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旅バト!  作者: 染莉 時
第二章:集客!
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シミュレーションを実行

「な、なんだと……」


 書斎の奥、古ぼけた木製の机の引き出しを開けた俺は、その中身に驚きを隠せなかった。


「どうしたのにゃ? チラシはあったのかにゃ?」


 何かあったのかとばかりに興味津々で近づいてくるカトレア。


「あっ、いやなんでもない」


「ほんとかにゃ~?」


「ほんとだって」


 そう、引き出しの中は普通の書類がきれいに整理されている。何も変なところはない。


「むしろ、だから驚いたっていうか……」


 だってあのルシフだよ? 俺を女性と間違えて、初対面なのにいきなり体中を触ってきたあの変態だよ?

 絶対エロ本とか写真集とか机に入れてると思ったのに。

 意外と仕事に関しては几帳面なのか?


「うーん、よくわからにゃいけど、とりあえず目当てのチラシはにゃいのね」


「ああ」


 目に付くのは紙の束を綴じたファイルのみ。背に全て題名が書いてあるのでどのファイルに何が入っているか一目瞭然だ。


「ただ一つ気になる物はある」


 俺は椅子に座り、引き出しから一つのファイルを取り出し机に広げる。


「にゃににゃに?」


「……(スッ)」


 さっきまで棚を探していたリムも流れるような動きで俺の隣に寄ってきた。


「――ってか二人ともちょっと寄り過ぎじゃない!?」


「だってそれ気になるし。にゃにか問題でも?」


「いやー……」


 俺の両肩に二人の胸が押し付けられているのでその感触がね……。そういうスキンシップは好きな魔物やつか同姓とやってくれよ!


「とりあえず開くにゃよー」


 俺に寄りかかるようにして、カトレアは早速ファイルのページをめくる。

 もう当たっているというより当ててんのよ状態だよね? それにしてもこの感触は――


 片方はむにっと柔らかな弾力、もう一方は……うん、何も言うまい。


「……なんか失礼にゃこと考えてにゃい?」


「別になんでもない! それよりこのファイルなんだけどさ――」


 慌ててファイルへと意識を向けさせる。

 ちょっとした考えをすぐに見抜くとは……さすがは女の勘、それとも猫の勘か。


「――今までの旅ランの記録みたいなんだよ」


 RJ(旅館審査委員(ジャッジメント))の協会より隔月ごとに送られる、ランキングを知らせる書面がこのファイルに綴じてあった。


「結構前からこの旅館あったんだなー……って最初から見ていったらキリがないか。えーと最新のものは……あったあった」


 一番上に綴じられた書面。つい先日送られてきたものだろう。先月までの二ヶ月間の結果がそこに書かれていた。


「…………ひでぇー」



 

