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アウトレイジ  作者: 人世一夜
第一章
4/8

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前回より少なめです。

まるで奇跡を見ているようだった。私は暗い夜の帰り道に手で口を塞ぎながら自分の恥を知る。本当にびっくりした。あの時、夕暮れ時で窓からの逆光のせいか顔がよく見えなかったが、声は親友とまったく同じだったことを私は記憶として残している。しかし、似ているのは声のみで顔はまったく違っていた。

 私、美咲舞菜っていいます。――私の運命がこの学校で自己紹介をした時に、また始まった。ここで前にいた学校と同じことが起きる。みんなそのことを知らない。秘密だから。私は赤くなった顔からそっと手を放す。そして、俯いたまま両手をダラッと垂らした。内心に黒い物がモヤモヤと湧いてくるのが少しだけ感じた。


「伝えたほうが、よかったのかな……」


 そう、後悔するが、言ったところで誰も信じてくれないのは目に見えている。今の私に親友呼べる人物はいない。今日転校してきたのに、いるわけがないから、躊躇いなんて考える暇もない気がした。でも、現実は違った。いざ、明日に全てが始まるともなると、さすがに罪悪感を感じてしまう。しかし、楽しみに思っている部分も多々ある。子供の頃、ある場所でお父さんが≪結晶≫を見せてくれた。お父さんはその赤い石を見る私に『この結晶は、人間に正義の力を与えるものなんだ』、と自慢げな表情を浮かべて言っていた。正義。私はその言葉がとても好きだ。今までの短い人生の中で、一番共感できる熟語だと思う。それ以来からだ。この研究のために何でもする覚悟を決めたのは。

 小さい頃からの覚悟を思い出しながら、私は俯いた頭を引き起こす。するとどうだろうか。あれほど罪悪感を感じていた内心のモヤモヤはきれいさっぱりなくなっていた。しかし、実験は上手くいっていない。


 結局、前の学校では適合者が一人も見つからなかった。したがって、実験体として拉致した生徒を私たち≪美咲製菓≫は何人も犠牲にした。その後の隠蔽は上手くいったものの、なんの結果も得られることが出来ず焦るばかり。結晶の方はこれまでに三つ確保している。それぞれ成分に違いがあり、赤、琥珀、青の三種類だ。


「正義のため、なんだよね……」


 ケータイの電源を入れる。ここの学校の生徒を一人誘拐に成功したらしい。結果がそろそろ出るはずなのだが。


 ピリリリリリ。


「お父さんからだ!」


 私はすぐさまケータイの通話ボタンを押して、耳に押し当てる。『もしもし』と始まるお父さんの声は、どこか興奮に絶えない。途端、私もドキドキして、そのうれしい知らせを集中して聞いていた。


『成功だよ舞菜。たった今人間の身体と琥珀の結晶が適合した』


 初めて、実験が成功した。喜びの声を出す私にお父さんはタイプが(オー)だったと続けた。何でも、元素記号である酸素を示したそうだ。それから話を聞いていくに連れて、どんどん話題は興味深くなっていく。私がケータイで聞いた結晶適合者(ヒーロー)は、元素を自在に操ることが可能だそうだ。つまり、適合したタイプが(オー)の人物は酸素を扱うことが可能ということになる。手早く行った検査らしく詳細は鵜呑み気味だが、素晴らしい能力だ。

 ケータイを制服のポケットにしまい込むと、家まで走る。いてもたってもいられない。これは前代未聞の出来事なのだ。世界に初めて、肩書きのヒーローではなく正真正銘、本当の正義の味方がこの現代に誕生したのだ。もうすぐ家に着く。だんだん息を切らしてきたが、私の足は止まることなく速く同じ動作を繰り返した。何か忘れていると思えば、通話ボタンを切らずに走っていた。それほどにも急いでいたということだ。






 「お父さん!!」


 私は家のドアノブを強く限界まで捻ってドアを開ける。家は二階建てだ。研究が終わったのなら、今すぐにでも私を出迎えてくれるはずが、今日は静か。すぐに理解する。初めての快挙に、まだ研究を続けているのだ。元からお父さんは研究熱心だから、そうに違いない。猫背にはなってるけれど、好きなことに没頭しすぎた結果なのだ。私はその心意気が好きである。努力して何かに打ち込むことはなかなか出来ないことだからだ。

 真っ直ぐ進んで窓付きのドアを開けるとリビングに出る。確か、このテーブルを四方に囲んだソファの内、ドアから見て右にある一番フカフカなソファ。いつもなら来客が座るように1個だけ値段が高いのを買ったのだが、単に高級だから値段が高いわけではない。その仕掛けは、ソファの下にある。数字を四つ入れるための電子ロックだ。これに≪3548≫と打てば。


「開いた……」


 そのソファは正解の番号に反応して、精巧なカモフラージュだったソファが自動で動き出す。そして、そこになかったように見せていた階段が姿を現すわけだ。しばらく研究室には入っていない。中が変わってなければいいが。


 開いた地下の階段を下りると私は、すぐさまいつも携帯しているペンライトを取り出してスイッチを押した。道は真っ直ぐだが、何せ地下だ。手の込んだ隠し方をした裏腹に証明器具は一つもない。中は、京都に連れていってくれた時に初めて入った仏の胎のように暗く、怖いのだ。しかし、今の私にその怖さは感じすらしなかった。ペンライトを持っていたのもその一因だが、私はそれ以上に、たくさんの生徒の死体を見てきている。暗い怖さと死体が転がっている怖さは別格だ。出血こそしていなかったが、間違えて触った時の、あの冷たく触れる柔らかい肌。私はそこで初めて、やっぱり死んでいるのだ、と悟り精神がおかしくなりそうになった。顔を俯かせる。


「……」


 よかった……だよね。


「はっ……ダメダメダメ!」


 私は首を何度も横に振る。覚悟したはずだ。正義を生み出すために、なんだってすることを。ふと、歩みを止める。顔を上げた私の前に堅く閉ざされた扉が立ちはだかった。ここを開ければ、研究室だ。ロックは電子ロック式で、≪8570≫がその解除パスワードだ。私は、ゆっくりと慎重に指で押す。緊張してきた。どんなヒーローなのだろうか。心を躍らせながら、扉は開いていく。すると、明るい照明の光が眩しく照らし、しばらく辺りが見えなかった。


「――っ!!」


 最初に映ったのは、念願のヒーローでも、最愛の娘を出迎えるお父さんの姿でもなかった。一面に飛び散った血痕。その瞬間、誰が倒れているのかと思考は次に移行する。ヒーローが出血している? 違う。私はそれよりももっと最悪な状況を思慮した。残虐に血が飛び散った光景――。そこから考えたのは、酷く焦りに焦った私の妄想だった。

 しかし、妄想は現実となる。


「お父……さん?」


 そう、お父さんはあたかも無残な姿で私に発見された。


 

いったい誰が殺したんでしょうか……。

まさか……ね。

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