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決着とその後

風が上から吹く。

いや、風が平伏ひれふした。

夢は風をまとい、服も髪もなびく。

妖力が爆発し、エンジンのように激しく体を巡っていく。

この状態はエンジンそのものといってもいいだろう。

指定的な妖力の暴走は、正しい手順でギアを回す。

それはただ力を使うのではない。

少ない妖力でも、爆発すれば大きな力になる。

それが、あふれる妖力なかで行われる。


故に暴走。


最も妖怪の力が出るこの状態は正真正銘、夢の最強の奥義。

最も効率的にカードを使うルギィの新技、今が彼の黄金期。

夢とルギィ。

間違いなく、この二人は進化している。

日々の行動は裏切らない。

強くなることを続けるふたりの限界は、まだ見えない。




「俺がお前をブチ抜いてやる。」




「やってみろよクソガキが。」




展開された光り輝く球体スフィア

今度はルギィを核とした。

それは、彼をくうへと誘う。

完全な飛行能力。

だが、それだけではないだろう。


フッ。


夢が視界から消える。

もはや視認できない加速。

それは以前のような無謀な活動ではなく、きわめて理知的な瞬間加速。

その速度は夢の体を地面から開放し、高い建物の間に線ができる。


「覇ああああぁぁぁぁ!!」


加速した夢の攻撃。

暴走での強化は肉体まで影響し、速度もあり絶大な一撃となる。


ガアイイイイィィィィン!!


その一撃は、ルギィの一撃と相殺される。

球体スフィアによる結界は、自身の攻撃のみを通す。

結界の中のルギィは右腕の一撃を繰り出した。

その腕の周りには、円になって囲むカード。

ひじと手首の二ヶ所を囲むカードは、それぞれ攻と防を司った。


「破っ!!」


一回転しての踵落とし。

自在に空を舞うからこその独特の攻撃。

一連の動きは早く、通常では反応しきれない。


ガシッ!!


だが、それは夢には当てはまらない。

妖怪人間はその能力を持つことで、体のつくりが変わる。

月芳ならば、空に対応する心肺と空気抵抗に対する耐性。

真理ならば、自分の電気への耐性。


そして夢ならば、加速した状況でも反応できる反射神経。

神速之暴走アクセルモード」ならば、それはより顕著に出る。


「ちっ!!」


バッ、と互いに距離を取る。

ルギィは空中。

夢は信号機の上。


すうぅ。


互いに言葉はない。

呼吸を読み、自身に合わせる。

読み合いは終わる。

動く時はやってくる。

その時から、目にも止まらぬ攻防が始まるのだ。




side リリー=アトウォーター




「……速い。」


目の前の攻防は見えない。

時折二人がぶつかりあった時に一瞬視認できる程度だ。


今パンチが4、いや5発。それを防いで、ってもうあんなトコに!あれ二人はどこに、いた!もう戦局が変わって、いや戻ってる。今の一撃は強力、もう立ち上がってあそこに、うそ!もう反撃してる。


「ははっ。」


この戦闘に、自分は邪魔でしかない。

参加しても、夢の足を引っ張る。


でも、それで終わりたくない。

ただ守られて満足するような考えは、私にはない。

守られるくらいなら一緒に戦う。


(……でも。)


今はその時じゃない。

チャンスは来る、必ず。

それまでに、私は私ができることをする。




side アリネア=ビグアナイド




(ルギィ……。)


ルギィが戦えるように、サポートするのが私の役目。

回復魔術を得意とする私にとって、サポートできるのは傷の治療や魔力回復。

でも、この状況では行う暇がない。

私なんかじゃ、あの速さの前には無力なんだ。


(……でも。)


何かができないわけじゃない。

だからといって、たとえ相手が敵だとしても、あの技「過回復」だけは使いたくない。

相手を過剰に回復させ、無駄な肥大を巻き起こさせる「過回復」。

それだけで人は死んでしまう。

とても残酷な死に方で。

分かっている。

相手を守ることが、味方を危険にさらしてしまうことを。

だから今、私がやろうとしているのはルギィを助けること。

それだけだったとしても、ルギィは負けないと信じている。

相手も決して無限に動き続けるわけじゃない。

疲れた時が私の出番。

それまでは、私自身の力を貯めておく。


(どんな傷でも、癒してみせる。)


それが、私ができる最高の魔術。




side out




繰り出される技とスフィア。

妖術と魔術は激しくぶつかり合う。

最速の打撃と最高の魔術。

互の力が拮抗し、どちらにも状況は傾かない。

完全な互角。

しかし、それはいつまでも続かない。

いつかは終わるのだ。

勝利か敗北か、引き分けという形で。


「ふっ!!」


ガギンッ!!


