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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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挑戦者決定(後編)

「お待たせしました」


 ククがコトッ、コトッと静かに漆塗りの平たい大皿をテーブルの上に並べていく。


「ほう、これはまた……」

「意外と渋いものが出てきましたね」


 大皿のちょうど真ん中に置かれているのは一人分の緑色の麺。その上には錦糸卵、葱、海苔がぱらぱらと乗せられている。また、そこにかけられるであろうつゆは別の小さな急須のような容器に入れられている。


「『冷やし茶蕎麦』です。蕎麦は先ほど打ったばかりの物を使用しています。つゆをかけて具とからめて召し上がってください」


 ククが食べ方の説明を終えるとすぐに、ルシフはつゆをかけてズルッ、と蕎麦を一気にすすった。


「――美味い! 美味いぞ! 香り良し! 噛み応え良し! 味良しじゃ!」


 一方フェーダさんはつるつるっ、と上品にすする。


「これは香り高い良いお蕎麦ですね。辛味の少ない葱を使っていて、全然蕎麦の風味を殺していないのもポイントが高いです」


 よかった、この感じなら結構期待できる。二品続けて恐る恐る食べていたから安心して食べれるのも嬉しい。……しかしフォワさんとの料理勝負の前哨戦が四人中二人アウトなのはどうなんだろう……って今更言ってもどうしようもないな。とりあえず食べてみよう。


「(ズルズル……)うん、美味い」

「これは箸が進むにゃ!」

『ククは良いそば職人になれる』


 あれ? リム? 俺のときは『お嫁さん』だったよね? なんでククは『そば職人』なんだ?


 カトレアの言った通り箸はどんどん進み、大皿の上にあった蕎麦はあっという間に空になった。


「いや~最後にさっぱり口の中が浄化されたのう」


「そうですね。これにてみなさんの料理を試食し終えたので、投票を開始しましょうか。まずは挑戦者の皆さん、「せーの」で自分以外で一番美味しかった料理を作った人を指差してください。準備はいいですか?」


 俺としては一択しかないので即座に頷く。他の三人も全く時間をかけずに了承した。


「ではいきますね……せーの!」




「…………ほう、おもしろいのう」


 ククを指差したのが俺とカトレア。

 俺を指差したのがククとリムだ。


 二 対 二。


 そうか、好みの差はあれ俺とククの料理はだいたい同じくらいのおいしさだったということか……。俺の料理がフォワさんのに対抗できるとは思ってなかったし、これはどちらが選ばれてもフォワさんには敵いそうもないなぁ……。


「さてと、残りはワシらに託されたわけじゃが……ここで意見が分かれても困るじゃろう。ここは相談して決めようと思うのじゃが……」


「そうしましょうか…………あらっ、すみません、私としたことがもう一人挑戦者候補がいたことを忘れておりました」


 そう言ってフェーダさんはぱたぱたと居間から出て行く。

 ……ん? 俺達の呼びかけでは四人で全員だったはずだけど……。


「お待たせしました。こちらがその方の料理です」


 フェーダさんが持ってきたのは、一皿の透明なガラスの器に入った――


「これは……そうめんですか? それにしては麺の色が透明なような……」


 四人全員が器の中を覗き込む。

 透明な細い麺が透き通った出汁? に浅く浸かっているなんとも清涼感のある一品だ。麺の上にはぷちぷちした小さなオレンジ色の魚の卵が散りばめられている。

 美しい一品に目を奪われながらも箸で麺を一すくいして口の中へ。


「(ツルッ……)うわっ! イカだ! すごい! こんなに細いのにコリコリしてる!」


 しかもそれだけじゃない。イカの麺はすべて均一の細さで切られており、舌触りが良い。さらにつゆも出汁としょうゆのバランスが素晴らしい。シンプルなのに何でこんなに美味しいのか不思議なくらいだ。これならフォワさんの料理に対抗できる……か?


「うみゃ~」

『絶品!!!』

「これは……決まりですね。これを作ったのは――」


 各々が舌鼓を打ち、最後にククが一言質問をした。


「あらあら、みなさん気に入ったくれたようでなによりです」


 フェーダさんがほほに片手を当てて微笑む。


「――やはりフェーダさんでしたか。じゃあ一応もう一度だけせーので指差しましょう。――せーの!」


 ククの呼びかけに四人の指先が一斉にフェーダさんに集まる。


「くくくっ、決まりじゃな」


 のどの奥で笑うルシフ。

 これはフェーダさんがこの料理を作っていたのを知ってて黙ってたな。


「まったく……フェーダさんも参加するんだったら始めから言ってくれればよかったですのに」


「ふふっ、ルシフ様から最後まで黙っているように命じられましたので」


「だって勝負といえば最後に一波乱あった方が面白いではないか。それにフェーダが参加すると言えば他の参加者が先に辞退するやもしれんしのう。そうするとせっかくの手料理を食べれるチャンスが……」


 ……俺達の手料理が狙いかよ。まあでも生憎フェーダさんの参加情報がなくても俺達しか集まらなかったけどな。


「別にお金を出してくれるにゃら手料理ぐらいいつでも作ってあげるよ?」


「レ、レアにゃんのは遠慮しておこうかの……」


 そりゃそうだ。あれはお金を出して食べるものではない。むしろお金をもらって食べるものだ――おなかが痛くなったときや体調を崩したとき用の治療費として。




 話を戻すためパン、パンッと二回ルシフが手を打ち鳴らす。


「さて、ワシとしては色んな料理を楽しめて満足したし、今日はお開きにするかのう。料理勝負はフェーダに任せておくといい。フォワとの勝負は……あー、いつじゃったっけ?」


『明後日と三日後の二日間』


「決戦会場はこちらで明日設営しますので、フェーダさんは料理のほうをよろしくお願いします」


 ククがぺこりと頭を下げ、俺、カトレア、リムがそれに続いて頭を下げる。


「分かりました。自信はありませんがやるだけやってみましょう」




 挑戦者決定 ―― フェーダ


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