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第12回(女神様は彼と遊ぶ・その12)

「そのまんま。その子たちを芯にして巻かれてるんだよ」

 女神様はそう言って、風ちゃんが行こうとしていた先の空間を団結して巻き取り、今は巻き止めているらしい糸巻きたちを指さします。いやそのまんまって。だってこの巻き取り、見た感じでは空間と一緒にその範囲に含まれてたあらゆるものも巻き取ってるみたいじゃん。先ず気になるのはそこなのよ。

「巻き取られた先で、元通りに存在してるはずだよ」

 例えば誰かの頭の一部だけがうっかり巻き取られちゃったりとか、そんな場合は?

「さっきエレちゃんも風ちゃんも、何ともなかったよね?」

 ふーむ。断層みたいにずれても繋がってはいる訳か。

「おいやめろ。もうとっくに人間が知らなくったってむしろおっけーな領域なんだ。これ以上は掘り下げるな」

 人類は、特に風ちゃんは、メル変者の多様性もターゲットにすべきだと思うの。

「その前に俺の人権を慈しんでくれ」

 でさ、女神様。もう一つ気になることがあるんだけど。

「うにゅ。風ちゃんにありのままのみんなを愛してもらおう」

 きゅん。じゃ、じゃあ聞くけどさ。女神様や風ちゃんのお顔の一部が抜き取られたのを見て思ったんだけど、この糸巻きたちに巻き取られる空間って引っ張られて伸びるって感じではなさそうじゃん。むしろレンガ積みの全体から、一つのレンガをすこんと抜き取ってきました、みたいなイメージ?

「引かれる時と戻される時の空間は剛体のイメージでいいのかもしんないね。それがなんで巻き取り可能なのか、その辺はまだ研究の余地ありだけど」

 それじゃ“全体空間”というレンガ積み全体から“部分空間”とゆーひとつのレンガを抜き取った後には、一体何が残るの? 巻かれようとしてる空間が伸びてでも“その場”に残るんだったら、まだ分かるような気がするんだけど。

「空間から空間を引き去る、然らばのちに何が残るか。ふひひ、優れて哲学的な問題だねい」

 う。風ちゃんの言う通り、掘り下げなかった方が良かったのかしら。

「いやいや。エレちゃんも知んないから」

 生ける形而上学なのに?

「んーなんて言い表せばよいかは知らぬ、ってことなんだけどね。けどまぁ、そんな空間から空間を引き去った後に残る“何か”なんて訳分かんないもの、そもそも分かんないんだから何でもありの何か、とでも思っとけばいいんじゃないの? 実際、体験してみてもそんな感じだったし」

「体験した…だと?」

 ちょっと前から意識的に我関せずって態度でお部屋の片付けを再開していた風ちゃんだったけど、やっぱりメル変者たちへの隠しきれない興味を吐露してくれたね。エレ様やあたしたちが一斉に見るとぱっと目を逸らしちゃって。そんな今のは俺の腹の虫の世迷い言だ、みたいな照れを背中で語らなくってもさ。分かってるからこっち向いて。

「俺の何が。何が分かってるというのだ」

「風ちゃんも色々自省したいことあるんだろうけど、今の話で我関せずってのはちょっと違うよ。風ちゃんどえりゃーことしとったんよ」

 あの缶缶との押しくらまんじゅうのことだと推測しますた。

「あの徒労がこの空間を巻くとかいうけったいなメル変どもの仕業だったことは全く遺憾ながら理解してやりましたが、それが何か」

「ここで思い出そう。最初、エレちゃんは何処にいたっけ?」

「何処って、確か自分の部屋に…」

 そうだよ、風ちゃん。女神様は最初、風ちゃんが缶缶を押す方とは正反対の自分のお部屋にいたんだよね。でもこのお部屋に闖入してきた時は、あの缶缶が作った穴って言うのかな、とにかく缶缶の進む方へ先回りしてから来たみたいだったよ?

「全ては皆、地球が丸いから出来たことだよ」

「は?」

 ぞくぞくっ。またなんか凄い無茶聞けそう。

「だからぁ。風ちゃんがあんまりムキになって缶缶を押し続けるもんだから、“巻き・取り/戻しのメル変っ子”たちが地球をほぼ一周して空間巻いちゃったんだってば。あの時エレちゃんが自分のお部屋にいなくてだぁれも気付いてなかったら、あとちょっとで風ちゃん自身が巻かれる所だったんだよ?」

 かくかっくーん。さっきよりも盛大に風ちゃんの顎がおっこちました。ん。あたしたちもかなりびっくりしたかもしんない。だって地球一周の距離缶缶を押し続けちゃう意地って。確かにどえりゃーよ。今が神話の時代なら、そうじゃなくても目の前に女神様が居たりしてなんだけど、とにかく神と戦える巨人だよっ風ちゃんは。

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