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旅バト!  作者: 染莉 時
第四章:涼? 量? 料理!
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料理勝負?

「…………ダメでした」


 フォワさんに直訴すると宣言した翌日の休憩室。夕食の配膳を終えての休憩時間に、丸椅子にちょこんと座って落ち込んでいるククの姿があった。しょぼんとしているのでいつもより一層小さく見える。小動物みたいだ。


「こちらの意見を直球でぶつけたのですが聞いてもらえず……豪快な料理なら高いですけど鯛のお造りはどうですかと案を出しても自分の料理を作ると頑なに断られ……うな丼はおいしかったです」


 だよな~、あれを食べさせられちゃあ何も言えなくなっちゃうよ。


「うにゃ~、ククちゃんにも先を越されたにゃ~」


『私も食べてみたい』


 まだうな丼を試食していないカトレアとリムはうらやましそうな目でククを見つめる。

 話が逸れてしまい、ククはばつが悪そうに「こほん」と一つ咳払いをする。


「……まあ、うな丼はおいときましょう。それよりもフォワさんに涼しげな料理を出してもらう方法です」


「う~ん、でもそこまでして作らせるのはどうにゃの? 今でも十分おいしいのに?」


「……(コクコク)」


 二人からこのままでもいいんじゃないかという意見が出る。しかし、それに対し俺とククは反論する。


「確かに今のままでも問題はないだろうな。でもそれほどの腕があるならもっと季節に合わせたより良い料理をお客さんに提供できるはずなんだよ」


「それにここは旅館です。ステーキ店、らーめん店のように一品を扱うわけではありません。料理長という上の立場な訳ですからそこは理解していただけないと」


「にゃんか厳しすぎる気もするけどにゃあ……」


 カトレアに首をひねられる。


「……」


 リムはどっちとも言えない表情で、何も書かない。

 俺達の言うことも一理あるけど、カトレアの意見にも耳を傾けている様子だ。


「でもやっぱりもったいないと思うんだよなぁ。旅館に対してだけじゃなくてフォワさん自身が」


「どういうことかにゃ?」


「実はさ、フォワさんからお造りとか冷麺とか涼しげな料理を作ったらどうか聞いたとき、そういう料理を作らない、作りたくないって一言も言ってないんだよ。まるで話題を逸らすように今作っているようなほうがいいから! って押してくる。ククが頼んだときもそうじゃない?」


「えーと……確かにそうですね。言われてみれば話題を避けていたように思います」


「にゃんでだろう?」


「……推測でしかないけど、今までこういう料理でやってきているからプライドが邪魔しているんじゃないかなぁと。作りたいけど、今までを否定するみたいな」


「一理ありますね。料理人もいわば職人。頑固なところがありますから」


 う~ん、ゲンゾーさんは職人気質だってはっきりしているけど、フォワさんは気さくだし、ただのプライドにしては何か違和感があるような……。でも他に思いつかないし、ひとまずはこの線で行くしかないか。


「それではそのプライドとやらを壊す――まではいかないですが、ほぐしてみましょうか」


「何か考えがあるのか?」


「ええ。ちょっと料理長に勝負を挑もうかと。こちらは涼しげな料理、フォワさんには自身の料理で」


「さすがに無謀にゃんじゃあ……」

「……(コクコク)」『勝率0%』

「……うん」


 さすがにここは俺もカトレアとリムに同意する。俺達が料理長に勝てるとは思えない。あっ、待てよ。


「もしかして『勇々自適』の料理人に頼むのか?」


 『勇々自適』とはククが先月まで勤めていた最良旅館。そこの料理人ならまだ可能性があるんじゃないかと思い、考えを口にする。


「まさか。辞めてきた身ですし、そんな迷惑をかけれませんよ。旅館内の誰かに作ってもらうつもりです」


「それこそ無茶にゃ……」


 心配そうにカトレアがつぶやくと、ククは口元に人差し指を当て、色っぽく答えた。


「ふふっ、ちゃんと考えはありますよ。勝負の内容にちょっとした条件をつけます。もちろん料理の上手さは必須になりますけどね」


 なぜかククは自信があるみたいだ。ならここは一度彼女に任せてみたい。不安はかなりあるけどやらないよりはやってダメだったと方がいい。


「じゃあまずルシフさんに挑む奴を決めなきゃいけないな。作った料理を食べ比べて判定してもらう感じでいいか?」


「ええ、いいと思います。フォワさんとの勝負もお客様に食べ比べでどちらがまた食べたいかアンケートをとるつもりですから。私たちも作りあってみます?」


「ウチは遠慮しておこうかにゃ~……フォワの料理は今でも満足してるし」


「でもカトレアさん、彼の作る絶品のお刺身も食べてみたくはありませんか?」


「…………それはめっちゃ食べたいにゃ!!!」


 カトレアの口元からよだれがこぼれる。どんだけ食べてみたいんだ。


「じゃあ?」


「ウチも頑張る!」


『じゃあ私も。刺身なら興味深々』


 リムもフォワさんに挑むのに賛成の意を示してくれた。好きな人の好きな物に対して全力を出すのは当たり前だな、うん。

 ククは上手く二人の意見を導いたように思える。さすがに人心掌握はサキュバスの得意分野というところか。


「よし、じゃあフォワさんに勝負を申し込みに行くか? 誰が行く?」


「「「…………」」」


 急に沈黙が訪れる。

 そうだよなぁ。職人に勝負を申し付けるわけだからそりゃあ緊張するし行きたくないよ。


「……じゃあ俺が言ってくるよ。フォワさんとは大浴場で何度も話して交流があるし」


「お願いします」

「お願いするにゃ」

「……(ぺこり)」

 頭を下げられる。


 俺は三人に見送られてフォワさんのいる調理場へと向かった。




 緊張の面持ちで勝負を申し込んだ結果は――


「おう、いいぜ! 俺も最近一人でばっかり作ってたから競争相手ができるのはうれしいしな。自分の腕も試せるならその勝負どんと来いだ!」


 と、かなり好感触。さすがフォワさん、ノリ良く勝負を引き受けてくれた。


 さて、それじゃあまずは料理上手なやつを見つけなきゃな。


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