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第40回(なんにも穿かずに失礼してます・その7)

 ふぬっ!? さみゅーにはまったく似つかわしくない鋼の意志の発露と膨張、一瞬遅れて大きく腰を引いていたテンが遂に念願の一の槍を突き始め、息を呑む気配・さぁ見届けるぞ、息を呑む気配・信じ難さに、息を呑む気配・好奇の目を見開いて、息を呑む気配・えっ、あんたそうだったん!? “ふぁーいぶ”・じゃん、“ふぉー”・じゃん、“すりー”・じゃん、“とぅー”・じゃぁん、“ぅわん”・じゃじゃん、ドゴゴゴゴゴゴ… “テンダバーズ・アー・ゴ” っ

「…!」

 どこかで何かが閉じる音がしたのです、同時にぼくっと低く、何か密なものが折れた感じの音も。要領を得ない変化はそれだけじゃありません、やはり時を同じくして、テンの振る舞いまでが一変したのでした。まるで高電圧に弾き飛ばされたみたいです、テンの一の槍がさみゅーに届いたかと見えた瞬間、彼はあれほど執心していたさみゅーから不自然にも全力で飛び離れてしまったのでした。口は限界まで大きく開けられ、上あごにきつく押し上げられた皮膚は深い皺の波となって両眼を飲み込んでしまっている、その恐怖に歪みきった表情を見るだけで、彼の喉は今この瞬間にも激しく震えたい、しかし完膚無きまでに凍らされてしまっているのだと、なんだかうそ寒く理解されてしまいます。テンの体が枯れ葉の絨毯の上に落ち、乾いた音を立てます。その衝撃で舌の拘束が解けたのか、どうにも切羽詰まった叫びが、切れ切れになって森に響き渡ります。テンはとても手が付けられそうにない勢いで身を捩り、枯れ葉の上を転げ回っています。ごろごろがさがさ。あっ。彼は土の道の端っこの方へ、これは自然公園内に散策用の遊歩道として整えられたもので、一方は彼が駆け下りてきた斜面、もう一方は更なる下り斜面になっていて、あんまりそっちに寄ると落ちるから、落。呆然と見送った者たちの目には、“しぇー” を連想させるポーズが焼き付いたかも知れません。そんな感じの姿勢で最後の一転がりをして、テンは枯れ藪の中へ、こちらの下り斜面にも高木の下草として丈低い草が密に生えているのですが、その中へ落ち込んで姿は見えなくなってしまいました。枯れ藪の揺れが徐々に斜面を下っていきます、これだけ密な藪なら直ぐにも引っ掛かって止まりそうなものですが、今も続く切ない叫びを忙しない小鳥のように周囲に舞わせながら、がさがさがさがさ…やがて本当に不意にです、ふつっと静かになってしまいました。…やだ。なんなのこの行く末を暗示させるような退場の仕方、恐いじゃないのよ。ちょっと小動物、あんたなにやったの。なにやったんだか知んないけどあんたの仕業なんでしょ、まさか始末しちゃったとか。ここってば一応自然保護区よね、そんな場所で野生動物に手をかけちゃうってのはどうなのよ。

「心配ないんだな…右だか左だか、彼の曲がりがちょっときつくなったってだけの話で…別に、命に関わることではないんだな…」

 さみゅーは身を起こしながら請け合いますが、ふぅやれやれ、よっこいしょ、さも大儀そうな呟きも同時に聞こえてきちゃあな。そもそもその在り方自体がうさんくさいとゆーに、誠意は更に希薄になるばかりだな。

「さて、ここであいつに迫られたのは計算外だったけど…状況を、これ以上はないくらいうまく使えたのも、また確かなんだな…」

 そう言うと小動物は風ちゃんに流し目を、それはもう嫌らしく媚びた眼差しを風ちゃんに向けたのです。ぐぬぁ。なにこのホントにヤな感覚。否応もなく嫌な自分と対面させられたみたいな。この感覚はやっぱり女どもには共通だったのか、リンちゃんと姐御さんが反射的に、ほぼ同時に動きました。あんな邪な視線を風ちゃんに受け止めさせたら一大事とばかり、左右から風ちゃんの顔を背けさせようと手を伸ばしたのです。ごっ。かくて二人の手は揃ってやや下方から風ちゃんのほっぺをきつく挟み込み、重々しい音を立てて風ちゃんの首は伸びたのでした。細い三日月型に歪められたその目から辛うじて見て取れるに、風ちゃん白目剝いたみたいだから所期の目的は果たしたよ。グッジョブ、そば屋に座る女二人。今回ばかりは戦友と呼ばせて貰うよ。

「風ちゃんにボクの愛を如何に認めさせるか…疑問を差し挟む余地無く、劇的に、以後恒久的に…その念願が、遂にここで成就したんだな…」

「一体何のことだ」

 なんか小動物が一匹で気色悪く盛り上がってるところに、風ちゃんが冷静に突っ込みます。風ちゃん…! そんな決然と、口から鼻から血をぼたぼたこぼすほどの覚悟を決めて、この厚かましい小動物を拒否してくれるなんて。ああ、いけない。いけないわ。わたしたちまでなんだか体が熱く。はしたない。んっ。

「ま、風ちゃんはやっぱりにぶちんで…やっぱりボクに、最後までやらすんだな…」

「…うっ。なんだこの血は。いつの間にこんなんなった」

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