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第9回(女神様は彼と遊ぶ・その9)

「さっきからなんで後ろに倒れずに済んでたか、風ちゃん気付いてなかった?」

 女神様が言うことも、風ちゃんには聞こえていないように思えます。それくらい風ちゃんは今振り返って見付けたものを凝視しています。ん、まぁ。振り返った風ちゃんの目と鼻の先には、床があったのでした。風ちゃんは今床に尻をついて座り、上体は確かに床に対しほぼ垂直に維持しているはずなのですが、それでも目前には断固として床があるのです。床の一部がこちらもほぼ垂直におっ立っているのでした、不要品整理のため押し入れから出され、そこに積み上げられていた品々を相も変わらずその“上”に置いたまま。なにやら重力までが、立ち上がった床に律儀に従って寝転んだみたいですネ。さっき風ちゃんがふぅっと後ろへ倒れかけた時、更に追い打ちで顎の先に女神様の踵を喰らった時も、大の字にのびてしまわなかったのはこれに背を支えられていたからだったのです。もっとも、そのせいで逃げ場がなくなって、女神様の踵がいわゆる串刺し式に効果を増してしまったことも、まあ争えない事実なんだけどね。

「な」

 それ以上は言葉にならないらしい風ちゃんは益々おっ立った床を凝視しますが、その時それがかくっと少し、本来の状態に戻る方へ傾きます。風ちゃんが急に背の支えを外されたみたくなったのはきっとこの動きだね。座椅子の背もたれの角度調節機構が不意に壊れたみたいな。でも今は、なんだか風ちゃんに見詰められるのを恥じらったみたいな気配がこう、同じ心情を知る者として共感されたんだけど?

「もう元に戻して大丈夫だよ。巻き・取り/戻しのメル変っ子たち、エレちゃんのお願い聞いてくれてありがとう」

 女神様がそう声をかけると、こんどはするするするっと、滑らかに速やかに床は寝て元の有様へ戻っていきます。おっ立っていた部分がすっかり風ちゃん自室の床面全体と一体になり、いや、一体になろうとする寸前に、おっ立っていた部分と正常だった部分との境目とも言える辺りから、突如空間が泡を吹いたみたいに、むくむくぼろぼろっと何かが湧き立って転がり出てきました。何奴。一見した姿を喩えて言うなら糸巻きですかネ。長さが10センチ無いくらい、直径は3センチくらいかな。側面には全体にわたって短い棘みたいなのがまばらに生えてます。色は黒っぽくて数はざっと1ダースほど。これらがただの糸巻きでないことは、全身にぷるんとした弾力が満ちていて、なにやらぶつぶつ言いながらぴょんぴょん跳ね回り、明らかに風ちゃんに懐いて纏わり付こうとしていることからも明らかです。分かりました、エネミーです。風ちゃんとあたしたちの乳繰りライフを邪魔せんとする第3極がこの場に現れたとゆー訳なのですね。ふふ。ふはは。よござんす。しかしここで事を荒立てる必要は全くございません、風ちゃん自らにその正直な所を語ってもらうだけで充分です。つまりあなたはその愛を、有機質に依拠するもしないもひっくるめ何処へずぎゅーんと、う、打ち込まれるおつもりなのですか。狙いはぴたり私たちに定まっていると信じております。ささ、告白を。さすれば世はなべて事も無し、家内円満子孫繁栄。

「おう、君はミネルバ! 君は遠き宇宙に。ならば何故、このような場所で巡り会えたのだ…!」

 あっれー、風ちゃんな・ぜ・か棘付き糸巻きを掻き抱かんばかりにしてますよー。しかも涙で頬をしとどに濡らしてー。

「あーなるほどねー。でもそれ弾み車で跳ねてる訳じゃないから。メル変っ子だから」

 形も大きさもちょっとずつ違うしね。

「ええそうですか。そうでしょうとも」

 すると、ただ事実を指摘したに過ぎないあたしたちと女神様に向かって、風ちゃんは両手に抱えた糸巻きメル変っ子たちをぽいぽい投げ付け始めました。わたた。もう、またそういう酷いことしてっ。もっと生きものを慈しまんかー。

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