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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
8/24

第6話<お買い物>

「それじゃあ、まず市に行きましょう。野菜なんかは朝のうちに買わないと」

「荷物になるけど、往復するの?」

「この街にも家があるって言ったでしょ。一旦そこに置いておいて用事を済ませましょう」


 フランとハジメの二人は朝からこのマリヴェーラの街に来ていた。この街はサルクノーレ王国内でも比較的大きな街で、フランの拠点にもなっている。フランは街の中に一つ家を買っていて、依頼などで街に泊まる際はこの家を拠点にしているようだ。


「そういえばそんなことを言っていたかも」

「納得したなら市に行きましょう。荷物は持ってもらうからね」

「了解です」


 マリヴェーラの市は街の西側にある大きな広場で開かれていた。この場所には三日に一度、市が開かれる。そこには新鮮な野菜や町の外で獲れた肉の他に、街の中で開いている商店なども様々なものを販売している。

 それぞれの店は商品が無くなるか夕方近くになると店を仕舞う為、朝から昼に掛けて、一番の賑わいを見せる。


「そういえば、何か欲しい食材があるとか言っていたわね」

「あー。でもフランは聞いたこと無いんでしょ?」

「聞いた事は無いけど、見てみればいいんじゃない? 私が見落としていただけかもしれないし、穀物なら収穫の時期だし麦でも買ってパンでも作ってみれば?」

「フランはパンの作り方知ってる?」

「……麦粉と水を混ぜるんじゃない?」

「……知らないんだ」


 フランもパンの作り方を知らないらしい。ずっと市やお店で買っていたため仕方が無いのだ。


「自分で作る必要が無いからね」


(パンには確かイースト……酵母が必要だった気がするがこの世界ではどうなっているのだろう)


 ハジメも小麦粉にイーストと水を入れて混ぜて寝かす位の事しか知らない。


(砂糖なんかも入れるんだったかな)


 先ず酵母を作る必要があるが、果物やヨーグルトで作れると聞いたことがあったような無かったような気がするハジメ。米でも作れたような気もするが、お酒だっただろうか。


(実験するしかないか?)


「小麦粉は売ってるのかな?」

「さあ、あるんじゃない?」

「よかった」


 小麦粉が無かったら粉引きからしないといけないところだった。

 適当に野菜と果物、肉なんかを買ってついでに酵母用に小瓶もフランに買ってもらった。お茶の葉も売っていたので一緒に購入した。ハジメはお茶が趣味で、コーヒーは苦手で気持ち悪くなるためあまり飲まないようにしていた。

 市での食料品買出しを終え、一旦フランの家二号に向かう。二号さんは街の東側、つまり市の反対側にあるため、大量の荷物を抱えて街の中を横断することになった。

 街の西側は街の人間の住居が多く、街の東側には宿屋や商店、ギルドなどが集まっていて、拠点としては近くて丁度いい。北は富裕層が集まっており領主の屋敷なども北側にあるようだ。

 フランの家は東区の南よりにあり、周りは商店が数件と市民の住居がある程度だった。購入当時は元々お店だったらしく、かなり良い物件に見える。

 使用していないときは魔力を貯めた魔導具で結界を張って他人が進入できないようにしている。ただ、中には殆どなにも置いていないため入られたとしても特に害は無いようだ。


「次は魔導具か、服ね。魔導具は東側にあるし、服は中央に近いところだったかな? 先ずは服から買いましょうか。私のローブじゃ不恰好だわ」


 今ハジメが着ているのはフランのローブである。フランより背が高いハジメには若干丈が足りなかったらしい。ローブというものを着たことが無かったハジメは特に気にしていなく、コートみたいな感覚で身に付けていた。どうやらフランの基準では許されなかったらしい。


 服屋に着くとフランはローブを物色し始めた。ハジメはフランに言われて普段身に付けるための服を見ることになった。店内には街で良く見かけるようなズボンや服が並んでいた。

 洋服屋でバイトをしていたハジメとしては若干不満に感じつつも、出来るだけ違和感の無いものを幾つか選んでいった。

 暫くすると、フランが幾つかローブを持って近づいてきた。まっすぐ立つように言われ、前方から若干色の違うものを掲げて眺められた。一通り確認すると何も言わずに一着をハジメに渡し、戻って行った。ハジメの意見を聞くつもりは無いようだ。


「店主。これだけお願い」

「ありがとうございます。……合計で三二〇〇エルドです」


(三二〇〇エルド……三万二千円くらいか。高いのか安いのか。)


