欠けた時間と心
訳がわからないよwww
電車を降りて数分。学校が見えてきて、私――由ツナはいつも思いつめている。なんでこんなにも重い気持ちになってしまうのだろう。別に気にしているわけじゃないのに、胸をつっかえさせる。その気持ちに咽ているのだ。
あと少しで着いてしまう。校門を抜け、私は歩くスピードを緩めた。電車から降りてきた集団からどんどん遠ざかっていく。
――そうか。
私って学校が嫌いなんだ。思い返してみれば、負のオンパレードが頭を踊る。先生からは厳しく接され、友達からは天才だとでっち上げられる。私は天才なんかじゃない。小学生からバスケをしてきたからこその実績。みんなだって努力すれば私を超えることなんて簡単だ。だけど人間はそれをしようとしない。誰でも意思はある。全員がバスケをやろうなんて思っていたら、
「ぷっ……」
思わず誰もいない場所で口にあった空気を唾のように吐き飛ばしてしまった。つまり、そういうことだ。ありえなさすぎて笑いが込み上げるばかり。この世に全く同じ意思を持った存在なんていない。ここでいつものように開き直るのだ。
「さぁお手本になるようにがんばるぞ……」
呟いて大きく背伸びをした。上空で雨が降りそうな雲が所狭しと青いはずの空に敷き詰まっていた。
「ひと雨きそう……」
私は校舎の入り口に急いだ。
「由ツナ、おはよう!」
同じクラスの真由美ちゃんだ。私も同じように挨拶を返す。
「遅いから心配したよ~。てっきり電車に乗り遅れたのかと思った」
「ごめんごめん。途中ケータイを見ながら来てたから、集団に遅れちゃったのよ」
学校に来るのが嫌だというのを隠すようにしてケータイの話題を出した。本音を言えるはずもなく話が続けられる。……といっても、軽い世間話ですぐ席に着くこととなった。こんなところでも気疲れか。人脈にも嫌気が差してくる。友達はたくさんいた方がいい、とはよく言うが、私はそうでもないと思った。この学校は総合学科だから、大学も就職もできるように先生が手配してくれている。しかし、卒業したら一人だ。新しい人と接さなければならないし、当然のことながら今まで話していた友達の力も借りることはできない。
――友達って何?
言わない約束なのに、心の中では何度も問いかけられるから、つい思考に出してしまう。友達って何――人間関係って何。ここまでくると病んでいる自分が嫌になって考える思考が吹き飛んだ。やめにしよう。今日はただでさえ精神的休みが欲しい時なのに日直という当番の日だ。内心の考えがバレるのは辺りの雰囲気を悪くする。私は内に秘めた本当の自分を出せて清々しい気分になるのだが。
「あっ……先生来た」
一番入り口側に近い生徒が言った。出歩いていた生徒が一気にガタガタと足音を立てて動き出す。声の通り、先生が来た。頭がストレスか何かで河童のような髪型になってしまったおじさん、青木先生だ。
「相変わらずハゲに磨きがかかってるね……」
……………………あれ?
私は隣に話しかけていた。誰もいない。空席だ。だけれども、私の疑問はそこじゃない。
――私の隣なんて、いたっけ?
自分の行動が理解できなかった。誰もいない席に私は自然と話しかけ、ましてや先生の悪口を軽く大きな声で呟いていたことになる。辺りの視線が私に集中し、しばらく目を回してしまう。でも、疑問は変わらなかった。そして、顔を赤くしながらも思い出す。その席は陽一だ。しかし、それ以上何も出てこない。電車に乗っていて、眠くなったときまではいたはずだ。
「横崎さん」
「えっ……は、はいっ!」
ふと顔を上げると、青木先生の丸い顔つきが私の目の前にあった。結構なこと大きな声だったから、きっと聞こえているだろう。私は怒られることを覚悟した。
「――おめでとう」
「…………へっ?」
ガチャ。私のポカンと開いた口より下で、何か固いものが触れて身動きを縛った。ふと下を見ると、手足が完全に椅子と固定されている。
「えっえっ……なにっ!?」
その瞬間、私はみんなの注目の的になった。怖い。みんなが怖い。私をじっと凝視している。まるでわかっていたかのように、整然として誰も動かない。息が荒くなる。そして、これから何をされるのかが、ただ心の底から怖くて仕方がなかった。
「君は……知ってはいけないことを今知った」
「今知った」「そうだ」「知らなければよかった」「気づかなければよかった」「早く死んだほうがいい」「ううん、死ななきゃいけないのよ」「そうだ、今すぐ死ね」「電気ショック流されて死ね」
何を言っているの。私は何かクラスにとって良くないことをしてしまったようだった、と冷静に考えられたのは――次の瞬間のこと。
「っ!!?」
バリリッと音がした。私が見たとき、奥の誰かが何か煌びやかな閃光を放った物を持ってこちらに近づいている。スタンガンだ。実物は初めて見るが、可視できるほど強力な電気を出しているのがわかる。私はその光から逃げようとした。しかし、手足はしっかり押さえられている。身動きの一つとることはできない。
「……なに?」
――なによ、これ。
私が何をした。クラスのみんなはそんなに私が憎かったの。言ったところで、もう誰も聞いてくれないだろう。みんなの顔は目の前の蟻を踏み潰そうとする人。虫を殺すことに罪なんて感じない、そんな顔によく似ている。スタンガンが私の頭より高く振り上げられた。このとき、私はもう死んだと思った。
「うおおぉぉぉぉぉ……」
否、それは考えすぎだ。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
スタンガンを振り上げた手がゆっくり私の目の前で降下する。私は――死ななかった。助けられたのだ。
いったい助けに入ったのは誰なんでしょう