絶望クライシス、また明日
珍しく3人掛けの座席だった。
なんとなく座ってみたくなり、座る。
正面にある広告には、何ヶ月か前に恋人と行った場所が書かれていた。
また一緒に行きたいなぁ、と考えてからイヤホンをつける。
ーーー好きな曲が広がる。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ふと、目が覚める。
どうやら眠っていたようで、車窓にはいつもとは違う光景が走っていた。
停車駅案内をみると、自分が降りる駅から、相当進んだ場所にいることがわかった。
降りなきゃ、とは思うのだが体が動いてくれない。
そしてそのまま、走り去る景色を見ていた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
いい加減降りなきゃと思い、電車が止まってすぐに降りた。
そこは、思い出の場所がある駅だった。
嫌なことも含めて。
早く、帰るための電車に乗らなくてはならないのに、また体が動いてくれなかった。
そして何故か自分の周りの景色が変わっていく。
自分の意志に反した方向に足が動いていることに気がついたときには、もう、遅かった。
その場所は、自分にとって苦しみの場所でしかなかった。
金盞花が咲き誇る美しい場所。
展望台のようなところがあり、下には海が広がっている。
見晴らしがよく、雑誌に載るくらいのデートスポット。
帰りたいと踵を返そうとするが、動けない。
その代わり前に進もうとすれば、すんなりと動くことができる。
………引き返すことはできない。
嫌だ。行きたくない。それでも行かなくちゃならない。
私には1つの選択肢しか与えられていない。
選択する余地などない。それを選択と言えるのだろうか。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ゆっくりとゆっくりと、歩く。
行かなくてはならない場所まではあと数メートル。
その場所に、私と恋人はいた。
会話は聞こえないが、喧嘩をしているように見える。
あの日と全く同じだ。
私は、恋人に押されて展望台の柵に背中を打つ。
そしてバランスを崩して………。
…………………。
恋人はそんな私に気づかず去っていく。
また、ダメだった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
これで5341万8792回目。
私はあの日を繰り返している。
哀れに思った神様が、私にくれたもの。
ーーーーーーあの日を繰り返す。
でも私がどうにかできることではなく、ただ見ることしかできない。
神様は言う。
キセキを待てと。
キセキを起こすためには、私が希望を持たなくてはならないという。
それでも、もう5341万8792回だ。
神様は残酷だ。
こんな事になるくらいだったら、たった少しのキセキに賭けるんじゃなかった。
素直に、運命を受け入れていればよかった。
絶望クライシス、また明日
(金盞花の花言葉)
(絶望)