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再戦

side ルギィ=アルセラー




如月と名乗る夫婦の家に邪魔しての翌日。

アリネアは目を覚まし、食べている様子から大事には至らないらしい。

ここのジジババとも親しげに話すあたり、やはりアリネアは優しい奴だと思う。

対して、オレと邦康くにやすとやらは割と火花を散らしていた。

流石に魔術はこの場では使わない。

アリネアの前というのもあるが、恩人こいつらに手を出すことは俺の誇りに反する。

だが、肉体での実力行使ケンカは抑えられなかったところもある。

まあ、そうなった結果が。


「ぐおおおおおぉぉぉぉ。」


「かっかっかっ!肉体労働者を甘く見るなよ。」


「この……老いぼれがァ……。」


「はっ、ナマ言うな若造。」


口喧嘩からの肉体言語。

ここに来て一日でこれがオレたちのパターンとなった。

喧嘩はするがこのジジィは勝利もあるのか上機嫌。

ここのババァは含み笑いで「あらあら。」とか言ってやがる。

アリネアに関してはこの状況だと大概は苦笑い。

今回のケンカは何が原因だったのかというと。


「ワシに体力で勝とうなど十年早いわ。」


「くそっ、このジジィほんとに老いぼれか?」


今回は自身の体力自慢。

いくらこのジジィが肉体労働をしていようとも、一般人のジジィ相手にサヴィエトで肉体を鍛えていた魔術師オレが負けるとは思っていなかった。


「ケンカ慣れはしているようだがまだまだ。一日の大半を肉体の酷使に使い、現場のケンカに慣れたワシには敵わんようじゃな。」


「ちっ。」


確かに、オレは一日の大半を肉体のトレーニングに使っているわけじゃない。

魔術の訓練や下積み。

任務もあれば、戦闘では魔術のサポートはまず使う。

純粋に肉体のみを使ったケンカにまでは慣れていなかったらしい。

だが、この年齢でこれだけの体力。

正直、このジジィの年齢に疑問が出るぜ。


「そろそろお昼ご飯ですよ。」


台所へと向かうババァはまっすぐに鍋へと向かう。

もう煮込みは終わったらしい。


「お、もうそんな時間か。ほれ、とっとと飯にするぞ。」


「けっ、食い終わったら覚悟しろよ。」


「はっ、上等。」


そのまま食卓へと向かう。

一日でこの順応。

正直どこかむず痒い。

オレにこの空気は合わないなと思う。

ジジィはケンカ腰だが嫌いではない。

ババァもなんやかんやで悪くはない。

何より、アリネアがよく笑うようになった。

しばらく見を隠すだけの場。

目処が立てばオレたちはここから立ち去る。


(まあ、その時はその時か。)


ケンカ腰はサヴィエトでも日常茶飯事。

だが、あの場所と居心地が似て非なる。

同じだと思う点は、悪くはないというところだろう。

結局、オレたちはここに数日間留まることになる。

その期間、ゆっくり休んだにしては、あまりにも早く感じる数日間となった。




side アリネア=ビグアナイド




「お昼ごはん、美味しかったです。」


「そうかいそうかい。アリネアちゃんも元気になってよかったよ。」


「いえ、きっと洋子さんのお食事のおかげですよ。」


「うれしいねぇ。でもね、もうよそよそしい話し方も変えて欲しいと思うのよ。もっと、くだけた話し方でいいんだよ。」


「えっ、えーっと。…………おばさま?」


「あら。まあまあ、まさか私がおばさまなんて呼ばれるとはね。」


「……気に入らなかったですか?」


「そうじゃないよ。それがアリネアちゃんの話しやすい呼び方なら、私は何も言わないよ。ただね、おばさまなんて上品な呼び方を自分がされるなんて思ってなかった。それだけだよ。」


「素敵なおばさまだと思いますよ。」


「ありがとうね、アリネアちゃん。」


何気ない会話。

洋子さん、――いえ、おばさまもまるで娘に話すような親しみ。

家族のように居心地がいい。

サヴィエトの仲間とは違った空気。

どちらも好きで、比べることはできない。

ルギィもケンカばかりだけど、本気で嫌がっている様子でもない。

「まあ、悪くはねぇな。」程度には思っているかもしれない。


(だったらいいな……)