夢の攻撃は、ルギィの結界を破れずにいた。


「破ッ!!」


ヒュッ!!


ルギィの攻撃は、夢を捕らえられずにいた。


両者に決定打はない。

それは大技を駆使しても同じこと。


フッ。


ドガガガガドドガガッ!!


夢の最高速。

視認不可の連続打撃。

それは結界にダメージを与えるが、破るには至らない。


「くらえ。」


繰り出すスフィアの数は5。

カードの枚数にして250枚。

いくつもの大魔術が迫るが、夢に追いつくには至らない。


だが徐々に、夢は結界を破りつつあり、ルギィは魔術を迫らせつつあった。


それは緩やかに、しかし速く短い戦闘時間の中ではやや急速に訪れる。


シュッ!!


ガッ!!


巡り巡る戦闘の中で、お互いが自分に攻撃が迫っていることを理解していた。

結界はほぼ限界を迎え、夢も逃げ場が狭まっていることを理解していたのだ。




そして、それはついに訪れた。




「覇あああああぁぁぁぁ!!」


「うらああああぁぁぁぁ!!」




空中で激突する回し蹴りと暗黒波。

回し蹴りはついに結界を破り、暗黒波は夢を少しだけ捉えていた。

結界が破られたルギィは飛行能力を失い。

攻撃を多少受けた夢もまた、地上へと戻っていた。


「そろそろ決着をつけようか。」


「ああ、そうしようじゃないか。」


もう次の攻撃が当たるのは時間の問題。

ならば早めに決着をつける。

ルギィの結界のスフィアはカードの書き込みに時間がかかる。

夢の高速移動も、すでに見切られつつあった。


リリーは夢に対しての防衛魔法の準備を。

アリネアはルギィに対しての回復魔術の準備を整えていた。


1対1は、もうおしまい。

二人の激突の瞬間が介入の合図。




シュッ!!




ガッ!!




夢とルギィ。

二人がダッシュする。

夢は右こぶしに力を込めて。

ルギィは最大のスフィアを引き連れて。


両者の間隔は、5メートルまで迫っていた。






パァン!!






この音は夢の引き起こしたものではない。

ルギィが引き起こしたものでもない。

介入寸前だったリリーやアリネアでもない。

まったくの外部からの音。

その音を引き起こしたもの


ルギィの胸部が血に染まり、銃撃を受けた音だった。




side ラルダ=コフサコフ




やっと結界が解かれた。

なかなか時間がかかりましたね。

まあ通常打撃しかないのでは限界があるんでしょう。

それに、もう私の“仕事”も終幕です。


左手で構えるのは光の筒。

その筒に垂直に存在するいくつもの魔方陣。

狙撃魔術。

これで仕留める準備は整った。




「コブラスナイプ。」




放たれた毒銃は正確に対象の胸部へと着弾する。

さて、次の仕事をしましょうか。




side 新川夢




最後の決着をつけるつもりだった。

そのはずだった。

だけど、誰かの横やりが入った。

目の前で崩れ落ちるルギィ。

ローブに仕込まれた防御術式が、あの男にはあったはずだ。

だが、それが働いた様子はない。

防御を貫いた狙撃が、心臓の位置を血で濡らしていた。




「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




悲鳴を上げ、ルギィに近寄っていく女性。

彼女は倒れたルギィに寄りかかり、両手を光らせて魔術を用意した。

おそらく、彼女がアリネア=ビグアナイド。

ルギィと共に脱獄した、サヴィエトの回復魔術師。

自身の回復魔術でルギィを癒す。

愛しい恋人を、治すために。






パァン!!






