぶん仲居さんかな?

 もしかして俺を待っていてくれた?

 ひとまず三人の元へ近づく。


「すみませーん、今日からここで働くことになったクレスですけど……」

「へえアンタかい、新く入った人間っていうのは。初日からぎりぎりとはいいご身分だね」


 気の強そうな女性、ラミアが一歩前に出てくる。

 おお、こわっ。いきなり言葉の先制パンチを与えられたみたいだ。

 くそっ、旅館が広すぎて迷ったとか、十分早く部屋は出たとか言いたいけど、所詮は言い訳。印象が悪くなるだけだ。

 ここは――


「すみませんでした。以後気をつけます」


 一言謝り頭を下げる。


「へ、へえ、謝ることはできるのかい。…………まあいいよ。次遅れたら承知しないからね」


 今回も遅れたわけではないんだけれど。

 どうやら言い訳されると思っていたのが空振って少々頭が混乱しているようだ。


「とりあえず自己紹介でもしておこうかね。あたいはここの女将おかみのセンカ。フェーダから大体話は聞いてるよ」


 女将か……圧倒的に姉御っていう方が合っている気がする。


「まずはこれに着替えてきな。仕事はそれからさ」


 センカさんから着物を受け取る。ここの仕事着だ。

 そりゃあ今着ている浴衣のままじゃ駄目だよな……ん?


 着物をよく見ると重要なことに気付いた。



 これ女物じゃん……。



 ――ああそっか、思い出した。

 昨日いろいろ衝撃がありすぎて、フェーダさんに俺の性別の誤解を解いてなかったんだった……。


さて登場人物がドンドン増えます。今作はキャラクターの魅力を伝えるっていうのが目標ですからね。もうちょっと話が進んだら登場人(魔)物一覧でも作ろっかなーって思ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