正直、ルギィに引け目を感じることもある。

私を大切に守ってくれているんだとも思う。

でも、本来私に来る傷までルギィが肩代わりしてしまう。

戦いや、命令。――――そして殺し。

私たちは、サヴィエトに依存している。

あの場でなければ生きていけなかった。

彼らを敵に回せば生きていけないから。

でも、ルギィはきっと、私以上にサヴィエトに依存している。

私は正直、忠誠心はそこまで持っていない。

けどルギィは違う。

その忠誠心は計り知れない。――――狂気的なまでに。


(もっと、見てほしい。)


サヴィエトの外の事。

サヴィエトの外の人。

サヴィエトではない世界を好きになってもらいたい。


「そうそうアリネアちゃん。お夕飯の買い物、付き合ってくれるかい?」


「はい、もちろんです。」


まずはここを、如月夫妻の事を、好きになってくれればいいと思う。


「じゃあ支度してきますね。」


私にあてがわれた部屋へ向かう。

夫妻で暮らすにしてはやや広い家。

もともとは子供がいて、今は自立したのかもしれない。


「あらあら、お買い物はもうちょっと先よ。」


「じゃあ、少し早めましょうよ。」


「ふふふ。せっかちねぇ、アリネアちゃんは。」


二階に上がり、部屋への扉を開ける。

夕飯のお手伝いもしようかなと考えていた。


「あれ?」


開いた部屋は暗い。

電気が切れているから当たり前なんだけど。

どうやら部屋を間違えたらしい。

でも、何か空気が暗い。

埃もたまっているみたい。

何年も何年も、時が止まったかのような部屋。


「………………。」


おばさまは先ほどとは打って変わって暗い顔。

違う、悲しい顔なんだ。


「……おばさま。この部屋は……。」


「……そうだね。話したほうがいいわ。」


二人で部屋に入る。

おばさまは懐かしげに、悲しげに部屋の物を見る、見入る。

手で触れる。埃がつくのを気にする様子もなく。


「私たちにはね、もともと息子と義娘むすめがいたのさ。」


「そう、ですか。」


それは何となくわかっていた。

この家は、二人暮らしをするには大きい。

“四人暮らし”ならばちょうどいいくらいの家だろうから。


「アリネアちゃんやルギィくんと同じくらいの年でね。兄だった息子はあの人とケンカばかり。娘はそれを見てまたかと苦笑していたわ。」


「なんか、今の状況みたいですね。」


「そうだね。だから二人の事を、投影したんだと思うわ。」


先ほどからの口調と、投影という言葉。

この部屋と空気で、大体の状況は読める。

そして何より、――――“いた”という言葉、過去形。


「二人が亡くなったのは2年前。交通事故でね、交差点の信号がすべて青になったトラブルでトラックに轢かれたのさ。」


「………………。」


「トラックの運転手はやせ細った体で土下座してきてね。許しはしないけれど憎みもしなかったわ。……それで、このつらさをどこに向ければいいのか分からなくなった。私はね、このつらさを閉じ込めることしかできなかった。」


「閉じ込めた、……ですか。」


「忘れようとした、のかもしれないわね。でも、そんなことはできなかった。二人の幸せを目の前に、いなくなったことを忘れるなんて、ね。」


「二人の、幸せ?」




side ルギィ=アルセラー




「二人はな、義兄妹でありながら恋人だった。」


「………………。」


何気なく家を歩き、見つけて入った部屋は時が止まった空間。

そこの部屋の元の主はもういない。

ギター、机、本棚、そのすべてに埃がたまっている。

やってきたジジィは、その内容を話す。

どこか俺たちに似た、二人の話し。


「そのことを話してきた時はな、そりゃあもう大ゲンカになった。ワシもあのときばかりは手加減ができなかったな。それでも、あのバカ息子は諦めなかった。ワシはあいつの心を折ることができなかった。」


その気持ちはわかる。

オレがアリネアを思う気持ちは、誰にも折られない。

強く、そう思っている。

誰かを守るとき、人は強くなる。

心を貫くために、体は反応して。


「結局、折れたのはワシだった。1ヶ月のケンカは、初めてワシが負けるケンカにもなった。あのバカ息子なら、義娘むすめを守れるだろうとも、思ったわけだ。」


「……で、その矢先に事故か。」


「ああ、あの時ほど心が沈んだ時期はない。子に先立たれるのは、最大の親不孝。その言葉を、実感したよ。」


「………………。」


ジジィの子と、オレたち二人。

どこまでも似ている。

オレたちは、共に育った。

ほとんど兄妹といってもおかしくはないだろう。

ここにきて数日、ジジィとはケンカばかりで、アリネアはそれを見守る。

そして、オレたち二人は恋人同士だ。


「ワシはな、お前さんたちとあの子たちを重ねている節がある。それだからか、やっぱり二人とは違うと思ったよ。それでもワシは――――お前さんたちといる今が、とても楽しい。」


