第33回(図書館の彼女と魔性少女・その16)
「なんじゃそら」
怪好。
「ぬぁ!? お、俺をその二文字で、きき記述するなと言ってるだろうっ!」
だぁーってリンちゃんだってメル変だもん。それならメル変の王に懸想…う~、なんか言ってるそばから口ん中がいがいがしてきた、とにかくリンちゃんだってあたしたちのライバルだし油断できないし。
「俺はただ、あの居候のせいでこれ以上我が家に残念な噂が立って欲しくないだけだ」
「なら、私の評判にも責任を持ってもらおうか」
「うひょっ」
素振りに疲労を滲ませ椅子に腰を下ろしかけた風ちゃんだったけど、いきなり体の何処かから奇声を突発させ、その反作用で弾かれたみたいに飛び上がりました。あれ、姐御さんいつお戻りに。風ちゃんが腰を下ろそうとしていた椅子にはいつの間にやら姐御さんがどっかと腰掛けていて、無防備な背中に急に声をかけられたもんだから風ちゃん驚いてカウンターの上まで跳ねたのです。それにしても姐御さんの行動の速やかにして大胆、かつ静かすぎること、先程報告書を書いていた時のなんだか内股でぎこちなかった様子からは段違いです。気分転換に顔を洗ってきたとのことですから、リフレッシュして本来の調子を取り戻したんでしょうね。
「何だよ姐御! 姐御にまでふざけられちゃ…」
「いんや、真面目な話」
実際、人としては些か非常識な仕方で席に戻ってきた姐御さんではありますが、態度自体は真面目そのものです。風ちゃんもそれを感じ取ったのか、姐御さんの二次非常識に備え向こうを向いたまま片膝をつき、首だけ捻って抗議する警戒の態度を改めて、きちんと姐御さんと向かい合い、ちょんとカウンターの上に正座をしました。
「なんでございましょう」
「だから、さっきの話の続きだよ」
「何の話だっけ?」
椅子に腰掛けてる姐御さんは、上目遣いに非難の意を風ちゃんに投げ付けます。
「リンちゃんが来る前にしてた話だよ。お前、私を何かに分類しただろ」
「あー…蒸し返すんだ、その話」
風ちゃんは呆れ混じりの溜息をそっとつくと、頭だけ動かして背後の書棚へ振り返りました。そこには借り出す本を選ぶため、書棚の間をどこかふわふわした足取りで歩き回るリンちゃんの姿があるのです。今は1冊のハードカバーを手に丁度品定めをしているところですね、血で隈取りされた顔は夢見るように蕩け、きゅっと閉じられた両膝はもじもじ、これはちょっと報告書を書いてた時の姐御さんと仕草が重なるかなぁ、頻りに擦り合わされています。風ちゃん今度は盛大に溜息ついた。そしてそっと、詩妖の娘から顔を背けます。
「つ・わ~」
姐御さんが椅子に座り、風ちゃんが一段高いカウンターに正座している両者の位置関係から、姐御さんの目前には風ちゃんの膝小僧が二つ揃っているのです。顔を姐御さんに向け直すなり両目を閉じ、そのまま黙想に沈み込んでしまったかの如き風ちゃんに対して、姐御さんは “つ” で閉じた指先を風ちゃんの膝小僧に軽く当て、“わ~” で軽く接触させたまます~っと開いたのでした。うっ。描写してるだけでくすぐったい。
「あにすっだ」
咄嗟に悪戯する手を払おうとした風ちゃんですが、姐御さんの逃げの方がずっと速いのです。
「お前が急に黙っちゃうから悪いんだろ。ほれほれ、観念してさっさと白状せい」
「あい分かった」
再び風ちゃんの膝をくすぐろうと右手を伸ばしかけていた姐御さんなのですが、返事と同時に見返してきた風ちゃんの目が思い掛けず真剣だったからか、思わず動きを止めてしまいます。更に風ちゃんの不意打ち。中途半端に伸びかかっていた姐御さんの右手を、何を思ったか両手でしっかりと包み込んでしまったのです。
「な、なんだよ」
普段からの胆力があってもさすがにこれは意外だったのでしょう、珍しくうろたえる姐御さんに向かい、風ちゃんは至極真剣な眼差しのまま続けます。
「姐御が何であろうと何でもいい。とにかくまともな、今のままの姐御であるならば」
風ちゃん姐御さんの手を握りしめ、瞳を覗き込みながら切々と訴えた。対して姐御さんはひえっと仰け反り、暫くの間口をぱくぱくさせて。
「…」
ぽっと。やがて、可愛らしく頬を染めたのです。……って。ちょ




