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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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挑戦者決定(前編)

 今日はフォワさんへの挑戦者を決定する大事な品評会。挑戦者に立候補した者は各自、寮の部屋で作ってきた料理をルシフ宅の持って来ることになっている。評価をするのは挑戦者同士、自分以外の料理に一票と、ルシフ、そしてフェーダさんが一票ずつだ。


 来た順番は俺が一番乗り。続いて勢いよく扉を開けて入ってきたカトレア。そしてリムとククが同時だ。さらに続いて――――はいない。四人だけである。

 『魔天楼』の料理人はフォワさんに敵うはずないと言って不戦敗。他の旅館の料理人に頼むわけにはいかず、どこか適当な料理店の店長に頼むのもさすがにできなかった。だって内輪の問題だし。料理人以外の従業員はというと、普段から食堂を利用していて料理をすることがほとんどなく参加はしてくれなかった。

 かなり少なくなってしまった、というか話し合った俺達四人だけになってしまったけど本当にこれで大丈夫なんだろうか?

 提案者のククはというとこの状況に少しは動揺しながらも、希望は捨てていないみたいだ。




「さあ、ついに始まった挑戦者決定戦! どんな料理が出てくるか楽しみじゃのう、審査員のフェーダよ」


「そうですね。料理長との勝負に出す一品……非常に興味深いです。早速一品目、クレスさんの料理からいただきましょうか。では料理をテーブルへお願いします」


 ルシフ、フェーダさんともノリノリだ。審査員だけでなく、司会進行の役をしてくれている。


 呼ばれたので俺はテーブルへ自室で作った料理を並べていく。ルシフ用、フェーダさん用、そして挑戦者用の三皿。すべて同じ料理だ。さすがに多く作るのは手間だったため、自分以外の挑戦者三人分は一つを分け合って食べることにしている。


「ほほう、これは……」

「きれいだにゃ~」

「かわいらしい一品ひとしなですね」


 見た目で様々な感想が出てくる俺の料理は『三色ムース』だ。上から枝豆(緑)、ジャガイモ(白)、かぼちゃ(黄)のムースが透明なカップの中に入っている。さらに一番上――枝豆のムースの上には小さなウニが乗っかっており、これが味にアクセントを与える。


 ルシフとフェーダさんは早速スプーンで一口すくい、口の中へ放り込む。


「美味いのじゃ! さっぱりしつつも濃厚な味が口に広がってくる!」

「美味しいです。見た目もそうですが味も綺麗に整っています。クレスさん料理上手だったのですね」


 二人から浴びせられる賞賛の言葉。

 う~ん……自信はあったけどやっぱりほめられるとなんか恥ずかしいなぁ。


「では私達も」


 続いてクク、カトレア、リムがムースを口に運んだ。


「これは……なかなかやりますね」

美味うみゃい!」

『ティナはいいお嫁さんになる』


 そこはせめてお『婿』さんにしてほしい。


 あっという間に全員のカップが空になる。


「うむ、美味かったぞ。それでは次の料理を皆の前へ!」


「はいにゃー!」


 ルシフに命じられ、カトレアが料理を運んでくる。


「じゃ~ん、その名も『冷やし中華始めますか?』にゃ! この料理が選ばれた暁には『冷やし中華始めました!』に改名ランクアップさせる予定にゃ!」


 ドンッとお皿を置いた衝撃で麺の上に乗っていた具材――マグロの刺身がぐちゃりと崩れる。ちなみに崩れはしたが、元から綺麗に乗せていなかったので大して見た目の印象は変わらない。


「ほ、ほほう……これはまた……前衛的な……」


 ルシフもコメントに困っている。

 俺の料理の後だから特に見た目のギャップがひどく思えるのだろう。まあラーメンなら具が雑多に入っているのもかなりあるし…………いや冷やし中華は別か。見た目は大事だ。


「ま、まあよい……なにより大事なのは味じゃ、味!」

「で、では……いただきます」


 具材と麺を絡ませ、恐る恐る口の中へ運ぶルシフとフェーダさん。果たしてそのお味は――


「「………………」」


 ノーコメント!? ち、ちょっと気になるなぁ……。


 というわけで俺達挑戦者も試食してみる。


「(ぱくっ、ズルズル……)…………んん゛!?」


 まず口の中に広がるのは強烈な酸味。明らかに酢の量を間違えている。さらに麺はところどころ芯が残っていて噛んでいて気持ち悪い。さらにさらに!? カトレアが好きなもので敷き詰めた具材、マグロの刺身は見事に魚の味が酢に負け、生臭さだけが鼻をつき抜ける! まずい!!!

