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第1回(女神様は彼と遊ぶ・その1)

 今からするのは良くあるお話。

 当たり前には無いかも知れないけれど、誰もが思い描ける事だから、有り得なくないのはあなたも保証済み。

 おk?


 で、今はまだ余白のこの場所にとにかく何か描くべき対象を持ち込まなければ何も始まらないのだけれど、いじり出しの初めならやっぱり風ちゃん、卦好風太(けよし・ふうた)って名前だから仲良しの大体からそう呼ばれている男子を、先ずは引っ張ってこなくちゃだよね。風ちゃんはこの国の首都にある、北の堺にほど近いって事だけははっきりしてるんだけど、その東部なのか西部なのかはイマイチ分かりづらく、なおかつ隣県との境が複雑に入り組んでいる辺りなものだから、良くお隣の県に属すると間違われる微妙な市に住んでるよ。その市は平成の大合併で2市がくっついて、くっついたところで小さなままだし昼間人口の方がずっと少ないのも相変わらずって聞くけれど、結果的に市庁舎は2つある事になって、その一方のほど近くに風ちゃんの住む築25年のお家があるのでした。

 うーん。お家はあったのでしたって言う方が、よりしっくりするのかな。と言うのはですね、その築25年のお家が今度できる道路に引っ掛かってしまうとかで、風ちゃんは別の新しいお家に引っ越す事になっているのでした。ご両親が遺してくれたこの古いお家を整理しなくちゃならないってなってから、風ちゃんも色々大変だったみたい。何せ急だし、風ちゃんも若いから(20代後半に入ったばかりですって)まだまだいろんな人の手助けが必要なのは仕方がないよね。けれど、その必要な手助けを身近な仲良しから提供してもらって、風ちゃんは補償金だけで遂になかなかのお家を新築してしまうのでした。すごいね、ぱちぱち。てな訳で、ただでさえ忙しい師走に入ったばかりの今日この頃、風ちゃんの旧宅では引っ越し作業が盛んなのでありました。新しい年を、丁度新しいお家で迎えられる事がはっきりしたのです。一人で家一軒の荷物をまとめるなんてとうてい無理だから、ここでも仲良しが一緒だよ。その仲間の事も追い追い話そうと思うけど、今はもうちょっと、風ちゃんの事を見てみようかな。

 風ちゃん、風ちゃーん。あれ、さっきはお台所にいたのにな。引っ越しの準備が盛んって言っても取り掛かってからは日が浅いから、この辺りはまだとっちらかってないんだね。でも、なんせ25年以上も人が暮らしてきたお家だもん、最後の方にはここもきっとまとめた荷物で一杯になるんだろうなぁ。そんな事を思いつつ、風ちゃんの姿を求めてお家の中を彷徨い始めます。

 トイレ(がちゃっ)おふろ(がららっ)。道中変態女子ごっこをしながらうろうろしていると、風ちゃんを風ちゃんのお部屋で発見しました。押し入れを開けて中から収納物を引っ張り出しています。そっか、お台所とか共同の生活の場は後回しにして、先に各自の部屋から手をつけていくんだね。風ちゃんが押し入れの中に積み上がった重そうな段ボール箱の1つを中腰で外へ出そうとして、顔を真っ赤にしています。それ、本が詰まった箱でしょ。

 大きく開け放たれた押し入れは、久々の空気と光を深呼吸。額に汗を浮かべて腰を屈めた風ちゃんの出入りにうっとりとして自身の全てをさらけ出すようです。普段はあんまり意識しないけれど、押し入れの中っていうのも実はかなりのプライベート空間だよね。なんかちょっと体温上がってきたよ。もじもじしながらも、ついつい横目で風ちゃんのプライベート空間を探ってしまいます。もしかしなくても男子独り遊び用の本とか。いやさもしかして、男子独り寝用のお人形さんとかとか♪

「…」

 若干肩を震わせつつ、風ちゃんは重たい段ボール箱を床に置きました。箱を開けて中身を取り出し、眺めてはこっち、あるいはそっちと床の上に出していきます。そんな感じで、どうやら床の上は二つの領域に分けられているようですネ。持っていく物と捨てる物の区別でもしてるのかな。

 風ちゃんも押し入れから出した物を丁寧に床に積み上げ直しているけれど、その山の大きさと押し入れの中にまだ残っている物の量とを見比べて、人事だけどわたしたちなんだか心配になってきます。だって床もそろそろ足の踏み場が無くなってきてて、風ちゃんの今のお部屋は4畳半だとしてもさ(新居では6畳だって。出世だね)、押し入れの中身はまだあんまし減ってない感じなんだよ? 積もり積もった25年っていうのは結構重いはずだけど、風ちゃんその辺りちゃんと計算してないのかな。

 見上げていると風ちゃん何やら思案顔です。贔屓目じゃなくてもこういう時の表情は結構イケてます。わたしたちもわたしたち以外の仲良しも無心なものが好きなのです。他に人気が高いのは、生きもの好きな風ちゃんが生きもの番組を見ていたり、庭に来たスズメとかに気付いて眼を細めたりする時かなぁ。そんな時は大概風ちゃんも素だからね。

「…」

 よしっ!

「…」

 わかった!

 左の掌をぽんと打ち、打った右手をびしっと立てて風ちゃんがアピールしました。そして床に綺麗に積み上げていた物を、せっせと崩して床に広げ始めます。当然本当に足の踏み場が無くなります。それでも風ちゃんは物と物とのほんのちょっぴりの隙間に足をそっと差し入れ、指先で床に手をつき、絶対に重ね置きしないようにして各物品を床に並べていきます。なんていうか、徹底的整理の前の完全なる状況把握を目的として、一度全物品を一望の下に置くことを意図しているかのようですが、風ちゃんの性格から言うと多分そうです。でも両足を広げて踏ん張り、腰を思い切りねじ曲げて手を伸ばしたりしている今の風ちゃんを見ていると、名前は知らないけどなんかこんなゲームがあったよねって思います。それ用のシートの上にいる人が、指示された場所にしか手や足を置いちゃいけなくて、指示されて動いてる間にだんだんあられもない格好になっていくやつ。ふふふ。風ちゃん、右手はそこの隙間。くくく。左足はもっと扇情的にそっち。ひ、ひひひ。

 ぴっ。

 状況:【意識対象自動修正シーケンス起動】

 動作:意識対象をマイコントローラーから本来の対象物へ復旧します

 注記:本シーケンスはステルスモードで動作します

 注記:語り手の事情を鑑み、若干の記憶修正を同時に行います

 結果:正常終了

 つまり風ちゃんは、25年という歳月をかけて自室の押し入れの中に構築してきた歴史的高集積を、今一度床の上に、しかもこの一瞬で再構築しようとしていたのですが、今見たらホントにそうなってました。いやさ、むしろ押し入れの中よりも更に密度高く要る物と要らない物とがまとめられ、それらの二山からは何やらうっすら引力が、だってなんか鉛直線に沿って立ってられないんだよ? 丁度重力を加えた3つの力の合力を考えるとこの微妙な傾ぎ具合も上手く説明できる感じ。風ちゃんってたまにこういう人間っぽくない事をするから、ボクたちや他の仲良しのハートを余計にきゅっと摑むのです。

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