 『客数』――    2RP

 『名声』――   10RP

 『評価』――   11RP

 『利益』――  -50RP

 『社会貢献』――  0RP


 『総合』――    0RP

 ランキング―― 圏外




 総合でマイナスRPがつくことはない(マイナスの場合0に繰り上げである)ので最低ポイントだ。


 ……まあ正直なところ至極妥当な結果と言える。

 『名声』がまだ思っていたよりはあるけど、どう考えても悪評によるものだろう。


「へぇーこれが旅ランってやつかにゃ。ひどい結果にゃんだねー、にゃははは!」


 笑い事じゃないんだけど……まあ笑うしかないよなぁ、あはは……はぁーあ。

 ため息をつきつつ、目に毒なこの旅ランファイルは閉じる。


「さて今の旅館の状況も知れたし他の場所でも探――」


 俺がそう言って椅子から立ち上がろうとすると、騒がしい声が書斎に響いてきた。


「こらー! また勝手にワシの家に入りおってー!!」


 ドタドタと入ってきたのは赤と紫のなんとも奇妙な色の袴を着た小柄な少年。――八重歯を見せつつ、怒鳴るその姿に脅威は全く感じられない。

 なんでこいつがこの旅館の主人なのかいまいち理解ができないのだけど……。


「ルシフって本当に主人なんだよな? なんでこんな子供が?」


 俺は隣のリムに耳打ちする。


『先代魔王がこの土地の所有者だったから。引き継いだのが今の主人、その子供』


「は、はぁ、なるほど……って昔戦争を引き起こしたっていうま、魔王の子供!?」


『あくまで噂』


 噂ね……まあ確かに魔王の子供なら他の魔物も従うし、主人になりえる……か? どうみてもただの子供にしか見えないし、なにより怖くない。それに威厳も……。あっ、いやだからフェーダさんが普段傍に付いているのか。


 魔王の側近はダークエルフだったって歴史で習った覚えがある。つまり実権はフェーダさんが持っているということかもしれない。


「無視するでなーい!」


 怒りで顔を赤くするルシフに、なだめるようにしてカトレアは声をかける。


「まあまあご主人様、落ち着くにゃ。ちゃんとウチらにも理由があるのにゃ」


「り、理由じゃと……。いったいなんじゃ?」


「え、えーと…………ティナが説明してくれるにゃ」


 こいつ、丸投げしやがったな!


「ティナ……クレスのことかの? ああ確かにティナの方が合っておるのぉ。クレスよりはティナって感じじゃ。ワシも次からそう呼ぶことにしよう」


 呼ぶのは勝手だけどさ、『ティナって感じ』ってなんだよ! 女子っぽいってことか、そうですか!


「それでワシの家に勝手に入った理由とは? 場合によっては……減給するぞ?」


 減給で済むんだ……甘くない?

 まあどちらにせよ大丈夫だ、ここはシミュレーション通りにやれば――


「仕事する上で必要なものがここにあったんだ」


「し、仕事の話かの……? それはいったい何じゃ?」


 うん、大体考えていた通りだ。たぶんこのまま押せる。


「前配っていたチラシだよ。無いと困る。……勤務中なんだから仕事で必要なものが置いてあるここは開放しておいてくれないと」


「そ、そうかもしれんが一応ワシの住居でもあるわけで……」


 ルシフの声が弱くなっていく。

 うん、もう一押しってとこか。……よし、あとはカトレアかリムがあのポーズで一言を放てば――。

 俺は二人に視線を送る。


 ――両手を前でグッと握って応援してくれているカトレア。

 ――『もう一声』というメモをこちらに見せてきているリム。


 ……はっ、そうか! シミュレーションの結果を二人に伝えていない!

 今からでも伝え……いやここで相談とか不審な行動をとるも………………くそっ、仕方ない!

 決意は――固まった。




「ルシフ!」


 まず呼びかけて確実にあいつの視線をこちらに向けさせる。

 そして、右手を口元に軽く当てうつむきがちに。その状態で上目遣いだ!


「だ、だめだったかな……」




「「………………ぐはっ!(吐血)」」(ルシフ&俺)


「はぁああああもう!かわいいから許す! 何でも許す!」


 予想通りのルシフの反応。

 ふっ、勝った……ぜ?


「ティナ、どうしたのにゃ? 大丈夫かにゃ?」


「あ、ああ……思ったより精神的ダメージがね。かわい子ぶるのは無理があった……」


「大丈夫にゃ。無理じゃなかったにゃ。めっちゃかわいかったのにゃよ」


『あれは魔性レベル』


 ……全然フォローになっていないんですけども。俺は……男だあああぁぁ…………。

 俺は心の中で叫ぶ。


「はぁああああ! あの表情が頭の中でぐるぐる回る~!」


 ルシフもなんか知らない(ことにしておく)けど叫んでいる。


 とりあえずルシフの悶えが収まるまで、そして俺の精神的ダメージが癒えるまで一旦休息することになった。


光魔法「かわいいポーズ」!

いやー男性には効果絶大ですよね。

「かっこいいポーズ」は結構使われてたのに、「かわいいポーズ」の登場機会は恵まれず……。もっとあっても良かったのにと思う今日この頃です。

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