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旅バト!  作者: 染莉 時
第三章:妨害!?
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スケルトンによる提案

「か~、なんにも知らねえんだなおめえは! まず部屋の内装だけどなぁ――」


 俺からの質問を聞き終えてすぐ、ゲンゾーさんにいきなり怒られてしまった。ただ、怒りつつもちゃんと教えてくれる辺りやはり根は優しいと感じる。


「明かりは薄(ぐれ)えくらいで十分だ。もちろん景色は眺めてえだろうから窓は必要だがな」


「障子だけでは明る過ぎたりします?」


「あー、過ぎってことはねぇだろーが、まぶしく感じるかもなぁ。俺っちとしてはこんぐらいがちょうどいい」


 そう言ってゲンゾーさんは自分の小屋の窓を指す。

 その窓にはすだれが掛かっており、さらにその外には葦簀よしずが置かれている。日の光はぼんやりとしか入らず、部屋の明かりとなっている魔石灯も普通のものより暗い。

 この部屋位の明るさが不死アンデッド系に良いのだとしたら、いままで来てくれている火の魂(ウィスプ)には悪いことしてしまったなぁと思う。


「でしたらこの簾と葦簀をそのまま取り入れようと思います」


「そうか……あと料理はだいたいなんでも食うから問題ねえな。味もあいつの作る料理ならまず満足するはずだ。……っと、だが、吸血鬼ヴァンパイアだけはたまねぎだったかにんにくだったか、体が受け付けねえらしいな。そこだけ注意しとけ」


「料理長に伝えておきます。でも、なんでもってことはリッチに対しても普通の料理でいいってことですか? 幽体ですよね?」


「はぁ~、そこから説明しねぇといけねぇのか。リッチってのはなぁ…………」




 ゲンゾーさんの話が長くなったのでカット。


 幽体というよりはエネルギーの集合体であることの訂正から始まり、普段の生活、所有能力など隅々まで教えてもらった。

 その話の中で料理の食べ方について知ったのだけど、その方法というのが料理を口に運び、体の中を通り抜けさせることみたいだ。通り抜けた料理は色素が抜け、ぼろぼろの白い塊になるのだという。火の魂(ウィスプ)の食べた後、灰が残るのと同じような感じになるとイメージしてもらえば分かりやすいかもしれない。

 ……しかし、ゲンゾーさんには呆れたように言われたけど、リッチの食べ方なんて知っている方が絶対少ないよなぁ。ただ様々なお客さんが来ることを想定しているんだから、勉強不足と言えばその通りなんだけどね。


「……ってことだ。理解したかぁ?」


 ゲンゾーさんのリッチ講義が終わったので、俺は素直に頷く。


「参考になります。……あとはどうやって他のお客さんとの接触をできるかぎり防ぐか……」


「びびるからって理由だったかぁ? まったく最近の若え奴は弱っちいったらありゃしな――」


「いやどっちかというとお年寄りに配慮して」


 びっくりししてポックリ逝かれたら大問題である。


「わ、分かってらぁ……こっちとて怖がられるのはある程度理解してるからよ。……まあ考えはもうあるんだ。出かけるぞ。ついて来い」


 俺とゲンゾーさんは小屋を出発し、ある場所へと向かった。




 ゲンゾーさんに連れられ着いた場所それは――


「……別館ですか」


 そう広大な敷地面積を誇る旅館『摩天楼』の一角である。莫大な数のスライムが押し寄せた先月は別館の部屋も泊まってもらったけど、現在は本館だけで十分部屋数が足りているので全く使われず、中はがらんとしている。


「おうよ。ここに不死アンデッド系の客をまとめてしまえばいいんじゃねえかと思うんだが、どうだぁ?」


 確かにこの別館は本館から約百メートルは離れている。本館と別館をつなぐ渡り通路に『関係者以外立入禁止』の看板を置いておけば、夜に不死系とそれ以外の客が出くわすことはまずなくなるだろう。本館に泊まるお客様には念のため、不死系のお客様も泊まっておられますと一言注意しておけば、万全だと思う。

 かくいう俺も別館を使う考えはあった。ただ……


「良い考えだと思うんですけど、工事間に合いますか? 来られるまで一週間しかないんですけど」


 問題は入口付近から別館につながる新たな道の整備、そして不死系の魔物に合わせた客室の改装とやるべきことがたくさんあるのに対して、期日がかなり短いのである。だから選択肢としてはずしていたのだけれど……。


「べらぼうめぇ! 俺っちににかかりゃこんくらい一週間もありゃあ十分でぃ! どーんと大船に乗ったつもりで待ってろぃ!」


 ゲンゾーさんはかなり自信があるみたいだ。ここはお言葉に甘えてお任せしておこう。


「残るはスピネルへの観光の手助けですね。もしかして良い案あったりしますか?」


「………………」


 しばらく沈黙が続く。


「ば、馬鹿野郎(やろぅ)! 頼ってばかりいねえで、後は自分で考えやがれい!」


 ゲンゾーさんにも案は浮かばなかったみたいだ。まあさすがにそううまくはいかないよなぁ……。


「できるなら俺っちだって怖がられず普通に観光してみてぇよ……」


 いじけたように小声でつぶやくゲンゾーさん。

 少しはかわいいところもあるんだなと俺は彼に気付かれないようにくすっと笑った。


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