 フランは小金貨三枚と銀貨二枚を支払い店を後にした。その場でフランは、ハジメに買ったばかりのローブを身に着けさせると、自分もローブを身に着けた。

 ハジメは髪と眼の色を変えていたが、念のため、ローブについているフードを被っていた。黒髪と黒目はすごく目立つということで、出発前にフランに変えられていた。


「それじゃ、後は発動具ね。……ハジメは何か武器が使えるの?」

「? 一応剣術を習っていたけど、実戦で使えるかは分からないよ」

「それなら、剣を持つことも考えて指輪か腕輪の発動具がいいかしら」


 発動具について話しながら、魔導具を売っているお店に向かう。店内に入ると壁に備え付けられた棚やテーブルの上に様々な物が並べられていた。中には無造作に籠に入れられた杖などもある。


「風か水の発動具はあるかしら。形状は指輪か腕輪のものが良いんだけど」

「風か水ですか? それでしたら……こちらですね。両属性が使えるものになりましたら、今のところこちらの杖しかないですね。腕輪は現在水属性のものしかございません。小さめのもので良いのでしたら耳輪などもございますが?」

「ハジメ。幾つか試してみなさい。サイズが合わないと使えないからね。ピアスなら関係ないから材質や刻印で選んでも良いけれど」

「了解」


 フランに促され幾つか指に填めてみる。填められるものは幾つかあったので指輪にすることにした。ピアスは痛そうなのでハジメは今まで着けた事が無かった。体に穴が一つ増えるのは遠慮したい。

 サイズの合うものからデザインや刻印を基準に選んでいく。結局、水と風の指輪を購入した。風の指輪には今ハジメが填めている無属性の指輪と同じ魔力制御の刻印がしてあるそうだ。水の指輪はサイズを補正する刻印がしてあった。

 風の指輪に填まった魔宝石は他のものより若干大きく、他の属性との複合は風の指輪でする様にフランに進められた。


 魔導具店から家に向かう途中、フランはギルドに寄ると言って別行動をとることになった。クルォルウルフの一件で経過を確認したいらしい。

 フランから借りた鍵を使って家の中に入ると家にあった紅茶を淹れて一息つく。紅茶はキャンディに近く、クセがなく口当たりが良い、結構良い茶葉のようだ。これならいろんな楽しみ方が出来るだろう。

 紅茶に地名で名前をつけることは無いようで、何処産の茶葉か分からないのが難点だ。今日買った紅茶は国内の山地の物なので、もしかしたら同じものかもしれない。遠くから取り寄せたりはしていないだろう。


(紅茶からも酵母は出来るんだよね?)


 紅茶を始めた頃にそんなことを見ていたことを思い出した。果物と一緒に後で試してみる事にしよう。そんなことを考えながらお茶を飲んでいるとフランが帰ってきた。


「おかえり」

「ん、ただいま」

「……どうかした?」


 フランが何か考えているようだったため、気になって聞いてみることにした。紅茶を用意しながらフランに何があったか訊ねる。


「私宛にギルドに依頼が来ていたのよ。断っても良いけど、どうしようかと思って。国外に出るからハジメの意見も聞いておかないと」

「なんで?」

「私が暫く居なくなるからよ。森から街まで遠いし転移もまだ出来ないでしょう? 帰ってくるまでここに居てもいいけど、どうする?」

「直ぐ出るの?」

「明日には出るかしら。転移で近くまでは行くけど、他にも同じ依頼が黒のランクのチームに出ているらしいから、その人たちと一緒に行動することになると思う。直ぐには戻ってこられないかも」

「一緒に行ってみてもいいかな? だめなら転移だけでも覚えて家に居るよ」

「来るのはかまわないけど、あまりすることも無いわよ。私は戦力としてじゃなくて風と水の使い手として呼ばれたんだから。一緒に行動して依頼が済んだら解散。特に面白いことも無いわ」

「風と水の使いてだから呼ばれたの? 他には居なかったのかな?」

「私は転移が出来るからね。少し離れた国だから到着が早いほうが良いらしいわ」

「なるほどね。帰りはゆっくり帰ったりしない?」

「いいけど、どうして?」

「旅ってしたこと無いから。夜営とかやってみたい」

「……その辺で一人ですればいいじゃない」

「そうだけど……」


 なんとなくその辺でするのと、旅をするのでは色々と違う気がするのだ。


「まあいいけどね。それなら他のチームと分かれてからになるかな。ついでに何か依頼を受けてみるのもいいかもね」

「ギルドに登録しないとね」

「そうね。これから向かいましょうか。依頼の返事と一緒に同行することを伝えておきましょう」


 ギルドに向かってさっさと登録をして昼を何処かで摂ろうという事になった。ハジメは少し前からの魔術の弟子で、同じ属性をもつフランに上級魔術や複合魔術を学んでいる、という設定らしい。弟子が居るからと言って返事を待ってもらっているようだ。


 フランの家からギルドまでは直ぐ近くで、体感で二、三分ほどだった。

 冒険者ギルドの中はテーブルが並び、ちらほらと冒険者らしい人が座っていた。フランは真直ぐカウンターに向かい、そこにいた女性に話しかけた。


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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