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アウトレイジ  作者: 人世一夜
第一章
6/8

通学にて3

改定する可能性があります。

 

 ズパッ。切断する鋭い音とともに、光が差した。


「バカヤロウ……喚くんじゃねぇよ。うるせぇな」


 そう説教じみた言い分を口に出す青年は、驚いたことにその場から一歩とも動いていなかった。何をしたんだ。俺は切断された軟らかい物質を振りほどく。


「グ…グルガルロララ」


「ひっ……」


 目の前にいる化け物の声だ。そこに元の千代であった姿はない。頭は切断されてどうなっていたかわからないが、身体は緑色に変色し、人間でいう即死している状態にも関わらず動いている。俺がその恐ろしいワンシーンに身を引くと、頭のない身体が激しくカクカクと動き出した。何かを――排出しようとしている。


「おいバカ、何中途半端な逃げ腰になってんだ!! 今のうちにこっちに下がれ!!」


「……!」


 時すでに遅い。化け物は首から粘土のような物質を吐き出し、新しい頭を作り出した。脅威的な再生能力。身震いがするほどきれいに仕上がっている。俺に向けて出来上がった新しい頭を見せつけるまもなく、そのまだ少女の面影が残る頭を自らの意思で裂き、巨大な口のような形態を作った。アレに掴まれていたのだ。


「ガロオォォォォォォ!!!」


「っ……くそっ」


「えっ?」


 恐怖が過ぎった瞬間、俺の視界は青年のタックルをぶちかます姿に塗りつぶされた。化け物がよろめきながら倒れる。すると青年は、化け物を押さえ込んでこちらを睨んだ。


「はっ……」


 すぐ身体中に力が湧いた。俺はできるだけ距離を置いた場所に身を引きずり、倒れこむ。『今がチャンスだろ?』――彼は暗黙ながらそう目で伝えていた。俺を助けてくれたのか。仰向けの状態からムクリと首を起こすと、青年が化け物と乱闘している。

 緑の腕が、青年の両腕を掴んだ。めり込み方が尋常じゃない。とんでもない力を出しているのだ。


「う、おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 しかし、青年も負けてはいない。緑の腕に自分の腕を巻きつけるようにして、ベキッと音を立てるほど強い腕力を発揮した。さらに、ベキベキベキッッとさっきより聴いてもいられないような惨い音を出す。


「ガ、ガガガ……イタイイタイイタイッ!!」


 奴が苦しんでいる。激痛が走っているのだ。途端、青年が力を縮ませたバネのように勢いよく解放した。ベリッ。まるで引き剥がしかけの壁紙を引っぺがすような行動だ。


「ギャアアアアアアアアア……」


「へっ、いい加減くたばれってんだよ」


 俺にもわかる。青年が優勢だ。両腕を無くした化け物は、今も続く痛みにもがいている。その状態を見て青年は笑った。もう勝ちは目前だ。俺がそう思っていると、とどめを刺すために青年が手を振り上げた。否。彼の身体に突然、腕を形成し、再生しようとするはずだった粘土状のものが、何百にもなるゼリーのような糸となって青年の身体に巻きついた。

 なんてことだ。その触手にも似た青いゼリー状の物体は少しずつ青年の身体を伝い、しだいに絡みつく体積が広がり続けている。いや、もはや絡みつくというより、浸透していくというのが正しい表現だろう。


「まさか……」


 自然と開いた俺の口から、息が小刻みに吐き出される。優勢を一気に逆転する方法はいろいろある。喧嘩で例えるなら、迫り来る敵に向かって相手をノックアウトする勢いの拳をぶつける、とか。今の状況がもしそうだとしたら、あの化け物は何をしているんだ。もうわかりきったことに対して、俺は繰り返し自身に向かって質問している気がした。

 あの化け物、青年を喰っている。氷海の天使といわれたクリオネが捕食する時と同じだ。あの小さい身体で、あの生物は自分の頭より大きい獲物を丸呑みにする。そして、ゆっくりと溶かしその透明な身の栄養とするのだ。抵抗もできずに、ゆっくりと、それがどんなに苦しく残酷なこととも知らずに。俺の目の前でその残酷な狩猟の状景が行われている。


「くそやろう、離せ!!」


 だめだ。もう肩と頭以外全部ゼリーが呑み込んでしまった。もう青年にはもがく力がないのか、ただ化け物を睨むだけ。


――俺もああなるのか。


 さっきまで俺は幸せと自身で語った。しかし、それは幻だった。あのままいたら千代の化け物に喰われていたし、その先に永久の恒久があるわけなかった。現実が重くのしかかる。ゼリー状の物体が出すズルルという音に耳が痛くなり、直後に頭へ激痛が走った。


「俺は……ここで死んでも、生きても、地獄のような精神的苦痛に苦しめられるだけだ。どうすりゃ……どうすりゃいいんだよぉ!!」




「勝手に苦しんでんじゃねぇ!!」




 怒涛に満ちた声が、俺にきつけを促した。青年が上げた叫びである。


「お前のそういうとこが嫌いなんだ! 由ツナの気持ち一つ考えないで突っ走りやがって……その果てには、被害妄想ばかり考えて結局自分が大事かよ!」


「ち、違う! 俺は純粋に由ツナを超えたくて……」


「だったら、その前に楽になることなんて矛盾な考えしてんじゃねぇ。――目標なんだろ?」


 いまにも完全に取り込まれてしまいそうな中、青年は俺の葛藤する心を全部洗い流そうとしてくれたような気がしてならなかった。頭を上げる俺。さっきまでの激痛はもうどこかにいってしまった。辺りを見回して冷静に考える。


――何ができる?


――無能な俺に化け物へ対抗するための手段は?


 この戦局を打開する。そのことだけを頭の中で何回も唱えた。もうほとんど時間がない。完全に青いゼリーに青年が潰されたら、あとはクリオネが行う捕食行動のようにその液体と一緒に栄養として消えてなくなるだけだ。


「っ!!」


 見つけた。窓の光に反射して座席の下で黒光りする少し曲がった筒がある。急いでそれを取り出すと、長い2対1の比率で曲がったところに手を掛けた。なんでこんなものが落ちているのだろう。考えたが、結論は出ない。しかし、ここに偶然があったことを天に感謝した。相手は青年を完全に押さえることができて意気盛んだ。後ろを向いたときがチャンス。


「…………」


 俺は化け物の不意を目に焼きつけるかの如く、見入った。引き金を強く握る。


「くらえ、化け物ぉぉぉ!!」


 その筒は、ズドンと音を立てて何十発もの弾丸をばら撒いた。


 

ショットガンですね。

化け物に効くんでしょうか。

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