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旅バト!  作者: 染莉 時
第三.五章:水着!
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ボール遊び(罰ゲーム有)

「よ、よっ、ククも来ていたのか」


 恐る恐るククに声をかける。


「あっ、はい。昨日のお客様が少なくて手持ち無沙汰になってしまいましたので少し涼みに。やっぱり夏にプールは気持ちいいですね」


 えへへ、とはにかむ彼女。どうやら今は安全な方のククみたいだ。

 サキュバスとしての本性が出てこないよう自制しているのか、やや大きめの綺麗な白色のTシャツを着て肌が見える部分を減らしている。水を掛け合っていたためTシャツが濡れて、うっすらと透けてしまっているけど、下にはちゃんと水着を着用しているみたいだ。


 このくらいの露出なら大丈夫なのか……。


 ほっと一安心してカトレアに練習の進捗具合を聞いてみる。


「練習は捗ってたか?」


「みゃあみゃあかにゃ~。にゃんとかスムーズにみゃえに進めるようににゃたくらい」


「おお~結構進歩したな」


「ふふ~ん。ほめてほめて~」


 うん、それなら次のステップである「息つぎ」に進んでも大丈夫だろう。……とはいえ泳ぎの練習をしにプールに来たというよりは単に遊びに来ただけなんだよなぁ。そんなに慌てて進めなくてもいいか。バシャバシャと水の掛け合っいるのも楽しそうにしていたし。泳ぎの練習はひとまず終了かな。


「ねえねえ、ティナも一緒に水かけ合わにゃい。涼しいよ?」


「……(クイッ、クイッ)」


「あー……いや、俺はちょっとやめとこうかなぁ」


 カトレアの誘いとリムの手招きをやんわりと断る。


 なぜかは単純。恥ずかしいから!

 なんで女の子は普通に水をかけ合ってきゃっきゃできるのか不思議に思う。

 だってさ、男たちででそんなことしてるのを想像――――これは止めといたほうがいいな。


「……では私が混ざりましょうか~」


 急に後ろから声がしたので振り返ると、そこには片手に日除け用の小さなパラソル、もう片方の手にビーチボールを持ったムーがいた。


「あれ? なんでムーがここに……? 屋内プールにいたんはずじゃ……」


「誰も来なくてつまんなかったですし~、ちらっと見てみたらなんか集まっているじゃないですか~。おもしろ――なんでもないです~」


 『面白そう』くらい言えばいいのに。なんかすごい企みを感じるのは気のせいだろうか?


「にゃ、にゃかにゃかのものをお持ちで……」


 カトレアがムーのある一点を見つめてぽつりとつぶやく。


「あっ、これで遊びますか~。いいですよ~」


 ムーがカトレアに向かってビーチボールをぽーんと投げる。別のところに気を取られていたカトレアの無防備な顔面に直撃!――する寸前でリムがキャッチした。

 そうなんだよ、カトレアが言っていたのはたぶん胸のことなんだよ。ってかムーは絶対分かったいただろ。カトレアが胸のことを気にしているのを知っていたんだから。


「そうだ、ではこのビーチボールを落とさないようにパスしあいませんか。これならクレスさんも一緒にしていただけるかと」


 ククが俺に配慮して提案をしてくれた。

 まあそれならいいな。きゃっきゃは言わないけど。


「どうせならルールもしっかり決めて、負けた人は罰ゲームにしませんか~」


「おおっ、それはいいにゃ! スリルがあって面白そう!」


 ムーの罰ゲーム発言にカトレアが乗っかる。


「では内容はそうですね~……水着姿で今日の残りを過ごすというのはどうでしょうか~」


「OKにゃ!」


「(コクコク!)」


 ノリでカトレアが真っ先に賛成の手を挙げ、リムがそれに続く。たぶんカトレアの水着姿をできる限り長く見たいからだろう。

 俺としては断固反対したいところだ。なぜなら水着で過ごすってことは、それまでムーを含め他の従業員にも男だってばれないよう女性用のを着るはめになるからである。それだけは絶対に避けたい。くそっ、なんでこんな罰ゲームを……?

 しかし当然発案者のムーも賛成するわけで……。


「では賛成多数なので決定ですね~。早速始めましょうか~」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 始める前に手を挙げなかったククに相談を持ちかける。彼女も水着姿になるのは困るはずだ。露出が増えればサキュバスの本性も露になり、ほぼ別の()格(本人はただの本性と言っている)が出てくることになる。


「どうするんだ? この罰ゲームはまずいだろ」


 近くに寄ってククにささやきかける。


「ですが多数決を取られてしまっては仕方がないでしょう。罰ゲームも他の方にとってはそれほどひどいものでもありませんし。大丈夫ですよ。こういうのは言いだしっぺが罰ゲームを受けることになるものです」


 その自信はどこから来るのか。


「しかし罰ゲームがアレな分、しっかりとルールは決めた方がいいですね。――ムーさ~ん、ルールなんですけどこういうのはどうでしょうか?」


 どうやら勝負をすることは決定してしまっているらしい。仕方ない、ここは俺も腹を決めて勝負を受けよう。まあ言ってはなんだけど女の子に負けるつもりはないし。


 ククの決めたルールは次に示すようになった。


 ・パスされたビーチボールを水面に落としたらマイナス1(ポイント)

