密室は破られるもの
題名がミステリーっぽくなっちゃいましたが、そんな要素はほとんどありませんのであしからず。
「……開かないにゃ」
従業員の男子寮と女子寮の間。ルシフの住む仕事場――兼、家は鍵がかかっていた。
「留守かー、どっか行ってるのかな?」
「うーん、外出かもしれにゃい」
困ったな、チラシだけでも手に入れておきたかったんだけど……。
「ちょっとここで待つ?」
「いつ戻ってくるかもわからにゃいし、遠出かも?」
「せめて所在が一目で分かるようにしておけよ……ここ仕事場でもあるんだろ……」
『外出中……行先:○○』『勤務中』『帰宅中』みたいな札が玄関の隣に掛けてあればいいのに。
「ちょっと待つにゃ」
そう言ってカトレアは家の周りをぐるーりと一周回って元の位置に戻ってきた。
「ダメにゃ~。窓もほとんど鍵かかってたにゃ」
「窓って……不法侵入するつもりだったのかよ! さすがにまずいだろ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
『仕事に関係あれば見逃してもらえる』
「いやいや、いくらなんでも不法侵入は――」
『以前論破した』
あっ、前例あるのね……。
しかし、いくら仕事場とはいえ、勝手に自分の部屋に入られたら怒られるような…………。
ちょっとシミュレーションしてみる。
(ルシフ)「こらー! 何ワシの部屋に勝手に入っとるんじゃー!」
(俺)「仕事する上で必要なものがあったんだよ」
(ルシフ)「し、仕事ので必要かの……?」
(俺)「むしろ勤務中なんだからここは開放しておくべき」
(ルシフ)「そ、そうかもしれんが一応ワシの住居でもあるわけで……」
(俺)「だ、だめだったかな……(上目遣いで)」
(ルシフ)「かわいいから許す!」
…………うん、どうとでもなる。まあ最後の上目遣いはするつもりまっっったくねえけどな! ……最悪、そこはカトレアかリムに任せよう。
「まあチラシを取ってくるだけならいいか。ばれても問題なさそうだし。でもそもそも今回は入れないんだよなぁ……」
「いつもにゃら一つくらいは開いてるのに……」
無用心だなおい!
『全くなかった?』
「んにゃ、にゃくはにゃいのだけど……」
カトレアは俺とリムを連れて家の裏手に回り、ある場所を指差した。
「あそこにゃ」
「なんじゃありゃ?」
目線の高さにある小窓には牢屋を連想させる鉄格子がはめられている。その窓から部屋の中を見ても暗く、生活感はない。俺が前入った見事な和室とはほど遠いまさに独房と言える部屋だ。ここは……?
『おしおき部屋』
「フェーダがよくご主人様を連れて行ってる場所にゃ」
ああ、なるほど。
――って一瞬納得しちゃったけど普通ねえよ自宅にそんな部屋! ……まあたぶんフェーダさんが後で作らせたんだろう。セクハラ犯のあいつには必要な部屋だろうからな。
「ふーん、しかしさすがにあそこからは入れねえよ」
「でしょ?」
窓は開いているけど鉄格子が邪魔だ。それに窓自体が小さすぎる。鉄格子が無かったとしても、小柄な俺でも体は通れるかどうか……。
「諦めてあいつを探すか」
「それがいいにゃ」
「…………」
あごに手を当て、何か考え事をしてているようなリム。――っと思ったら急にメモに何か書き出した。
『センカならどこにいるか知っているかも。二人で聞いてきて。私はここで待つ』
……確かに女将であるセンカさんなら知っているかもしれない。聞きに向かっている間にルシフが帰ってきたらすれ違いになるから、ここで誰かが待つのも大事だ。ちゃんと隙無く考えられている。
「そうと決まればセンカの元へれっつゴーにゃ!」
カトレアが俺の手をを握り引っ張る。
遠ざかるリムが俺に嫉妬するわけでもなく、ホッとした表情を垣間見せたのが少し気になった。
センカさんの今日の予定を確認!
…………休みだった。
「そういえば朝いなかったよなー」
「ウチもすっかり忘れてたにゃ」
とぼとぼとルシフの家に戻る俺とカトレア。
やっぱり朝のこの時間でも客がいないから歩く廊下は寂しく感じる。
ルシフが帰ってきていればいいけど………………ああ、ダメか。
見えてきたのは玄関の前で一人で待っているリム。ルシフの姿はどこにも見当らない。
「おーい、リムー。センカさんは今日休みだったって――ええ!?」
スッと自らの青髪を片手で整えたリムがにこっとした顔で、普通にカチャリと玄関の扉を開く。
「カトレア! まさか窓ばかり見て玄関確かめなかったとかないよな!?」
「さすがにそんなへまはしにゃいって! 鍵かかってたのティナも見てたはずにゃ!」
ああ、そうだったな……じゃあどうやって……。
「ルシフが少しだけ家に寄ったとか?」
「……(フルフル)」
「実は合鍵持ってた?」
「……(フルフル)」
うーん、わからない。そういえばリムの着物の帯がちょっと緩んでいるような気も……。
トントン。
腕を軽く叩かれる。
可能性を思案している俺にリムは一枚のメモ用紙を渡してきた。
えーと、なになに。
書かれていたのは『ひ・み・つ』の三文字。どうせなら最後にハートマークが欲しいなぁ。
秘密と言わ――書かれた以上、むやみに聞いても時間の無駄だろう。ここは鍵が開けられたことに素直に喜んでおこう。
「まっいっか。それじゃあさっさと前配っていたチラシとやらを探そう!」
「はいにゃ~」
「……(コク)」
さあ、ルシフ家の家捜し開始だ。
まずはチラシが置いてありそうな、これぞ和室っといえる居間の隣――仕事場の書斎から。
さて何が見つかってしまうやら……。エロ本とか普通に入ってそうだ……。もしあったらどうしよう? カトレアやリムがいる前では反応に困るぞ?
俺は一抹の不安を抱きながら引き出しの一つを開けた。