差し伸べられる手
「腹減ったなぁ……」
青々とした晴天をぼんやりと見ながら一人つぶやく。
昨日一日何も食べていないから当たり前といえば当たり前だ。
体は非常に重く全然動こうとしてくれない。昨日一睡もしていないのも原因だっけか? ……いや違うな。徹夜一日くらいなら余裕だし。…………あっそうだ、昨日住んでた街(都市スピネル)を飛び出してから一日走り回ってんだった。
昨日のことを思い出すのに時間がかかってしまうとは……どうやらもう頭も働くことを放棄しかけているらしい。
「はぁー、なんでこんなことしちまったんだろ?」
自分の口から大きなため息が出る。
――不幸な出来事が続いた。
――借金で旅館を売却しなければならなかった。
――一人ぼっちになってしまった。
だからといってここまで投げやりになることはなかっただろう。
俺ももう十七だ。自ら稼ぎ、夢を追うことだってできたはず。なのに――
……あー、なんか視界がぼやけてきた…………。
もう意識を保てない。まぶたは重金属のように重く、重力に従うように瞳を覆う。
それと同時に、まぶたの裏に焼きつくのは過去の出来事、情景。
これが走馬灯ってやつかな……。
――男手一つで育ててきてくれた親父の顔。
おふくろに先立たれたってのに、その悲しみなんて、俺に見せたことは一度もなかったな……。
――旅館『居鯉の里』。
親父の経営していた旅館だ。小さいときからよく手伝わされていたっけ……。
――旅ラン十位にランクイン。
あの時はめっちゃうれしかった。ウチも有名になったって少しの間はしゃいでいた。俺と親父の夢――『旅ラン一位』に近づいたって柄にもなくハイタッチなんかして喜んじまったなぁ。だけど、思った以上にその後客足が伸びなかったんだよ……むしろ――。
考えるまもなく次の情景が映し出される。
――親父の急病。
原因は過労とのことだった。親父一人で切り盛りしていたも同然の旅館はあっという間に経営が傾き、売却されることになった。
それにショックを受けてか病状は悪化の一途をたどり、そのまま帰らぬ人になったのはつい先日のことだ。
親父の葬儀を終えてすぐ、俺は街を飛び出したのだった。
行く当てもなく。
ただ現実から逃げたくて。
……だけどこのままだと本当に逃げ切ってしまいそうだぞ。逃げ切ると同時にすべて終わりだ、笑えねえ。――――ん?
「おっ、かわ――子発見!」
少年っぽい声が耳に入ってくる。
どうやら誰かが近くを通り、俺を見つけたらしい。
「息はある――フェーダ、早速――れ帰るぞ――!」
「いいかげんそろ――の悪い癖直して――。――はいえ――まま放っておく――――険ですね。『――楼』まで運び――――リム、お願い――」
「――――」
ひんやりと柔らかな腕で、俺の体は容易く持ち上げられる。
――助かった、のか。
俺は安心すると同時に意識を手放した。
ちょっとずつ更新していくか、ペースは落ちるけど溜めてから更新するか……とりあえずは前者で行きます。