「………………。」


結局、オレたちを息子と義娘むすめの代わりにしてただけじゃねぇか。

そのことが頭に浮かんだが、言葉に出すことはしない、できない。

オレには言う資格があるだろうが、言うことはできない。


(ああ、そうか。)


これが親なんだと、何となく思った。

サヴィエトにはいなかった、親という存在が。


「さて、ワシの辛気臭い話しはこれで終わり。……この部屋も、時期に片付けるか。」


いつまでも過去を見続けていても意味はない。

振り返るのではなく、過去の執着する。

そんなことしていても、何も生まないから。


「…………けっ。勝手にしんみりしてんじゃねぇ。」


「……そうだな。――――ワシぁお前さんよりも長生きしてやるわい。」


「言ってろ老いぼれ。オレのがジジィなんかより長生きしてやるよ。」




side アリネア=ビグアナイド




「あらあら、なんだか騒がしくなってきましたね。」


「おじさまとルギィ、またですね。」


ケンカばかりの二人だけど、たぶんそのケンカが楽しいんだと思う。

サヴィエトでのケンカみたいに。

ケンカしても、離れない所とか。


「さて、大きくなる前に止めに行きましょうか?」


「そうですね。」


買い物の前にやることが一つ増えたかな。

そう思っていた。

ここでの短い生活が、あまりにも心地よかった。

でも、私たちはここには長く居られない。

そのことを、私は翌日に自覚することになる。




翌日 如月家

side ルギィ=アルセラー




『唐突だが私は大統領の座を追われ、ロシアは革命勢力の手に陥ちました』


翌日の臨時ニュースを、オレたち4人は見入っていた。

ロシア陥落を伝える大々的なサヴィエトの報道。

サヴィエトの大きな成果の発表であり、世界への宣戦布告。


(……そろそろ潮時か。)


