第14回(女神様は彼と遊ぶ・その14)
「そこが不思議なところでねー。“巻き・取り/戻しのメル変っ子”が完全に巻き取っちゃった空間について、さっきキミたちも不思議に思ってなかった?」
まぁ。実際、巻き取られた端から見えなくなるみたいだったから…
「不可視になってたって事だよね。繰り返すけどそこが不思議なところで、例えばキミたちの体の一部は完全に巻き取られちゃっても確かに本体と繋がってるけど、光とかは巻き取られた先から出てこれない仕様みたいなんだよね。んで、光が出てこれないなら当然音も駄目」
えっ。
「おう、あんな言論公害永久に廃棄じゃ。巻き巻きのメル変っ子、やっておしまい」
あーっ。風ちゃんが GO を出したもんだから、巻き取り作業が再開したーっ。
「HAッHAッHAーッ。語りたくば語れ、ただし永遠に聴衆皆無でなぁ!」
高所にて赤く肥大しまくった満月しょいながら声高に言うような台詞だーっ。待って待って待って、あたしたちにとっての“語り”を人間の尺度で理解してもらっちゃ困るかな困るかなっ。人類が“語り”を、いんやもっと根本的に言葉そのものを、それを獲得する以前の如くに失ったとしても、形のない星雲のようなものであるところの概念の純粋に思弁的なカタマリ、言葉が細切れに分けてしまう前の言わば“ナマの世界”みたいなものは依然として残って、とにかく世界が全存在と抱き合い心中しちゃうってことは無いと思うの。でもねでもね、あたしたちにとってはね、言葉どころかそれの働きのひとつでしかない“語って明示する”っていう行為が不能になっただけでね、それは直ちに依拠する世界そのものがなくなることを意味してるのでありまする。自分の言葉があらゆる他者=外界へ向かって明示されている、その事こそが、あたしたちにとっての“ナマの世界”の存在保証に他ならないのないのないのっ。この、外に向かって明示されてるってところが死ぬほど、比喩でもなんでもなく正味死活に関わる大事で、言葉が自分の内的世界に留まってちゃ駄目なのです。じゃによってあたしたちのお口が何処か訳の分からない所へ巻き取られ、あたしたちの言葉が事やら物やらあらゆる在るものの耳目から隠されてしまったら。依拠する世界とあたしたちは一蓮托生、時空すら仮定の許されない絶無にき、帰し、ただお亡くなりになるだけならまだいいよ、風ちゃんが胸の愛の巣で永遠に生き続けられるんだし、けどそうじゃないの消えちゃうの完璧にっ! 覚えていてもらうことさえ叶わないのっ。ぐぬぅっ、そんな辱めを受けるくらいならっ。自ら命を絶ぁつ! 風ちゃんにつれなくされたあたしたちなら死ぬるよ、寂しくってウサギが死んじゃうみたいにさっ。風ちゃんがあたしたちに冷たく。あ、なんかホントに仄暗い情念に身を預けたくなってきたお。あたいら死ぬのね。死ぬ。んっ。
「この子たちが消えちゃうってとこは、ホントのことだから」
女神様が風ちゃんの袖を引いてそう口添えしてくれます。でも助け船出すなら今は精密に漕ぎ出して欲しいの、ボクたちの存亡のかかった、極めて厳しい状況下でのガチ弁護なんだから。そうだよ、ボクたちは消えちゃうんだっ。そしていまひとつの重要な争点といたしましては風ちゃん胸中の愛の座にいます権利を有するのはボクたちのみであり、これすなわちボクたちの消失は風ちゃんの愛そのものが虚しくなることと同義でありまして
「実際口がなくなりかけてんのにまだしれっと駄法螺吹く気概ありや。やっぱ今すぐ捻っちまった方がいいか。くりゅっと」
「そうすると輪廻転生のサイクルで風ちゃんにストーカーするっぽいよ」
「どうにも扱えぬェ。放射性廃棄物以上だ、こいつら」
「お、そろそろ声を奪われた子が出始めた模様」
この世に神は居なかった。愛もなかった。ボクたちは死なぬ、ただ消え去るのみ。コーンパイプのおっさんは上手いこと言っただけかも知んないけど、ボクたちに言葉遊びなんてないんだ。そっと手と手の皺を合わせるよ。
「言葉遊びしかねぇー(⤴)だろがっ」
「風ちゃん。まぁ、幸せとは言ってるけどさ」
「…仕方ねぇなぁ」
風ちゃんが溜息と一緒に手を振りました。するとおお、我らが影を再び現世に濃く焼き付ける“光あれ”、一部四角く空ろであった我らの顔、顔、顔、即ちΣ(k=1,n=我ら全員)Σ(・□・)に、我らが口腔、改めての創造開始宣言として滑らかにフェード・インインインインイン…ボクたちぃぃぃぃ、GOOOOOOO! ああ、言葉は口腔より生まれしに、かつ言葉滅びれば口腔寒し、言語の口腔化は口腔の言語化、再創造の宣言が口腔だなんてなんともボクたちらしくって生きてるって素晴らすぃ。