通学にて4
描写が少なく見えるのは気のせい?
いえ、気のせいではないようです。
「ガフッ……」
効い……た? この銃の名称は知らないが、化け物目掛けて撃った衝撃は腹部に丸く赤い円を描いた。よろけながらゼリー状の触手を退いていく。そして、俺に向かって化け物がライトのような光を見せた。
「やばい……」
今まで気づいていなかったはずなのに、自分から水を差してしまった。化け物が無茶苦茶なスピードで迫る。急いでもう一発撃とうとしたが、弾がない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドパッドパッドパッ。
発射音と炸裂音が入り混じった。化け物に風穴が何個も空き、ドサリとその場に倒れる。もう少し遅かったら飛び上がってくるんじゃないかというような距離だった。俺の目にはハッキリと映る。遠距離から攻撃したであろう掌を前に構えた青年の姿。見るなり力がどんどん抜けていく。
――やったんだ。
「はっ……お返しだ」
青年はそう口から台詞を吐き捨てると、こちらに近づいてくる。そして、俺の顔を180度確認した。
「……」
「……」
目をまじまじと見つめる。顔を全体的に見渡せるまで近づかれると、その人間とは思えない整形したような肌が映った。痩せていて、顔も整っている。しかし、どこか人間の面影が残っていた。しかも俺は――その容姿に覚えがある。入学して早日に部活動見学をしていた時、片隅に過ぎる一人の声。『バスケか……お前もやるのか?』と、容姿こそ不良のような身なりをしていたが、彼は初めてなのに優しく接してくれた。俺と同じ、当時は新入生だった。
「……はっ」
興味なさげに背を向ける青年。俺はすぐに気づいたが、なかなか出せる言葉がない。目の当たりにしていたからだ。彼の力。得体の知れない奴を相手にものともせず、立ち向かう姿。人間だったら恐怖の対象とみなして、すぐに逃亡を図るはず。それが人間の持つ危険から逃れるための生命維持本能だ。彼はその本能が麻痺している。言葉で表すなら、恐ろしい魔力で世界を支配しようと企んだ魔王に向かって戦いを挑む者。正しく勇者という言葉がふさわしい。違った意味も含めて。
――本当に、《彪都》なのか。
俺は最初から変わらない疑問をもう一度繰り返す。思い切って聞くのが一番かもしれない。
「あのさ……」
「……」
「お前の名前って……」
「彪都だ……」
意外とすんなりカミングアウトした。やっぱりそうなんだ。俺はさらに質疑を飛ばす。
「なんでそんな身なりしてんだ? いかにも学校行くような格好じゃないだろ?」
その言葉に対して、顔をこちらに向けることはなかった。やることがなくなった彪都の身体は、吸い寄せられるように座席へ座り込む。
「なぁおい。聞いてるのかよ」
急かす言い分を口に出す。何を考えているんだ。彪都はこんな奴じゃなかったはずだ。容姿と一緒に性格まで変わってしまったのだろうか。
「なぁ……」
やっと口を開いてくれた。彪都はそのまま言葉を続ける。
「お前、誰だよ」
「……………………えっ?」
長い間に感じた。しかし、それだけ理解に時間を費やしたのだ。彪都はなんて言ったか。なんだか今まで友好的なつもりだった表情が、カチカチと凍りつく。彪都との関係は長い。それをすべて忘れていると知った俺は、状況を悟った。
彪都は記憶を失っていた。こんな容姿になる前から全部の記憶を。
「なぁ、さっきからお前は質問ばかりなんだしよ。ちったぁこっちの質問にも答えろよ。守ってやったんだからよ」
「なっ……」
こいつ何様のつもりだ。こっちだって銃を使ってなくちゃ彪都の身体はお陀仏だったかもしれないのに。俺はすぐに言い返した。
「なんだよその言い草! 助けてやったのはこっちも同じだろ!?」
「うるせぇ! 人間の分際で、ヒーロー様に立てついてんじゃねぇぞこの、ドシロウ……」
「ドシロウ……なんだよ」
彪都はそのとき、何かを見ていた。そして、
「バーカ」
「な……」
バグリ。また全体が暗くなった。これは、さっきの時と同じ。ということは化け物の口の中。
「お……おいっ助けろよ!」
声に彪都は反応しない。逃げたんだ。きっと俺の言葉が気に食わなくて、意地でも助けない気だ。
「アハハハハ……ギャアハハハハハ!!」
気持ち悪い。化け物が声を出している。密室のような状態であるためか、その複数人いるであろう高い声と低い声の重奏は、耳の鼓膜が痛くなるほど響いた。やがて笑い声を聞きながらも、化け物の内部が狭くなる。飲み込もうとしているのだ。
「……」
呆然とするしかない俺はたった一言呟く。
「夢、だよな」
こんなのありえない。
「そうだよな、っはは……夢だよな」
現実だ。
「ははっははっ……は……」
その後、俺はひどい痛みに襲われた。噛み千切ったのだろうか。前歯で切断され、奥歯ですりつぶされたのだろうか。だとしたら、彼女はきっと大満足だろう。感覚はだんだん薄くなっていく。ただ俺は、その消えていく痛みに開放感を感じていくだけだった。
あれ、なんでしょう?
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