この報道がされた以上、もうここには立ち去るべきだろう。

犯罪者の開放。

時期に一般人への対策も取られる。

オレたちが一般人に混ざってしまえば、見つかりにくくはなるだろうが行動が制限される。

オレたちの目的はあくまでサヴィエトへの帰還。


「……行くか、アリネア。」


「……うん。」


この会話だけで、オレたちの方針を決めるのには十分だった。

オレたちはこの家をあとにし、手柄を探しながらサヴィエトへと帰還する。


「……そうか、行くのか。」


「寂しくなりますね。」


「大丈夫ですよ。きっと、また会えますから。」


「………………。」


アリネアにも、それが難しいことは分かっている。

オレたちはこいつらの敵になる。

もし会えても、その時は敵同士。

それでも、アリネアはこう言いたかったんだろう。




数時間後




もう時間だろう。

こいつらにも避難勧告が出ている。

既に近隣の施設への避難は行われている。

市内でも事件が多発しているところを見れば、この二人は後発組だ。


「二人共、元気でね。」


「おじさまとおばさまもどうぞご無事で。」


「アリネアちゃんとルギィくんもね。」


「はい。」


「アリネアちゃん、気をつけてな。」


「ありがとうございます、おじさま。」


アリネアの挨拶は済んだ。

俺は挨拶する気など元よりない。

もういいだろう。


「…………けっ。」


スタスタと歩き出す。

アリネアも二人を見て、困った顔を浮かべながら付いてくる。

オレとあのふたりを交互に見ながら。




「…………おい、老いぼれども。」




ここで別れるのは別段オレには堪えない。

オレにとって、サヴィエト以外の人間なんざどうでもいい。

だが、あくまでオレはあいつらを恩人として見てきた。

ここで礼儀を欠くことは、オレの誇りに反する。

ただ、それだけだ。




「勝手に死ぬんじゃねぇぞ。そん時はオレが殺してやる。」




それだけを告げ、返答も聞かずに前へ進む。

後ろのアリネアが、「もう、しょうがないなぁ……。」と小声で言ってたことに気づかず。


オレたちは、この如月家をあとにした。






あの家を離れてしばらく、オレたちは路地裏を通っていた。

手には白紙のカード。

このカモフラージュの古着ももう代える。

収納用のカードから、保管されていたオレたちの元の服が現れる。

カードの効果で、着替える手間はかからない。

オレたちは元の服装へ変わっていく。

一般人から魔術師へ。

俺は元のローブの姿へと。

魔術師ルギィ=アルセラーへと戻っていた。




side 新川夢




月芳と別れ、戻ってきた日本はどこもかしこも騒がしい。

大魔王フランメによる報道で、犯罪が暴発したことが原因だ。


「ハッ。」


人の少ない街中を疾走していく。

ここまで人が少ないならば、ある程度の能力チカラの使用もできる。

最小限の使用でギリギリ人が見ても違和感のないくらいで加速する。

送ってもらったアルファ隊の人の話を思い出しながら。




回想開始




「初芝高校への襲撃!?」


「ええ、リリーはそこへ魔術師の回収をしに行ったわ。既にそこの生徒さんに取り押さえられたらしいわ。もともとあの学校は重要人物の多い学校だからね。」


「……圭介の学校、どういう奴らの集まりなんだ……。」


「とにかく、リリーがいるのはその付近。もう魔術師の回収は住んでいるからこの古宇坂市内のどこかにはいるわ。探索も意味はないかも。移動しているみたいだから、見つけてもそこに行く前にその場から離れてしまう。」


「ありがとう。それだけ分かれば十分だ。」


「って、それだけでいいの!?」


「俺にとって、古宇坂市内は」


「?」


「十分あれば余裕だよ。」




回想終了




ここは古宇坂でも背の高い建物が並ぶ。

周りは人気がない。

避難勧告もあるから当然かと予想する。

あるいは『人よけ』でもされているのか。


「ハッ!!」


ダシュッ!!


