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アウトレイジ  作者: 人世一夜
第一章
3/8

通学にて1

少々長めにしてみました。

サブタイトルを1とか2で割り振っているのは、章を作る事が出来ないためです。


 

 俺の朝は早い時間に起き上がることから始まる、なんて。誰でもできることだが、だからこそ難しいことだと思っている。朝の五時。食パン一枚に目玉焼きが、挟まったトーストを丸ごと頬張り、朝練の準備をし出す時間だ。さすがに高校へ登校するには早い時間に思うだろう。しかし俺、春風陽一の朝練は、この時間帯に起きねば間に合わない。理由は二つほどある。


「やべっ」


 制服の下に体操着を着込んだ俺は、時計を見て玄関へ流れる。一つに、俺の高校は登校時間が早い。だからこそ早めに起きなければ間に合わない。すぐさま自転車に乗って飛び出す。二つ目に、俺は電車通学だ。発車には時間が固定されているので、それを逃せば朝練の時間が過ぎてしまう。世の中はゆとり教育だ。朝練は強制させられているわけではないが、それほどにも俺はバスケに対して篤いものを持っていた。ちなみに俺、春風陽一の成績はたかが知れている。ほとんどが平均以下だ。






 自転車を漕ぐことほんの数十分。


「っ!」


 ちょうど坂道の時だ。後ろから猛スピードで走るもう一つの自転車が、俺と隣り合わせになって顔をこっちに向けてきた。もうすでに一年見慣れた女の子の顔だ。彼女は俺と目線を合わせた後、ペダルを全力で漕ぎ、追い抜かす。わかっている。これは誘いだ。駅前まで彼女との競争は日課になりつつある。とりあえず俺は、姿勢を低くして自転車に勢いをつけた。もうすぐ長いカーブがある。そこで勝負を決めるのだ。右手でギアを3に切り替える。


「あっ!」


 カーブでアスファルトのインコースに入る。彼女が声を上げる間もなく、たちまち形成は逆転だ。後はここで作った差を縮められないように全力で真っ直ぐ漕ぐだけだ。いつも思うが、危なっかしい運転である。しかし、この朝方という時間帯もあって、人がほとんどいないから安心だ。これを利用して朝練自転車レースの案を出したのは彼女――横崎由ツナ(ゆつな)であり、俺の同級生にしてクラスメートだ。

 余裕の勝利。その後にブレーキを使って止まる方がもっと難しい。由ツナは女子バスケ部の部長をやっている。家も近いし、何より小学生の頃から縁があった。


「やっぱ早いなぁ、陽一君は。体力が違いすぎるよ」


「まぁ……そりゃ、男子と女子じゃ差があるだろ?」


 言えてることだ。俺がこれだけ自転車を漕いでいて息一つ乱していないに対して、由ツナは少々汗を掻きながら会話をするのも億劫そうだ。しかし、バスケでそれは一言も口に出すことができない。前文でも詳細を挙げた通り、由ツナは女子バスケ部の『部長』だ。俺が高校生でバスケに熱中し出したとして、彼女は小学生からバスケを習いこまされている。そしてこの高校生活で彼女の活躍を何度も見ていた。バスケの天才だ。今まで3点ラインからのシュートを外したところを見たことがない。ドリブルシュートなんてもってのほかだ。この先永久にバスケでのミスを見れない気がする。


「そういう原理はなし! 本当に早いよ! 性別の差を抜いても負けちゃうよ!」


「自転車早くたって、何の意味もないだろ?」


意味がない。自分にも嫌なほど冷徹な一言と俺は思慮する。体力が由ツナより(まさ)っていても、こんな競争で勝ったとしても、彼女に勝利したことにはならない。ここまで否定すると、本当に俺は意地っ張りなんだなと思う。しかし、確かにそれは俺にとっての勝利ではないのだ。バスケで勝たなくては――栄光ある勝利じゃない。俺は手早く邪魔にならない場所へ自転車を置き、ロックを掛け、鍵を抜き取る。そのまだ電車には時間があるくせに急ぐしぐさを、俺は嫌になった。後から由ツナも隣に自転車を置き、同じようにロックを掛ける。


「何か、飲む?」


「別にいい……」


「……」


 せっかくの気遣いをあっさり棒に振る。すると、自転車の隣にまだいたはずの足音が聞こえなくなった。俺の後を追いかけてきてくれていない証拠だ。何だよ。もう一言くれれば素直になれた気がしたのに。暫時、視界に映らない由ツナを俺は強制的に振り向いて視覚に入れた。彼女が俺の視線に気づくと足早に近寄ってくる。もちろんのことながら、その人影が再び重なることはなかった。

