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第18回(図書館の彼女と魔性少女・その1)

 日々着々と進行している卦好家の引っ越し準備を密着レポートしていくに当たりまして、けれど密着と言うからにはやっぱり淡々と引っ越しのことだけをお伝えするのでは掘り下げ方が足りないかなぁと、ボクら言ってみればインディペンデンス系の報道組織は独立系故に読者本位の考え方をするのでありまする。ここはやっぱり物事の背景とかまでもお伝えして事象の多角立体的伝達に努めなくちゃだよね。ここでは引っ越しという行為の背景にある一景物として経済活動を取り上げてみることにいたしませう。今回の風ちゃんのお引っ越しの場合、公道敷設に伴うやむをえない引っ越しなのでありまして土地代に引っ越し費用や旧宅の取り壊し費用諸々含めてお上から補償が出ている訳ですが、それでも新居にて生活を始め続けていくとあれば何かと物入りでありましてそれは自前でやるしかございません。頑張れボクらの大黒柱風ちゃん。風ちゃんも生活の糧としておのが微弱な電流に支配された有機質を元手にサラリーを頂く人でありまして、ある私鉄の最寄り駅からみっつほど行って次に路線バスに半刻ほど、最後は歩いて3分って所にある小さな、まぁ蔵書数が8万点ぐらいだって言うから小さな方だよね、築20年の公立図書館で日頃より精勤しているのでありまする。おお、今のご時世労働市場にて益々誘蛾灯の如く妖しく輝くブランド・公務員。ではなくって、世の中不思議なことは多々あれど、自治体職員でないはずの風ちゃんが公立図書館で働いてるってのも人の世の複雑怪奇さって奴ですかねぇ。人間はボクらメル変っ子から見ると時折とても器用です、例えば人の体を真っ二つに切り分けるみたいなことを平然と成し遂げて大丈夫生きてける、問題無い訳ですから。ここで人の体に喩えたのは、何らかのお仕事のことです。人というのは幾つかの有用な器官の集まりではあるけれど、それらを切り分けてしまっては言うまでもなく命がありませんネ。同じ様に仕事というものも幾つかの独立した手順・段階に分解することは可能ですが、かと言ってそれらのどれかを取り去ってしまっては仕事全体としては成り立たなくなります。成り立たなくなるはずです。けど人間は仕事を切り分けてるよね。風ちゃんが働いている公立図書館で言えば、ボクたちが図書館に行った時に目にできる部分の仕事、例えば本とかを貸し出してくれるのがそうだし返ってきた物を棚に戻すのとかもそうだよね、そういう部分と、目に出来ない部分の仕事、これは図書館に置く本を選んだりとか行事を企画したりとかになるのかな、そういう部分とで切り分けられてるって風ちゃんが言ってたよ。でね、そう聞いて咄嗟に思い付いたことを尋ねたの、本を選んだり図書館の催しを企画したりとかは図書館を使ってる人のことを知ってなくちゃできないと思うけど、なんでその部分が図書館に来た人のことを直接知り得る、貸し出しの機会とかと切り離されてるのって。したら風ちゃんにたまには鋭い事を言うって褒められ、ううん違うの、風ちゃんに言われるのだったらボクらはなんだって萌えちゃうの。う。過ぎし日のメモリーに萌え。古い樹が接ぎ木によって再び萌えるが如く二度萌え。けどね、そうやって勢いを取り戻した樹は、どれだけ元通りの一本の樹に見えてもやっぱり完全なひとつではなくって、もしかしたらぎりぎりで上手く一本の樹木として再出発できただけの、不安定な在り方をしているのかも知れません。公立図書館の仕事を大雑把に二つに分けて、利用者と直接触れ合う部分は民間に委託、もう一方は引き続き自治体職員が管理していきますよって決めて、改めて二つを継ぎ合わせて一本の図書館業務に戻すようなことも、考えの上では上手くいきそうな気がするけど、やっぱりそれも表面的な安定なのかも知れませんネ。とまれ風ちゃんは一民間企業の社員なのではありますけれど、その会社が自治体や大学とかの図書館運営主体から業務の一部を任され、必要な人員を送り込むなどが商売なので、公務員でもないのに公の施設で働けているのでありました。んむー、やっぱり人間のやることはヤヤコシイ。だってね、今言ったみたいに本来の受け持つ範囲を曖昧にするだけでも分かりづらいのに、そうやって曖昧にすると何故かお金の節約になるとも言うんだもの。風ちゃん言ってたよ、自治体が業務の一部を民間に投げるのは経費削減のためだって。どの辺りが節約なのか具体的に嫌らしく言っちゃうとお給料で、風ちゃんたちのそれは自治体の人と比べたらうんと安いんだって。なんでなのなんでなのー。だって働く人が公務員から普通の会社の人に変わっただけじゃない、やらなくちゃいけない仕事そのものは変わってないはずなのに、なんで貰えるお礼に差が出なきゃなんないのー? あのね、風ちゃんが勤める会社は図書館のお仕事の一部を請け負うけれど、お仕事のやり方自体はこうやってくださいって自治体から事細かく指示されてるって聞いたよ。そんなら、任される仕事は既に自治体によって磨き上げられて、無駄なお金が出るような部分は予め削ぎ落とされてるはずだよね。わざわざお給料削らなくたって経費削減とやらはもう達成されてるはずだよね、よねっ。それなのに、ああそれなのにそれなのに、風ちゃんはドナドナしてるらしいの。この理不尽な様相に燃えっ! 燃えるんだけど、ボクらの大黒柱風ちゃんは背中で語って反論を許しません。くっ。ならボクらだって、そんな漢の背中を黙って見守り続けるしかねぇじゃございやせんか。じっと背を見る。ふ、風ちゃんのおっきな背中。後ろからそっと羽交い締めにして、疲れたあなたを癒やし尽くしてあげたい。では。いざっ。とりゃー、すりすり。

「ぬぁ! こぞって首筋とかにへばり付くな、暑っ苦っしい!」

 こ、これは。愛しい人の体臭は麻薬、とは聞き及んでいたけんども、我ら今ここでその主張を真実と認めたり。風ちゃん由来の分泌物と彼の肌に住まう諸菌類の生命活動の所産とが天衣無縫に混ざり合う、まさに一期一会の嗅覚法悦。おうっ。すーはーくんかくんか。

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