 とりあえず吐かないように、なんとか飲み込むまで口を閉じるので精一杯だ。リムなんてカトレアの料理だからといって一口が大きかったから涙を浮かべて飲み込んでるよ。これはひどい。


「うぷっ……見た目だけでなく味も前衛的じゃったか……」

「人類、魔物には早すぎる料理でしたね……」


 俺達の反応に、


「そんにゃはずは――」


 とカトレアも一口。


「(ぱくっ、ズルズ――)ぶはぁ!」


 吐いたー! あ~あ~、撒き散らしちゃってもう。


「まずっ! にゃにこれ!?」


「何ってカトレアが作ったんだろ……。味見しなかったのかよ」


「味見って?」


 何それ? みたいに首をひねられる。

 さては料理の「り」の字も知らなかったな。


「もしかして、料理経験は?」


「今日が初めてだけど。難しいにゃあ、料理って」


 そうかー、初めてかー、それなら仕方……ないか?




 とりあえず次の料理を出す前に小休憩。


 口直しにお茶を飲んで、その後カトレアのぶちまけた麺を片付ける。


「さあ前半戦が終了したわけじゃが……なかなか驚きの料理が出たのう」


「そうですね。クレスさんがあそこまで料理が上手だったのもそうですし、カトレアさんのは……まあ……はい……」


 フェーダさんがフォローを見つけられず言葉がつまってしまったので、すかさずルシフが進行を進める。


「なにはともあれ後半戦も楽しみじゃの! では次の料理を皆の前へ!」


 次の順番はリムだ。

 ゆったりとした手つきで料理を並べていく。


「こいつは芸術じゃのう」

「ほんと一つの作品みたいです」


 二人から絶賛されたそれは拳サイズの半球型のゼリーである。透き通った出汁で作ったであろうゼリーの中には薄くスライスした刺身が数枚、そして細かく刻んだねぎ、ニンジンが紙吹雪のようにゼリーの中に浮かんでいる。料理名は、

『出汁の宝石箱や~』

 ――みたいだ。いったいどこの方言だろうか?


「これは味にも期待じゃのう」


 そう言ってルシフ、フェーダさんが一すくいして口に運ぶ。


「「………………」」


 ……またしても無言。

 嫌な予感はするけど、ここは覚悟して俺も一口食べる。


「(ぱくっ)……」


 ……あれ? 別に変な味はしない。普通に出汁の味。でも、うん? うん。う~ん…………。

 しっかりと噛みしめて味わうも――――結論、なんともいえない。まずくもないし、美味くもない。出汁のゼリーはまったく野菜、刺身に染み込んでおらず、一緒に食べても別々のものとして舌が認識する。それにこの出汁は普通にあたたかい吸い物として飲んだ方が断然美味しい。冷たいゼリーはちょっと違う気がする。

 すごい綺麗! とはしゃいでいたカトレアも口に入れた途端首をひねりだし、ククも「これは……うん」としか言葉が出てこない。



 ………………。



 なんだろう、このみんなが無言になる料理は。決してまずいわけではないのに。


『どうだった?』


 恐る恐るメモ帳を見せてくるリム。なんと言っていいか困る俺達に対して彼女は『どうだった?』の文字の下に、


『私は微妙だと思うけど』


 と書き加えた。


 微妙……微妙かぁ……確かに美味い、まずいをどちらとも言えないし、その二文字に集約されるか。


 俺達は目線でお互い合図して、無言のまま首を縦に動かした。




「……さあ気を取り直して、次が最後になるかのう」


「ええ、そのようですね。早いものです。やはり挑戦者が少なかったでしょうか?」


「かもしれんのう。じゃが最後に波乱、そしてドラマはつきもの。ククは発案者でもあるそうじゃからここは期待しても良いのではないか?」


「ええ、期待しましょう。ではそろそろ持ってきていただきましょうか。ククさんお願いします」


 フェーダさんに呼ばれ、ククが料理を取りに行く。

 フォワさんとの勝負になぜか自信あり気なククだったけど、いったいどんな料理が飛び出してくるのだろうか?


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