ただ、それは叶わなかった。

彼女もまた、狙撃を受けた。

そのこめかみから、血を流しながら。


彼女も崩れ落ちる。

ルギィに覆いかぶさるように。

彼を、抱きしめるように。




side リリー=アトウォーター




「っ。」


倒れた二人に近寄る。

狙撃の対策は立てた。

即席だけど、一発でやられることはない。

とにかくは、この二人を生かす。

生かしてとらえること、それが、アルファ隊の信念。


「!?」


生きてる。

この二人、生きている。

ルギィは胸部の出血がひどい。

それだけじゃなくて、傷口が“汚染”されている。

おそらくは、魔術による毒。

ただ当てるんじゃなく、当てた後も確実に対象を仕留めるための魔術。

でも、その汚染源は既にない。

あの短い時間の中で、アリネアが癒したんだ。

傷は間に合わなかったけど、毒は消した。

そのアリネアは、頭部から出血してるけど傷は非常に浅い。

毒も防御され、傷もかなり軽減されている。

おそらくは、ルギィの防御術式。

あの刹那の中、自分の傷も無視して彼女に防御陣を張った。

それでも、完全には防げていない。

頭部の衝撃そのものに関しては、ほとんど軽減できなかったらしい。

何かしらの後遺症が出てもおかしくない。


だけど、生きてた。

二人とも無事ではないけど、互いが互いを守ったんだ。

世界で一番強い、絆の力で。




「リリー。」


話しかけてきた夢。

荘厳な風格の夢は少し違和感があったけど、それでも私の知ってる夢だと思った。


「二人を頼んでいいか?」


夢はブレない。

これからすることも、私には予想がついた。


「わかったわ。……夢!!」


「何?」


治療ができるのは私の方。

なら、速度も早い夢が襲撃者アンノーンを追うのは適役。


「しっかりやりなさいよ。」


「ああ、任された。」


シュバッ!!


走っていく夢はどこかカッコいい。

今、夢にしてあげられることはほとんどないから。

応援ぐらいは、しようと思う。


「頼りにしてるわよ。」




side out




狙撃手はビルの上。

角度から見ても、それは間違いない。

ただ、その狙撃手も移動している。

あくまで、彼が狙ったのはルギィとアリネア。

夢とリリーは眼中にない。

ゆえに、その場にいる意味はもうない。

ただ、それは夢の速度からは逃れられない。

神速之暴走アクセルモード」で追いつけない相手など、いないのだから。




「お前か。」




追いついたビルの上。

次々と飛び移っていたその様は魔術師の所業。

それを行っていた青年の姿。

まるで心が病んでいるかのような風貌。

目の下にできたクマはその様子を引き立てる。

狙撃手のはずだが、その手に銃はない。

服はカジュアルなものだが、戦場から帰還したかのようにボロボロだ。


「なんのことでしょう?私は通りすがりのパルクーリストです。日本のビルはなかなか跳び甲斐がありますね。」


「……しらばっくれるつもりか。」


「だからなんのことだかわかりませんよ。いきなり貴方が現れたものですから。」


のれんに腕押し、ぬかに釘。

会話はのらりくらりと逃げてしまう。

だが、この男が魔術師であることは間違いない。




「もういいよ。……実力行使するから。」




ヒュッ。


加速して背後から攻撃する。

狙うは下段の膝への蹴り。

神経にうまく衝撃を与えれば一時的に行動不能となる一撃。




「っ!?」




ダッ!!と、その場から逃げる。

ラルダのことではない。

“攻撃寸前だった夢がその場から回避したのである”。




「おやおや。なかなか勘のいい少年ですね。」


「てめぇ、その言葉使いもわざとか。」


「いえいえ、この言葉使いは素ですよ。まあ利用して“罠”はよく仕掛けますがね。」


さっきまで夢のいたラルダの背後。

そのコンクリートの床には銃撃の跡。

真上から放たれた銃弾の痕跡。

ラルダ=コフサコフ。

彼は真っすぐだけではなく、数段階に分けて方向転換する銃撃を放てるのである。


「その銃で、二人をやったのか……。」


ラルダの左手には、魔力で構成されたライフルが出来ていた。

自身の魔力で作るため、普段は手ぶら。

まさに暗殺者向きの魔術である。


「おや、貴方はかなりアルセラー氏を敵視していたはずだと思いましたが。」


「俺のことは俺のことだ。だが二人を知っているということはお前、サヴィエトだろ。なんで仲間である二人を撃った?」


「指令だからですよ。ただ上の命令があっただけです。『敗北者、ルギィ=アルセラーと裏切り者、アリネア=ビグアナイドを殺害せよ』とね。」


「……お前らの上はそんなんなのか。」


「はい?」


「てめぇらのトップは仲間をあっさり殺すようなやつらなのか!?」


「ええ、そうです。いらないものは切り捨てる。よそに行かれても困るので殺します。」


「……お前はそんな組織に忠誠を持てるのか?」


「ええ、私がいらなくなることはありませんので。もういいですか、せっかく見逃そうとしたのに追って来たあなたが悪いんですよ。私は指令外の行動はあまり好きじゃないんですよ。」