 ・明らかに届かないところにパスをしたらマイナス1P(パスされた方にはマイナスなし)

 ・誰かと誰かのちょうど間くらいにパスされたときは協力してどちらかが拾いに行く。水面に落ちた場合は両方にマイナス1P

 ・妨害行為はマイナス1P

 ・ボールに触るのは腕でも頭でも足でも体の一部ならOK、ただし掴んだりしてボールを一時的に止めたらマイナス1P

 ・最初にマイナス5Pになった者が罰ゲーム


 ――以上である。




「それじゃあ始めるにゃー!」


 全員子供用プールの中に入り、円形に広がる。位置は俺から時計回りにクク、ムー、リム、カトレアの順だ。


「……(トンッ)」


 まずはリムからスタート。ボールはカトレアの元へ。しかし、パスした位置が良く、大して動くことなくにムーへとパス。こちらも綺麗なパスでムーも動かずにちょうど俺とククの間の厄介な位置にパスを出してきた。


「――やばっ!」


 一瞬焦ったけど、ククが即座に反応して俺が動き出すころにはすでにボールの着地地点へと来ていた。しっかりとボールを上手く飛ばし、カトレアのやや後ろ、ちゃんと動けば取れる、動かなければ届かない絶妙の位置にパスを出す。


「にゃ!?」


 カトレアは驚き一瞬固まるが、素早い身のこなしで何とかボールに触れ、次のパスを出す。ボールはかなり低い弾道でリムの元へと向かった。

 こういうすぐ隣への低いパスは凶悪だ。しっかりと隣を見ていつでもこういうボールが来ると意識していないと、まず動くより先にボールが水面へと落ちてしまう。


 リムはというと意識をしていなかったらしく、足を動かすときにはすでにボールが水面に着く直前だった。なのに――


 バシッ!


 ボールは水面に着く前に上へと飛ばされた。

 なんとリムは自身の腕をスライム化させ、瞬速でボールへと伸ばしたのである。まさかの行動。しかしルール上、体の一部なのでセーフである。


「リムさんマイナス1Pです……」


 ただし、力加減を間違えたらしく、はるか遠くにボールが飛んでいってしまったけど。




 ――ボールを取ってきて再開。

 まずミスをしたリムからスタート。ムーへときれいにパスされたボールは、すぐ隣のククへいやらしく低い弾道で渡される。

 しかし、ククは難なく追いつき、低い弾道を低い弾道でムーへと返す。


「……ムーさんマイナス1Pですね」


 ……クク強っ! そりゃあ勝負引き受けるわけだわ。




 ――それからしばらくゲームは続いた。

 それぞれの活躍は以下の通りだ。


 カトレアは無駄な動きは多いながらもボールに食らいつき、飛び込んで頭でパスするなど様々な好プレーを生み出した。――マイナス2P。

 リムは最初のミスはあったものの、力加減を覚え、自身のスライムである能力を存分に発揮し好セーブを繰り返した。――マイナス1P。

 俺? 俺は言うことなかったよ。見せ場すらなかったよ。至って普通、以上! ――マイナス1P


 そしてククとムーなのだけど――


「ぐぬぬ……」


 珍しくムーが悔しそうな顔をしていた。

 すぐ隣のククへと執拗にいやらしいボールを送るも全て返され、逆に返り討ちに遭ったからである。すでにマイナス4P。リーチだ。

 本来ならマミーの体の一部といえる包帯を操って、普通なら取れないボールも拾うのだけど、生憎今は水着仕様。一枚でも取って使ってしまったら大事な部分が露になってしまうので、さすがにできなかったようだ。

 一方のククは当然のようにマイナスなし。さすがは元旅ラン一位のところの仲居。判断、動きが素晴らしい。


 ――ポーン。


 ムーはククを狙うのを諦めたようで、マイナス2Pとビリから二位のカトレアに照準を向ける。初手からぎりぎり取れる位置にボールを落とし、カトレアのミスを誘う。


「うにゃあああああ!」


 これをカトレアは飛び込んで好セーブ。高く上がったボールはちょうどムーとククの間に落ちていった。

 ククが先に動き落下点に来ていたのだが、そこへ、


「あっ、手が滑っちゃった~」


 と言ってムーがククへと倒れこんだ。


 ――バッシャーン!


 大きな水しぶきが上がる。


 ……まったく何をやっているんだか。そんなことをしても妨害行為にしろ、パスできなくて両方マイナスになったにしろムーの罰ゲームは確定なのに。


 そう思いながら倒れたククとムーに目を向ける。


「……ええっ!? ちょ、ちょっと!?」


 俺は目の前の光景に驚き目を疑った。

 あろうことかククはTシャツが脱がされ、下の真っ黒なビキニ姿になっているのである。しかもそのビキニの上は少しめくれてあわや大事な部分がさらけ出されそうになっている。


「う……ん……きゃああああ!」


 クク自身もそのことに気付いたらしく一瞬で顔が真っ赤に染め上がる。


 …………あっ、これまずくね?


 ふっ、と下を向いたククはめくれたビキニを元に戻す。


「ふふっ、クレスさん会いたかったですよぉ……一緒にオイルでも塗りあって楽しみましょう」


 淫靡な笑みがこちらに向けられる。


 嫌な予感は当たってしまった。

 サキュバスとしての本性――別()格が出てきてしまったのである。


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