 電車に乗っても、由ツナは俺と距離を置いて微妙な間を作る。多分、それは俺の思い込みだ。間には座席と座席の微妙な隙間がある。そのせいで彼女は間を作っているだけだ。


「……」


 そう――思いたかった。自転車で隣にいた時の俺はどんな表情していたのだろう。それで、彼女をどれだけ傷つけただろう。体中が疑心暗鬼でストレスを感じているような気がした。小声でもいい、『ごめん』と言おう。しかし、何度も何度もその指令を試みたが、対して何度も何度もプライドが壁を作って俺を塞き、止めた。

 電車で学校までは1時間ほどかかる。この時間帯だ。電車の中はほとんど誰もいない。忘れよう。きっと由ツナもそうしようとしている。俺にとって一番リラックスできる時間に、いつまでも気持ちを引きずっていてもしょうがない。そう開き直ると、だんだん眠気が瞼を下ろし、まるで考えすぎな俺を癒してくれるかのように電車の気持ちがいい揺れに身を任せて、少々浅い眠りについていった――。











 どれくらい時間が経っただろう。ふと目を覚ました俺は、瞼を起こして辺りを見た。変わらない光景である。いつも通り1個目のトンネルにたった今入ったところだ。学校までに2個は通過するはず。


「えっ……1回?」


 その時、俺はある異変に気づく。もう一年も通い慣れた通学電車だ。景色もだいたい覚えているし、今の時間帯ならどこを通過しているかもすぐにわかる。だから、1個目のトンネルだとすぐわかったのだ。しかし、日頃使っていないケータイに目を通す。六時三七分。明らかに1個目のトンネルを通過した後の時刻を刺しているいるのだ。


「なぁ、由ツナ……」


 俺の言葉に間を取っていた由ツナは、反応しなかった。それだけじゃない。辺りは静粛している。揺れながら移動する4台の車両内部にさっきまで存在していた人影はおらず、辺りを見回しても、赤い空席が広がるばかり。俺は一人電車の中に閉じ込められていた。

 再度、ケータイを確認する。六時四二分。ケータイの時間は進んでいる。降り遅れたわけじゃない。学校の最寄り駅に着いたなら、いくら先ほど酷いことを言ったとはいえ、由ツナが起こしてくれるはずだ。何かあったのか。俺は立ち上がると、最後尾の車両を後にして、次の前から三番目の車両へ足を運ぶ。


 三番目の車両。


 やはり誰もいない。三両目は指定席ゾーンだが、ただ明るく点いた電気が電車内部の金属に反射して、稼動していることがわかるだけだ。


「本当に誰もいないのか……」


 ふと、窓に赴く。そこである発見をした。この電車――さっきから同じ場所を通っている。具体的に言うと、学校から俺が乗る駅までに間の駅が六つほどあるが、そのうち、1個目のトンネルは最初に停止する駅の次だ。つまり、最初に停止する駅と二番目の駅との間をずっとループしている。なぜ? 一度は疑問を抱いたものの、猪突猛進な俺は次の車両へと動いた。


 二番目の車両。


「……」


 その場所に入った瞬間、身震いをしてしまい何も口に出すことができなくなった。さっきと違う。薄暗い。それに座っていた時に感じることができなかったはずの人の気配がする。しかし、誰もいないのだ。俺はホラーとか怪奇現象とかを信じたことはない。しかし、今の現象はどうだろう。気がついたら隣にいたはずの由ツナも消えていて、電車にはいたはずの人の姿も消えていた。まるで、俺だけ異次元に吸い込まれてしまったかのように。恐怖が塵のように積もっていく。よりにもよって何で俺なのだろうか。立ち止まって考えてみても、原因は一つしかないように思えた。


「由ツナにあんな冷たい一言を言っちまったからなのか……」


 怖い話によくあることだ。大きな罪を犯した者は、最後に恐ろしいモノを見て失神状態で見つかる。だけれど――と、内の運命を悟った自分に反論したい気持ちもあったが、確かにその定番の話は今起こっていることと辻褄が合っている。残念ながら、『そうだ』と納得するしかなかった。俺は適当な席に座る。荷物を四両目に置いてきてしまったが、この際どうでもいい。もう出られないかもしれないのだから。

 と、少し諦めを顔に見せ始めた時だった。


「ねぇ、なんでため息なんてついているの?」


「えっ?」


 ふと、隣に目を向ける。人だ。白いワンピースに麦わら帽子と、今の季節には少し寒い格好をした少女だ。少女はもう一度聞いてくる。


「なんでため息なんてついているの?」


「……出られないと思ってたからだよ。でも君がいたから少し希望が見えてきた」


 ホッと息をつく。何より一安心したのが、このおかしな空間に巻き込まれているのは俺だけじゃなかったこと。まだ絶望するには早いようだ。

彼女はいったい……

今回はちょっとホラーですね。←SFドコイッタ?


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