ライフルを構えるラルダ。

対象は夢。

目的は殺害。

理由は追手の排除のため。


「では、さようなら。」




パァン。




有無を言わさない早撃ち。

銃に重さを持たない魔術だからこその芸当。




「確かに、俺はあの野郎は好きじゃない。」




だが、それは夢には通じない。

速さをつかさどる夢にとって、弾丸の速さは問題にならない。

速さに特化した弾丸を、素手で弾き飛ばせるほどに。




「それ以上に、俺はお前を許せない!!」




戦闘が開始される。

長く続くことはないだろう。

一撃で殺す暗殺者と、神速を持つ妖怪の戦いなのだから。






ヒュッ。


夢の姿が消える。

銃を相手にするならば、狙われるわけにはいかない。

狙われても、銃撃そのものは見切ることはできる。

が、先ほどの毒銃のように触れるだけでもアウトになる攻撃もある。

また軌道が変わる銃撃は、見えない位置からの攻撃も可能にする。

見えなければ反応できない。

ゆえに、周りの認識は重要だ。

そう、それは――――。


「くっ!!」


設置された毒ワイヤーにかからないためにも。


「さあ、どうです。この中でも動き回れますか?」


「なめんな!!」


視認が難しい罠の中。

それでも、狙われることを防ぐのは変わらない。

動きづらいのはあちらも同じ。

たとえ設置場所を熟知していても、動けない場所があることには変わらない。


そのはずなのである。


フッ!!と、夢の攻撃を回避した。

設置したはずの、毒ワイヤーをすり抜けて。


「!?」


「フフフ、おどきましたか?このワイヤーも、私の魔力で作ったものですから。こんなことも、出来るんですよ!!」


『ポイズンスラッシュ』

その技は、両手のライフルから放たれた。

同時に放たれた銃弾の間に、ワイヤーが引かれている。

それを、夢は躱す。

その後方で、アンテナが切り裂かれた。

その切り口を、毒で溶かしながら。


「速射の弾丸と、毒のワイヤーの組み合わせです。次は電流にしますか?それとも有刺鉄線にしましょうか?」


まあ、どうせなら両方やってみましょうか。

その言葉を合図に、次弾が放たれた。

電流の流れた有刺鉄線のワイヤーが。


「遅っせぇ!!」


その速度は、夢に追いつくには至らない。

だが夢が近づけば、ワイヤーが設置される。

さらに、「神速之暴走アクセルモード」も限界が近い。

限界リミットは、もう2分となくなっていた。


「さあ、終わりますよ!!」


逃げ場がない。

的確に設置されたワイヤーは、夢を逃さないようにできていた。

唯一、残された空間が残っている。


「『ポイズンスラッシュ』!!」


が、その逃げ道は、発射されたワイヤーで塞がれてしまった。

詰み、終了、チェックメイト。

そんな言葉が見えてくる状況。


ダッ!!


それでも、夢はあきらめない。

夢はラルダへと迫る。

そのままでは、ワイヤーに切り裂かれてしまうというのに。

夢は、信じていたから。




スパァン!!




切り裂かれたワイヤー。

それをやった張本人が、ビルの上に立っていた。

長く伸びた紫の髪。

その先端を結んだストレートヘアー。

アルファ隊のメンバー、リリー=アトウォーターによる斬撃魔法である。


「夢!!今よ!!」


「ありがとよ!!」


開かれた道の先に、倒すべき敵がいる。


「くっそがああああぁぁぁぁぁぁ!!」


ラルダの表情が崩れる。

あるいはその激情こそが本性か。


どちらにしろ、これで彼の敗北は決定したのだ。






ドンッ!!






神速の妖怪が放つ、右の拳によって。




side 新川夢




「終わった……。」


突如現れた乱入者との決着はついた。

リリーがここにいるということは、あっちの二人のケリは付いたんだろう。


「リ――。」




「があああああああぁぁぁぁぁぁ!!」




!?

