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旅バト!  作者: 染莉 時
第二章:集客!
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甘い話は無くとも……

「キリもいいし、この辺で終わりにして食堂行くか」


 日もすっかり落ち、腹も減ってきた遅めの夕食時。十室改装したところで、俺はカトレアとリムに呼びかけた。

 改装と言ってもタタミを敷いて、古そうな壺を倉庫から探し出して小棚の上に置いたぐらいだけど。倉庫から客室までの往復、それにセンカさんより頼まれていた他の客室の掃除をしていたら結構時間がかかってしまった。


「そうするにゃー。ごっ飯♪ ごっ飯♪」


「……(コクッ)」


 俺の提案に即座に賛成する二人。

 そりゃあこれだけ動けば腹も減るよね。


「ただその前にセンカさんには改装したことを伝える必要があるよなぁ。どうやって説明……いや言い訳をしようか……。ひとまずクレームの原因がタタミに無かったことを理解してもらって……」


「何をぶつぶつ言ってるにゃ。センカに伝えるのにゃら何もにゃやむ必要にゃいと思うにゃよ」


「そうか? なんか姉御口調だし一筋縄ではいかない感じがするけど?」


「まあウチに任せにゃさい!」


 (ない)胸に手を当て自信有り気なカトレア。

 何か方策があるんだろうか。……まあここまで自信があるのなら任せよう。ちょっと怖いからあまりセンカさんと言い合いになりたくないし。


「じゃあ頼んだ。上手く言ってくれ」


 俺達はカトレアを先頭にセンカのいる受付ロビーへ向かった。




「おっ、掃除終わったのかい。残念ながら今日も客はゼロだよ。はぁ……どうしたもんかねえ」


 ため息をつくセンカさん。

 今日も客ゼロとかここの経営状態をマジで疑問に思う。


「ということは明日もほとんど仕事にゃいのね。なら明日は客室の改装に時間を全部使っていいにゃ?」


「ん? 客室はあれでいいって決まらなかったかい? …………急に変えるわけにはいかないさ」


 やっぱり反対されるか。ちゃんと反論してくれよ、カトレア。


「実はもう何部屋か改装したのにゃけど……タタミ敷いたりして……」


 カトレアの声がだんだん小さくなる。

 あれ? さっきまでの自信は?

 一方、センカさんの声は荒くなっていく。


「タタミはクレームがあったからしまったんだよ。ちゃんと説明しただろう!」


「でもそれは勘違いだったのにゃ。にゃんかよくわからにゃいけど……」


 分からないって――ああ、そういえばカトレアは含ませた言葉の意味を理解してなかったっけか。

 しかたない、ここは俺がちゃんと説明を――っと?


「むぐっ!」


 リムの手が俺の口を塞ぐ。もう一方の手――白く細い人差し指は自らの口に当て『静かに』と合図された。

 なんでだ!? と精一杯目だけで伝えるも彼女はゆっくりと頷き、カトレアの方を見るだけ。

 このままで大丈夫ってこと!? いやいや、あいつもう涙ぐんでるけど!

 おい、ちょっと、力強っ! 全然手離れないし!

 俺がジタバタしている間にもカトレアはどんどん萎縮していく。


「結局よく分からないままじゃないか。それじゃあ使えないねぇ。元に戻したほうがいい。客室の改装なんて勝手に――」


「うっ、ウチら頑張ったのにゃ……ひっく、タタミ重かったけど何度も運んだのにゃ……にゃ、にゃんで戻さにゃきゃいけにゃいの……?」


 ついにカトレアの目から一粒の涙が落ちる。

 そこでセンカさんが明らかなうろたえを見せた。


「ちょ、ちょっとそんな顔しないでおくれよ! わ……わかった、わかった! 一度あのルシフに客室を改装してもいいか聞いておくからさ! ねっ?」


「ほ、ほんとかにゃ?」


「ああ、もちろんさ。ただし、タタミのクレームの原因を落ち着いてからでいいからちゃんとするんだよ」


「はいにゃー! 許可してくれてありがとにゃー、センカだーい好き!」


 カトレアはセンカさんに抱きつき、ごろっと甘える。

 彼女が意地悪い笑みを浮かべているように見えたのは気のせいじゃないだろう。完全にセンカさんの性格を知っていて、手駒にとっている感じがする。


 センカさん、気の強そうな見た目とは裏腹に結構甘いんだなぁ。あんな泣き落としが通用しちゃうんだもの。……まあ俺もあの涙にちょっと騙されそうになったけどさ。

 やっぱり女性の泣きはかなり強いと思――――ん?


 ここで大事なことにに気付いた。リムの手が口だけでなく、鼻を覆い隠す…………息ができない!

 そういえばさっきカトレアがセンカさんに抱きついたところで俺の口を塞ぐ手の力が一層強くなったような……げっ!


「……(じぃーーーー)」


 なんとか目を横に向けると、二人の姿を凝視しているリムの姿が。なんか見つめる瞳には黒いオーラを纏っているように感じる。



 この感じは…………嫉妬!



 ってことはリムが好意を寄せているのはカトレアかセンカさん!? たぶんカトレアなんだろうけど、どっちにしても女性だぞ!? ――いやそんな疑問はどうでもいい(よくないけど)! 今は俺の酸素の方が大事だ!


 バンバン!


 口を塞いでいる腕を強めに叩く……がびくともしない。完全に二人の「センカはやっぱり心が広くておっきいにゃ~、それにこっちも」「こ、こら! またどさくさにまぎれて胸を触ったね。ほらそろそろ離れないかい」というやりとりに心が奪われている。


 おーい、リム~、あ、あの、リムさん? さすがにちょっとやば……。


(ああ、恋って盲目なんだな)としみじみ思いながら俺はゆっくり目を閉じた。


――甘い人、魔物はいます。(タイトル続き)


なかなか話がすすんでいない今日この頃。

次話ではようやく『おすすめ旅行ランキング(旅ラン)』について触れます。

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