プロローグ1
はじめまして!
このサイトに初の投稿をさせていただきます。一夜です。
至らぬ点、機能にまだ慣れていないところもありますが、ご一読いただけると幸いです。
――学校ってドキドキしませんか?
名も知らない転校生が俺にそう言った。
突然、しかも放課後の夕日に照らされたなんともドラマティックというか青春の匂いが漂う廊下での出来事だったから、俺はつい周囲を気にしてしまった。高校のスポーツ部は基本夜遅くまでかかる。それで、あたかも偶然バスケのあとに汗を拭くスポーツタオルを教室に置いてきたので、俺――春風陽一は、取りに走った。転校生が不意を突いたのはその後の話である。
昨日くらいからだろうか。その転校生は、俺の隣のクラスに来るって噂されていて、まぁよくあるパターンだけど『転校生って女子らしいぜ』とか『美人かな』とか、無駄に転校生に対してハードルを上げるような話題で盛り上がっていた。俺はというと、ほとんど興味一つ湧かなかった。話題を振られても、『ん……そうだな』って感じに素っ気無い態度だけ貫く。ノるのに気が引けたからだ。
経験者は語る。だいたい転校生っていうのは、俺たち在校生からすれば暇な日常に一時的な花を咲かす大イベントだ。しかし、その転校生が想像と的外れな容姿をしていたらどうなるだろうか。――虐めが起こるのである。俺も高校からではないが、中学生の頃転校してきたから、これは大いに言えることだ。
俺は彼女の容姿を見て内心ホッとした。黒く長い髪に夏らしくセーラー服の似合う足の細い女の子だ。所謂、清楚系女子。顔も悪くないし、虐められる様な性質じゃない。
「もしかして、転校してきた人?」
「ねぇ、学校ってドキドキしませんか?」
「えっ?」
その娘は、急かしているような言い分だった。そういえば、質問を先に投げられているのはこっちの方だった。俺は頭を掻きながら言い直す。
「確かに、転校初日はドキドキするかもな」
「ですよね。転校初日ってドキドキしますよね」
やっと話が噛み合った。転校初日って言葉で頷いているということは、やっぱりこの娘が例の転校生みたいだ。無邪気に顔を赤めながら笑う姿、こうして初対面の俺に話しかけているところからして、素晴らしいコミュニケーション能力があると見て間違いない。彼女は、伸びた髪を後ろにやりながら次の言葉を述べる。
「でも、それ以上に驚いたのは皆さんけっこう気さくなんですよ!」
「いや、転校生相手に気さくな態度をするのは普通だろ……」
「あ……あはは! そうですね! 普通に考えてそうですよね」
今の発言は少々ヒヤッとした。前の学校にいたわけでもない俺が、彼女の意見に口を挟むのはタブーだ。俺は慌てて発言を修正する。
「ま、まぁ……気さくに話しかけてくれない学校もないわけじゃないが、な?」
目を逸らしながら、最後にチラリと機嫌を伺う。彼女は変わらず赤く色染めた顔をしていた。自分から話しかけてきているのだが、緊張しているのだろうか。どちらかといえば、俺の方が緊張している。よく見ればこの娘、近くで拝見しなければわからない可愛さがある。目線を合わせれば、その白い肌に化粧一つしていないことがよくわかった。近づかれると香水の甘い香りに色気を感じて男性的本能が精神をおかしくさせる。
そう、彼女が事実、俺のそばにまで来て目を合わせていた。
「前の学校でも同じことを誰かに言ったんです……」
「えっ……?」
「でも、この学校ではもっとドキドキすることが起こりそうで転校初日からすごく興奮してるんですよ?」
意味深な一言だった。その時、俺はハッと疑問に気づいた。
――この娘の通っていた前の学校って。
先生から聞いた話によれば、『彼女が転校する前に消えた』と言っていた。その言葉を俺は、ただの『閉校した』と発言ミスしたのだと思っていた。
――学校ってドキドキしませんか? 確かに転校初日で緊張したという含みもあるだろう。しかし、彼女は転校なんかよりもっと緊張感溢れる何かを期待しているように見えた。
長く伸びた髪の毛が、俺の前で綺麗に下まで描いたまるで廊下の窓にある柔らかなカーテンのように、その娘が後ろを向いた。
「また、お話できますよね?」
「えっ? あ……あぁ、まぁ……」
「っ! そ、それじゃあ……また」
彼女は、ゆったりとした嵐のように走っていった。最後に汗が出るほど顔を真っ赤にしていたのが気がかりだが、こうして俺は不思議な放課後の出来事から解放された。そして、アッと時間を確認した時には、もうバスケ部の休憩時間は終わってしまっていた。
※後から修正や追加の文章が入る可能性があります。(けっこう高確率で)