突然起き上がったあの男。

まだ意識があったのかと思った。

いや、違う。

意識がないままで襲いかかろうとしている。


俺ではなく、リリーに。




「えっ。」




キョトンとするリリーの顔。

完全に無防備な体勢で、ラルダの襲撃には対応できていない。

そしてこの距離は、いかに「神速之暴走アクセルモード」でも追いつくことはできない。


最悪、死ぬかもしれない。

リリーが、俺の目の前で。






ドクン。






「えっ?」




気がついたら、俺はリリーの前にいた。

その表情は、さっきみていたのとほぼ変わりない。

すぐに、それは驚愕のものへと移ったが。


「夢、……今、何したの?」


リリーが見ている先は、俺の後ろ。

そこにいたのは、仰向けになって倒れているサヴィエトの男。

外傷はない。

ただ、倒れているだけ。

完全に気絶していて、起き上がる様子はもうない。


「……多分だけど。」


「うん。」




「俺が転ばしたんだと思う」


「ころばした?」


「うむ。」


「……………………プッ。」


「っておい!?笑うんじゃねぇ!!」


「だって、ころばし、たとか、クククッ。あはは!!」


「笑うなコンチクショー!!」




まあこんな感じで。

今回の事件は集結を迎えたわけだ。

でも、これは大きな事件の中のひとつの出来事でしかない。

まだまだ、大きな事件は続いているのだ。

まあ、今回でそんなシリアスな場面はおしまいになるわけだ。

また、別で語られることもあるだろう。

だから次は、一気に面白おかしくいこうか。

俺にシリアスなんて、合ってると思えないしな。




side ルギィ=アルセラー




目が覚める。

意識が徐々にはっきりしていき、この場所を認知する。

どうやら、オレはまたアルファ隊に捕まったらしい。

ここは、囚人用の入院施設というところか。

窓の鉄格子が、それを嫌でも知らせてくる。


「気がついたようね。」


「あぁ?」


そこにいたのはアルファ隊のクソガキその一。

以前にった奴だ。

リリー=アトウォーターとか言ったな。


「で?」


「なによ。」


「俺たちゃどうなる?もう俺の居場所はサヴィエトにはない。そんくらいのことは分かっているつもりだ。」


ラルダの野郎が俺たちを撃った意味は簡単に想像できる。

もはや、手柄でどうこうなる問題でもない。

ラルダが、撃った――――。


「アリネア!?」


あいつは、アリネアはどうなった!・

守ったつもりだが、ちゃんと生きているのか!?


「落ち着きなさい。あの女性なら生きてるわ。」


「……そうか。」


生きてたか。

そう安心した。

だが、現実は時に残酷だ。




「視神経をやられて目は失明してしまったけど、ね。」




「………………っ。(ギリッ)」


口から血が出る。

だが、俺はそんな事は気にしていられない。

アリネアは光を失った。

もう、オレを見てくれることが、ない。




「安心しなさい。あの女性には義眼を用意してあるわ。」


「っ!?」


義眼。

魔術で作られたものならば、つけているものに光を与えることもできる代物。

それを、アルファ隊が用意したと言った。


「義眼だけじゃない。毒にやられたアンタにも人工心臓を付けてあるわ。」


「は。」


ハハハハハハハハハハッ!!

おいおいどういう状況だよ!!

人工心臓!?オレに!?

毒に侵されて心臓が役立たずになったってか!?

わかんねぇ。

わかんねぇよ!!

アルファ隊を殺し回ったオレに、こんなことをする意味がわかんねぇ!!


「もちろん、アンタには償ってもらうわ。」


「ハッ。何をさせてぇ?」


「今私たちは人材不足なの。この戦争の中でね。」


「なんだ?だからオレを働かせようってか?オレの命とアリネアの目を人質に。」


「あら、わかってるじゃない。怪我が治ったらしっかり働いてもらうわよ。」


「けっ、どうせ回復魔術ですぐ治るんだろうが。」


「ま、そういう事なんだけど。じゃあ、私はもう行くわ。ああ、それともう一つ。」




あのひとに感謝しなさいよ。




そう言って、あのアルファ隊は退室した。

その入れ替わりに、ある女性が入ってきた。

俺が最も望んだ、その女性が。


「ルギィ!!」


直ぐにオレに抱きついてくる。

はは、あったけぇな。

なんとなく、未来に期待したオレがいる。

その中に、アリネアとなぜかあのジジィ共も浮かんできた。

それは、オレの知らない優しい風景だった。

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