一瞬の加速。

付近の人がいないことを見越しての能力使用。

こと能力を発揮すれば十分で古宇坂市の探索は終わる。

巡り巡る景色。その中でも目標の捜索は欠かさない。


「おっ、リリー発見。」


「って、夢!?アンタどこ行ってたのよ!?」


あっけない再会。

リリーも移動していたが、俺の速度ならば十分追いつけた。

あと、俺がどこへ行ってたのか聴くならば、答えてみようか。


「リリーを追って北はロシア、南は古宇坂まで。」


「バッカじゃないの!?何のために黙って行ったと思ってるのよ!?」


「俺を巻き込まないため。嘘が付けないから話すとバレてしまうと思ったから。」


「分かってるなら何で追いかけてくるのよ!?」


「一緒に戦うため。」


「…………はぁ。そうよね、夢はそういう人だもんね。」


「褒めても何も出ないぞ。」


「半分は呆れてるんだけど。」


「半分は褒めてくれてるんだな。」


「四分の一はバカにしてるわ。」


「あれ、褒めるのは四分の一?いやでも四分の一あるなら――――」


「四捨五入すればゼロよ。」


「俺への賛辞が四捨五入なかったことにされた!?」


あれ~?なんか感動の再会でもない。

もうちょっと何かあると期待していたんだけどな~。


「はぁ、調子が狂うわね。」


「いいんじゃない?俺っぽくてさ。」


「……クスッ。それもいいかもね。」


「ああ。……ははっ。」


俺たちの表情が砕ける。

この時初めて、俺たちは再会した。






「で、アルファ隊の人たちに古宇坂まで送ってもらって、古宇坂を探し回って今に至るわけだ。」


「……夢、ロシアでなにやってんのよ?」


「基本は撃退戦だったな。魔術師や魔族との。」


「わかったわ。ええ、夢が割と一般から外れていることを今更自覚したわ。」


「ま、俺はそんな感じだな。……リリーの方はアルファ隊の人から聞いている。」


「わかっているなら話は早いわ。そのために、今やれることはやるつもりよ。古宇坂ここでね。」


「……そうだな。」


日本、いや、世界は荒れている。

明らかな巨悪の登場で。




ただ、俺は今、“巨悪より見知ったてきを見つけてしまった”らしい。




「夢……?っ!?」


俺たちの間に緊張が走る。

人も車もない大通り。

路地裏から現れた殺気。

人の声が遠く感じるこの空間で。




「また会ったな、クソガキ共。」




俺たちは再び、ローブの魔術師ルギィ=アルセラーと遭遇した。

その後ろで、様子を見守る女性とともに。




side out




「今度は今まで通りにいかないぜ。」


開戦の合図はない。

強いて言うならこの言葉がそれになる。


バラララララッ。


カードが舞う。

何も書かれていない白紙のカードがローブから出されていく。


いや、違う。


ローブからも出ているが、多くのカードが“カードの中から出てきている”。

収納系のカードを使用してカードを出す。

ただ、ルギィの行う魔術はこれで止まらなかった。


フワッ、と浮くカードたち。その数はおよそ300以上。

規則正しく並ばれて、一枚のカードを中心とした円がいくつか出来ていく。

その円と円が重なり、二つの円による球体スフィアが形作られる。

物体浮遊のカードを利用した、新たなカードの布陣。

ルギィ=アルセラーの新たな戦闘形式スタイル


魔術記録球体アルマメントスフィアである。


常に浮遊させることで、より速攻性を高めた布陣。

それによるカードの破壊のリスクも、カード自体が攻防することで回避する。

球体や円による陣形で、新たな相乗効果で力を高める。

そして何より、カードによるカードへの“外部魔力供給”が行える。

そうなれば、ルギィのカード同時使用枚数の限界は超える。


「はっ!!」


球体からカードが発射される。

そのカードは真っ直ぐに夢とリリーへ襲いかかる。


「遅っせぇっ!!」


加速妖術の夢と、強化魔法のリリー。

その二人にとって、バカ正直に突っ込んでくるだけのカードは恐れるに値しない。

もちろん、これはルギィにとっては挨拶がわりも同然である。


バシュッ!!


「「!?」」


カードが行った急な方向転換。

それは確実に半数が夢、もう半分がリリーへと迫っていた。

方向転換しないのは、その場で止まった一枚のカード。

いくつかのカードの中に、移動や浮遊を行うカードを織り交ぜる。

そうなれば、何段階でも方向を変え、対象を追尾する。


カッ!!


ドオオオオオォォォン!!


ビシャシャシャシャッ!!


夢に向かったカードは爆発。

リリーに向かったカードはやいばのつぶて。

それぞれが十分な殺傷能力を持ったカード群。


だが、それがふたりを傷つけることはない。


夢にとってこの爆発は余裕で回避でき、やいばのつぶては、強化したリリーの服さえ切れはしない。


「……リリー、少しだけあいつを抑えててくれ。」


「何をする気?」




「“本気”を出す。」




「わかった、とっととしなさいよ。」


「了解。」


夢が取り出すのはペットボトル。

「水」という形をとる、妖力を含んだ液体。

かの魔族を圧倒した夢の最強の形態。


「やれるもんならやってみろ!!」


次に二人に迫るのは球体スフィアそのもの。

その球体スフィアを核にして、業火の龍が造られる。


「はあっ!!」


ダブルセイバーを振るう。

それにより、切った空間から防御魔法が展開される。

リリーの最も得意とする耐久力の強化。

そのなかでも耐火性に特化したバリアが作られた。


ゴオオオオオォォォォォ!!


「くっ!!」


だが、リリーは苦戦していた。

何日も体力や魔力を消費して、戦いに備えるために日本へ戻った身体。

そんな状態で、この強力な魔術を防ぎきれそうにもない。


(それでいい。それでもいい。)


リリーは初めから、自分ひとりで倒せるとは思っていない。

疲弊した自分がこの魔術師相手に勝てるわけがない。

だから、初めから託していた。

この戦いの鍵を、親友の少年へと。






妖怪人間は多量の妖力を摂取したとき。

あるいは感情が高ぶりコントロールできなくなった時に暴走状態へと至る。

妖力の出力が大きく上がり、普段の何倍もの力を扱える。

が、そのかわり一時的に自我を無くしてしまう。

だがもし、“暴走状態のまま自我を保てたら”。

その答えがこの状態。

絶妙な妖力摂取のバランスにより行える新川一族の奥義。

それは自分で名付けるため、人によって名前を変える。


新川源樹の「鬼神之暴走イモータルモード


新川真理の「雷神之暴走スパークモード


新川月芳の「神鳥之暴走カンナギモード


そして夢もまた、この状態に名前をつけた。

自身を高める。そのために。






「『神速之暴走アクセルモード』」







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